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私の魔術である『恒星ノ礫』が宙を飛びそれを傲慢野郎は次々に交わしていく。
勢いを無くし地にめり込む礫やそのまま奥の方へと消えていく礫が見え礫は燃え盛る灯りへと成った。
「おいおい…こんな緩い攻撃じゃ俺の毛皮すら燃えねぇぜ?」
そう言いながら自分の爪を左右に振り自分は余裕がある振る舞いをする。
まぁ実際に獣の身体能力と洞察力があるからこその余裕なのだろう。
黒の毛皮を纏う獣となったアイツが使ってくるのは今のところ闇夜に紛れての奇襲と突進…そして腕を振るうだけで飛んでくる衝撃波。
こう思考している内に傲慢野郎の姿は消え闇夜へ混ざる。
時折り視界の端に黒い何かが通り過ぎているから恐らく私を囲うように移動しているのだろう。
不安を誘うように…近づいては遠のくを繰り返し。
「ここだァッ!」
そう息巻いて私へと突進してくる…が当たるギリギリで進路を変更し横へとズレる。
私をおちょくる様にわざと口にしながら攻撃をする…まぁその突進して発生する衝撃波も私にとっちゃかなりヤバめな攻撃なのだが。
虚空庫からとりあえず長い棒を手にする。
とりあえず取り出したはいいが確かコレは伸び縮みする棒だったか?
魔力を身体に巡らせ持っている棒すら身体の一部であると錯覚する。
私が使えるのは戦闘術…ならば何が得物でも応用は効く。
棒の先に神経を集める様に魔力を注ぎ留める。
身体の魔力は高速で体内を駆け巡らせ身体能力の真髄を引き出す。
空気中の魔素と名付けられた青の粒子は赫く輝きを見せ周囲を照らす。
その光に闇は消え去り傲慢野郎の姿が目に映った。
傲慢野郎は口を歪ませ笑いまたしても突進をかましてくる。
今度は進路を変えず爪を振り下ろす。
「漸く真っ向からの撃ち合いかぁ?受けて立つぜェッ!」
足を半歩後ろに下げ避けると共に風が衝撃波となり襲ってくる。
体勢を攻撃に転じたことによって前身が前のめりになったところに棒を突き上げ首筋を狙うが鈍い音を鳴らすだけで終わる。
コイツの皮膚や骨は鉄でできているのだろうかと思ってしまうほど手応えが無い。
だがその顔は痛みを顰める表情が浮かんだ。
何の生き物だろうと空気が通る首は弱点なのだろう。
こいつも例外なく人型であるからこそ人に通じる攻撃は弱点になる。
そうして避けた爪は空気を掴み横へと薙ぎ払われる。
私は小さい身体を駆使し棒で傲慢野郎の脇腹を突きながら背後へと回る。
前方は…そりゃ大惨事だ。
ココだからこそ分かる暴風が吹き荒れた。
一瞬の出来事だが横を通る時に見せていた傲慢野郎の顔は先ほどの様な口元を笑わせる顔ではなく全ての顔のパーツが中心へと集まった仏像の様な怒り顔へと形を変えていた。
私の攻撃が届いたから怒ったのだろうか…それだったら。
「アルキアンの憤怒より憤怒してるな…お前」
「な、何だとこの小娘がぁッ!」
振り返り様に先程とは反対の手で勢いつけて私を殺そうと爪を振りかぶる。
…今の今までは自分に攻撃が効かないから余裕ぶっていたがいざこうやって手が着く。
僅かながらこの場で私にも勝算があるのではと呟く声が獣人側から聞こえた。
つまりは支配から1人脱したのだ。
1人また1人とその声は次第に大きくなる。
独壇場だったはずが同じ舞台に突然と現れた悪役となってたはずの人物がキーだったようにコアはファンが声を上げる。
傲慢の支配から1人抜けたからこそ敏感になり攻撃してくる。
主役の座を奪われ自分に集中しなくなる…それがコイツが恐れることなのだろう。
支配に置いた人数分強くなる集団行動と弱肉強食を兼ね備えた正に獣の勇者と言える力だ。
同等の立場…それが許せない。
自分よりも目立つやつ今までいなかったんだろう…何せ王様だからな。
嫉妬や憤怒も兼ね備え上に立つ貴族、いや王族のプライドがあるからこそ皆を守る傲慢の力。
それに自ら支配されているからこそ扱いやすい。
確かに攻撃はヤバいが怒りで単調になっている。
傲慢は憤怒に支配されないが同時に支配できない…コントロールも出来ない。
傲慢は傲慢にだけ支配される。
自分の攻撃が1番今の行動が1番良い選択だと思っているからこその行動しかできない。
大罪というのは本当に愚か者が背負う業なのだ。
名乗ればその感情が出やすいことを言う事になるし他の感情を普通に持つ。
人より数段上の能力は持てるし英雄にもなれるが人間性や感情なんかは普通より数段劣る。
「こんのォォ…ぶっ飛べッ!勇気ある獅子の一撃『ブレイブインパクト』ッ!」
「我流戦闘術初ノ術『崩撃』!」
振り返り様にその大きな爪で攻撃しようとしてくる…爪は空気の魔素を集めその者の願う一撃を光と共に作り出す。
私もそれに倣い集めた魔力と共に崩撃を当てる。
瞬間周囲には途轍もない衝撃波のぶつかりが起き轟音を響かせる。
土は舞いさらけ出された地層は割れる。
この状況…不利なのは私だ。
何せ身長が低いから上を見上げ棒を突き出している状態に対してあっちは下に殴りつけるようにする。
コレじゃあ力の入り用が違ってくる。
だからこその起死回生の一手を加える。
私は棒の先に集めた魔力に向かって最大限まで体内で循環させ身体強化に使っていた純化をさせた魔力をぶつける。
今までやってきたことは唯の魔力の道を作る手段…ココからは攻めに転じる。
空気中の赫く染まった魔素の粒子と棒の先の純度の高い魔力が混合した事によってより高いエネルギーを生み出している暴走化した魔力が共鳴する。
明らか棒の先に光が集まりコレから何かしようしているのが丸わかりだろう。
『崩撃』は衝撃波による広範囲を守り攻撃する意思の元、『緋槍』は自ら必滅者と定めた1人の全てを貫く意志の元、『神風脚』は全てを置き去りし移動する意思の元作り出した。
ならば私はいま必要な手を今ココで作り出す。
全てを斬り伏せる大技?
…いいや今必要なのは敵を押し退けるそんな技だ。
傲慢なプライドを下すのだ…こんな小柄な小娘に押されるなんて他の人が見たら滑稽だろう?
「続けて参ノ術『盲震』ッ…」
私はそっと身体の力を抜いた。
振り下ろされた衝撃波を纏う体躯と大爪は棒を押し重力に従い私へと降り落ちてくる。




