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ガタンゴトンと音だけを立て馬車は少し揺れる…目の前には穏やかな風靡くような青々とした草原では無く本の山。
馬車なのに本を見続けているせいで少し気持ち悪くなりながら目の前の本を読み続ける。
横では当主様、そして前には私と同じく本を先ほどまで読んで今はダウンしている傲慢ではなくレギスタ王。
…昨日のこの馬鹿な王様と戦った事はまだ良かったのだが興に乗って『星涙炎』を使ったのが不味かった。
アレのせいで舞台周辺の櫓やテーブルまで火の粉が付き燃え出してしまったらしくちょっとした大惨事になったそうだ。
まぁ私とレギスタ王はその時にはもう気絶していたからか覚えてすらないけど。
良かったことといえば誰も怪我人はおらず村にも被害と言えるのは舞台と櫓が燃えたことぐらいだったそうだ。
獣人族というのは王族が絡むと何にでも寛容になるらしく起きた頃には燃やした事に対しては何も言ってこなかった。
それどころか王族と戦い善戦した事による賞賛までくれたほどだ。
…騎士達にも改めて古き今では使う者すら見ない魔術に賞賛の声まで頂いたし魔法使いには今度使い方を教えて欲しいとまで言われた。
だが当主様はこの事に対しては寛容に行くわけにはいかないようでレギスタ獣国の首都として知られるロンフェールに着くまで勉強していろと指名が出された。
しかもレギスタ王と当主様がいるこの空間でだ…レギスタ王はまだ良いとして当主様がいるとなれば話が違ってくる謂わば当主様は依頼主だ。
声ひとつで私のことを解雇できこのどこに行けば街に辿り着くができるのか分からない地形に置いていける存在だ…媚を売らなければ。
「…どうしたレナ殿?コチラを向いて?」
「いえ、当主様はどうかお気になさらず」
私が意識して見続けていたせいで当主様が疑いの目を向けてしまったので短い休憩を終わらせ本に目を通す。
私に手渡された本は主に教養…何故か貴族向けだが。
コレはアレだな…私がこのポンコツ王族のことをぞんざいに扱ったからそれを改めさせるために渡してきたのだろう。
後は魔法についての本だがコレは聖書に近い感じだ。
あまり興味は惹かれないが渡されたからには目を通しておく。
それにしても何故こんなに本を持ち歩いているのだろうか…高価な見た目以上に持ち物が入るアーティファクトのマジックバックに入れてまでさ。
もっと入れるものは他にあっただろうに。
「停止ーッ!一時小休憩とする!」
馬車の外でそんな声が聞こえ馬車が停止すると共に目の前でぐったりとして突っ伏していたはずのレギスタ王が馬車の扉を蹴破り外へと飛び出した。
黒い毛皮を纏い飛び出した獣は空へ咆哮しそして言葉を声に出すッ!
「腹…減ったッ!」
…こうして一緒にいたからこそわかったことがある。
コイツは馬鹿だ。
戦闘面においては天才といえるのだろうが普段の言動が馬鹿すぎる。
自制の自の一文字も無く思った事はすぐに口に出す。
先ほどまでこの馬鹿王に読ませていたのだって道徳の記された本や論文とか帝王学みたいなのが載ってある本だった。
そもそもコイツは文字を読めているのだろうか?
文字読んだ瞬間「うーん?」とか悩んでいたし読めてないってのが真実なんじゃ無いか?
「はぁ…偉大であった前獣王様はどう言ったご教育を成されたのだろうか?」
そんな光景を目の当たりにした当主様は目元を押さえながら蹴破られた扉の前で立ち尽くしていた。
失望されているレギスタ王に私は苦笑しながら目の前にある本に目を向けた。
本をどかすと下には上等な紙が出てきた…コレに私は先程まで本を読んでた傍らで並行して考えていた理想の魔術を書き連ねていく。
ここでは空想を作ることができる場所…やはり魔術は最高だ!
「……はぁ」
横では何故か当主様がまたため息を吐いていた。
あの傲慢野郎はどこまで当主様に迷惑をかけ続けるのだろう?
いっそのこと自分の足で走って帰れば良いのにと思ってしまう私なのであった。
「…もっと他のことに目を向けても良いんじゃないか…なぁ我が息子よ」
…少女達移動中…
そんなこんなありながら私達はレギスタ獣国の首都ロンフェールへと辿り着くことができた。
ロンフェールには家が建ち並びその奥には大きな崖が聳え立っている。
この横にいるレギスタ王が住む所謂王城ってのはどうやら大きな崖をくり抜かれて作られた所にあるらしい。
「フフフ…ようやく帰ってきたぞーッ!勇者王の帰還だァァァッ!」
本を読みながらロンフェールの景色を眺めているとレギスタ王は突然立ち上がり馬が地をまだ走っているのにも関わらずまたしても馬車の扉を蹴破ると外へ出るとその足でロンフェールへと走り去った。
…その脚力があるなら馬車に乗る必要なかったんじゃ無いかと思うぐらいなんだが。
「あぁまた扉が…」
木片転がる馬車内で当主様がまた休憩時の時出した情けない声を出しながら目を瞑った。
修繕費がかさんだ為こうやって当主様も頭を悩ませているのだろう…休憩するごとに扉が壊されるし食事も要求される。
やはりアイツなんて傲慢野郎で十分だ…王なんて似合わない。
私達はそんな傲慢に付き合わされながらもレギスタ獣国の中心へと今度こそたどり着いたのだった。




