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孤児のTS転生  作者: シキ
孤児と愚者の英雄譚
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外壁の上で見た高原よりも視界が狭く感じざるおえない建物が雑多に建て並ぶスラムへと降りて道を歩く。

先程薙ぎ倒し今もなお痛みに悶える大人を踏みつけながらスラムから平和な街へと出た。

そんな平和を歩いている中で異様な光景を見た。


「こんな所で布教…ねぇ」


いつか見たあの獣人族っぽい格好をした神官が街で布教をしていた。

こんな所でやるなんて命知らずの馬鹿か阿呆ぐらいしかいない。

というか衛兵にあの時通報されて連れて行かれたはずだから普通なら牢屋か街の外にでもいるはずなんだが…。


私が考えすぎたのか?

思ったよりも少しこの国は神官に対して寛容なのだろうか?


「底辺に蔓延る愚かな我々『人』に『光神』様は必ず微笑み祝福をしてくださります!さぁ今すぐ我々と共に行きましょう『光神』様の元へ!」


その言葉を繰り返し言い放ち手に持つ鈴のついた錫杖を地に撃ち鳴らす。

神官の周りを囲む獣人族達は嘲笑いながら手を組みその愚かさに血管を浮かせている。

だが誰一人としてその言葉に意見を言わずただ目は睨むようにして立っている。


そんな光景に目を惹かれ私は地に置いてあった箱に腰を下ろし事の顛末を観察しようとした時遠くからゾロゾロと衛兵の集団が此方へとやってくる姿が見えた。

鎖を手に持ちそれには宗教勧誘を行う神官と同じように獣の一部を付け足した愚かしい者どもが繋がれている。


「おや…もうお時間ですかね?」


勧誘を行う神官がそう言うと共に衛兵が神官を押し倒して鎖を巻き付ける。

そうしてあっさりと神官は捕まり連れてかれる。

野次馬と化していた獣人族達も次第に怒りを鎮め帰っていく。


喧騒でありながらも静まった場にある街より耳が前の世界より良くなったせいか色んな話が聞こえてくる。

それは神官を睨み続け話を聞き続けその言葉に苛立ち衛兵がくるのが遅いと曰う老人達の話し声。

またそれは昔を知らず国を知らず何故あの者達が連れ去られたのかを知りたがる幼き子供と親との話し声。


そしてその静まりはあっという間に喧騒へと変わり行く。

合わせるようにして私も立ち上がると歩き出した。


騒がしく声が耳に響いてくる街を抜け比較的静かな断崖を掘り作られた城へと入っていく。

全くこれだけ中身を掘り抜かれておいて何故崩れないのか不明だ。

だが天井に見える色鮮やかな鉱石は綺麗だと感じる。


途中で何人かの貴族の親子が通り過ぎて行く。

確かこの親睦会みたいな行事は明日が本番みたいな感じだったはずだ。

今日が気軽に遊べる最後の日というわけなのだろう。

明日が終わればまた皆それぞれの領地へと戻り仕事をしなければならないだろうから。


遠ざかって行く親子の方へ振り返る。

…まぁ何も思うことは無いが頭がモヤモヤすると同時に不意に「いいな」という思っても無いような言葉を呟いた。


また脚を前に出して歩き出す…まぁ今日は後何もすることがないから割り当てられている部屋でゴロゴロするくらいだ。

なんなら魔術の研究とかしてれば時間を潰せる。


「そういえばワイバーンのアレの加工もしなくちゃなぁ…」


ワイバーンから取れたドラゴンハートこと心臓と黄土色の宝玉。

ドラゴンハートはそのまま食べれば魔力多量摂取により苦痛を感じながら死ぬという童話にもなっている話が存在する。

だからこそこのままでは使えない。


宝玉は…何に使えるのかすらわからない。

そもそも変異した個体のなんの結晶がこうやって宝玉化したのかすらわからないから使いようがない。

とりあえず石や火に叩きつけたり高温に晒しても傷や溶けすらしないことは確認済みだ。


そうやって悩みながら歩いていると人の声が聞こえた。

廊下の奥から巡回中の兵士が歩いてきている。


「そういやここ数日で聖国の侵入者が多くねぇか?」


「んぁ?あぁ…そうだな確かに変装すらお粗末な侵入者が多いな。どっかの国のお貴族様が密入国を手伝っているって話だ…噂になってんぜ?」


「ッチィ…全くそりゃ迷惑な話だな」


そう言い私の横を通り過ぎて行く。

通り過ぎると同時に舌打ちをしたが…まぁおそらくそれは私が人族だからなのだろう。

血気盛んな奴が多い獣人族だからこうやって舌打ちだけで済むなら問題ない。

中には偶々苛立ったからって拳を振るう奴もいるからな。


そうして今日も朝起きた寝床としている部屋へと辿り着く。

扉を開け中を見る…アルキアンはまだ帰ってきていない。

まだあのこの国の騎士長の娘とやらの相手をしているのだろうか?


ここは断崖の中に作られた部屋だから部屋は真っ暗だ。

言ってしまえば洞窟の中だから火すら使えない為光の魔道具を使い灯を灯す。

戻ってきた形跡は無い…やはりまだ結婚するのかしないのかの話を今もなおしているのだろう。


「はぁ…こんなん止めだ。さっさと作業に取り掛かろう」


虚空庫の中から刃が折れたり欠けたりしている愛用していたナイフそれと数枚の紙と羽根ペンを取り出して机に向かう。


このまま買い込んだ武器を駆使して戦うのも一興だがやはり使い慣れた武器というのが一番だ。

刃はもう使いようが無いが持ち手のグリップならまだ使える。

紙に使う魔術や加工方法を書き出してどうにかしてもう一度使えるようにと頭をひねる。


時間は過ぎて行きただゴミのような設計図のみが積もって行く。

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