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孤児のTS転生  作者: シキ
孤児と大罪を背負う英雄
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クトゥルゥと思われる奴は空間を文字通り破りながら魚面の王女が向かった方向へと移動していく。

それと同時に味方の攻撃で身体にトライデントやらが刺さったり鱗が剥がれた魚人族が海へ落ちていく…泳ぎはしないただついていくように歩いていく。


残ったのはクトゥルゥの意志とやらで動けなくなりその場にうずくまる奴らとそのクトゥルゥの意志を跳ね除け戦おうと奮起する奴ら。

その者達もクトゥルゥの後を追い孤島を目指して泳いでいく。


海では爆破が起こり津波が街を襲う。

意思を跳ね除ける魚人族が移動するクトゥルゥに向かって攻撃し海に落ちる…ある者は水中を歩く操られた者を撃ち抜く。

正に海は戦場に成り果てた。


海を覗くと透明な水は赤く染まり海を汚す。

操られた者は攻撃で死んだように地に伏せたかと思うとふと目を離すと身から離れた肉が蠢きクトゥルゥについていくように一人でに移動を始める。

それはあの神殿の地下で見た肉塊に似ている。


アンデットでもなければゴーストでもない。

その身体には魂すら込められてない。

正に図書館でちらっと見た昔の死霊大戦を実際に見ているように思えた。

アレは規格外の力を持ったリッチがアンデットを率いて国を襲ったんだったか?


「う、あぁぁァァッ!来るなッ!来るんじゃねぇッ!」

「おいッ!攻撃するんじゃねぇってお前は俺らの味方だろ!?何で攻撃するんだッ!」


そんなこんなで傍観を決め込んでいると海に沈んでいた肉塊が浮かび生者を求めるように蠢いていた。

その肉塊は生者に張り付くと薄くなりその生者の身体を包み込み操る。

海にいる魚人族からすれば信頼している同族から攻撃されるってのは悪夢そのものだろう。


身体を操るってだけでその意思は生者そのもの。

発声は後悔を生み行動は裏切りを生んでいく。

抗おうとすれば水飛沫が上がり身体は沈む。

沈んだ肉塊は水面の音に導かれるようにそこに集まり今か今かと生者が沈むのを待つ。


死者は生者を羨む…そのため攻撃してくるってのは誰の言葉だったか?

その言葉の通り死者と成り果てた肉塊は生者である魚人族を襲う。


海にいる魚人族は二つに分かれた…一つはどう足掻いてでもクトゥルゥに近づこうとする者。

もう一つは死にたくない為慌てて陸に上がろうと死に物狂いに足掻く者。

慌てると肉塊が集まりクトゥルゥに近づこうとしても海底より今か今かと沈めと語りかけるように何処か欠損した魚人族が集まっていく。


同族を殺してしまった末路というべきか…。

この国の昔からある禁令に同族殺しは重罪とあったがこういうことがあったからこそなのだろうか?


「さて…そろそろ傍観は止めだな…魔法陣展開『飛翔』」


自らに魔法陣を展開し空へと舞い上がり移動を始める。

海を滑ると魚人族が「お前マジか」と見るかのように驚きを見せてくる。

まぁ…そんなことどうでもいいと私は更にスピードを上げる。


だがそもそも魚人族の泳ぎでも追いつけないスピードで移動しているのだからクトゥルゥとの距離はどんどん離れていく。

視界の奥には豆粒ぐらいの孤島が映る…そうして空を飛ぶこと数分後に声が響く。


『貴様か?$°#☆+〆の秘術を使用した愚者は…大いなる偉大な力を扱った代償を払ってもらおう』


ここからでもわかるほどの威圧感と共に空は曇ったかと思うと晴れて空は宙をみせる。

空に穴が開いたようだった…見事に周りに散った雲からは黒い雨が降り注ぎ青い海をここからでも分かる黒に染める。

私のように魔法陣で魔力によって天候を操るのではなく空気を吸うように雲を手で掴みそれを加工して雨雲を生み出す…それは正に神の所業に見えた。


『代償として…貴様何やら奇妙な力を持っているな?それとそこにいる民を貰うとしよう』


宇宙から長く太い触手が一本…二本と降りてくる。

割れた空間からも無数に細い触手がはみ出てきて海を叩く。


私もその内に孤島の近くに辿り着き船の上にいる魚面の女王を見るとその顔は真っ赤に染まっていた。

正に恋人を見つめるように見えたが何処か卑屈になっている陰りも見えた。


「あぁ…貴方こそアタクシの白馬の王子様ぁ…どうかぁどうか民ではなくアタクシを連れてってくださいませ」


透き通るような声が海に響く。

スピーカーやマイクすら持ってないのにその声は拡声器を使ったように響き渡り先ほどまであった魚人族の悲鳴や海を叩く音は無音に変わった。

そうして音は響く…『パプー…パプー』という汽笛は近くまで来ているように爆音になり白い霧は海を覆う。


『ならばその願い叶えてやろう…代償の契約は成され「ちょっと待てッ!その契約は破棄させてもらうぞッ!」』


契約が成されようとしたその時声が届く。

その声の元は魚面の王女の隣から…その神官の姿をした老いた魚人は王女の口を手で塞ぎその触手の前に立った。


「その契約…待って貰おうか…ワタシが、ワタシこそがこの王女を貰うのだからなッ!」


そう言い放つとその老いた神官の足元から水が溢れそれは槍や剣と形を変え周囲にいた仲間であるはずの魚人族を切り裂く。

その狂気に当てられ王女は動けなくなりクトゥルゥは怒り狂ったように声にならない悍ましい声を上げた。


「さぁフィナーレと行こう…なぁに簡単な話だよ王女が奪われたらワタシの負けで王女を守ればワタシの勝ち…この場の最終幕まで行けた者が勝者だ」


未だ汽笛は鳴り響く。

それは還りを知らす船のように。

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