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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆6章 竜人の里へ! ~賢者の旅と新たなる仲間たち (本格クエスト編)
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 涙

 自分の脳内で考えたイメージを衆目の元に晒す――。

 これは一歩間違えば公開処刑、賢者終了のお知らせになりかねない危険な行為だ。

 先ほども危うくレントミア妄想シーンが流れてしまい、危うく放送事故になりかけた。


 とはいえ俺の新魔法『映像次元変換術式(ディメンジョン・ガゾン)』は、竜人(ドラグゥン)達の関心と視線を集めているのは確かなようだ。


「すごい、これが賢者さまの魔法か!」「英雄たちも凛々しい姿だ……」


 神殿のやや壁よりの空間に投影された「画面」の中では、魔法使いレントミア、僧侶マニュフェルノ、戦士ファリアが、空の彼方に視線を向けてキリリとした顔つきで並び立つ。

 さらに左右からイオラとリオラが現れて、それぞれ剣と拳を勢いよく振るった後に、背中合わせで並び立った。

 ♪フン、フフフーン、フッフフン♪

 俺の「鼻歌」を変換した音楽とも相まって、かなり素敵なオープニング映像だ。


「イオ! 私達! わたしたちだよっ!?」「お、おぉリオ! 凄ぇ! 賢者すげぇ!」


 イオラとリオラの熱い反応が、俺のクリエイター魂を更に後押しする。


 神経節に接続した魔力糸(マギワイヤー)を通じ、脳内妄想を特殊な自律駆動術式(アクリプト)で画像変換し、二次元の「アニメ」のように映しているのだが、元の世界に居た頃、授業中や昼休みによく一人で考えていた妄想がこんな所で役に立つとは思わなかった。


 竜人達のほうを眺めると、全員が漏れなく真剣に見入ってくれている。老若男女が目を丸くして、初めての「音と映像」の洪水の虜になっている。

 ――と、

 そこで画面が突然暗くなり、暗雲が立ち込めて雷鳴が轟いた。

 暗雲と暗黒のオーラの向うに黒いシルエットの人物達がそそり立ち、雷鳴がその姿を照らし出す。それは極悪顔の四天王、竜人(ドラグゥン)の里を襲った四天王そのものだった。


「うわぁ!?」「あ、あいつらだ!」「きゃぁあっ!?」

「皆様ご心配なく! これは『絵』です。彼らを写した絵に過ぎません」

「あ、あぁ……」


 長老と古老達、そして他の竜人達の動揺は先ほどではない。高い知能を持つ彼らは、これが「賢者の気持ちを代弁した物語」であることを理解してくれている。

 俺はそのまま映像を続行する。


 プラムが涙を浮かべながら必死に手を伸ばす。「俺」も何かを叫びながら手を伸ばすが、互いの指先は届きそうで……届かない。プラムはそのまま「闇」に飲まれてしまう。


「あぁ!?」「きゃぁあ!」「大変だ!」

 画面を見つめていた竜人達が悲鳴をあげる。思わず立ち上がり叫ぶ者さえ居る。


 そこで俺は次々に短いカット割で大きな文字列と、画像を交互に映してゆく。


 『救え――』


 爆炎の向うから、額から血を流しつつも歯を食いしばって立ち上がる、賢者。


 『少女を――』


 闇の底で、祈るような面持ちで涙を零す美少女、プラム。


 『竜人の里を――!』


 百体を超える土人形が押し寄せて竜人の里を飲み込んでゆく、映像。

 ワンカットだけヘムペローザがすっ転ぶお笑いシーン。お笑い担当だ。


「にょっ!? おにょれ賢者!」


 表示されている字幕は、俺の言葉を「翻訳魔法(ヤクトゥス)」で竜人達が使う文字に変えてある。更に、イオラたちが常用するティティヲの言葉のルビが振ってある親切設計だ。

 テンポのいい映像の迫力と緊迫感に、竜人達はもちろん、イオラとリオラ、レントミアさえも息もつかせぬといった顔で食い入るように身を乗り出す。


 『迫る――命の限界点(リミット)


 プラムが暗闇の呪いで苦しみ、病に倒れる「イメージ」映像。


 『救えるのは、――奇跡の力を持つ伝説の種族、竜人(ドラグゥン)達――』


「グゲハハハ! 竜人(ドラグゥン)共は俺達が支配するウゥ!」

「俺達が……そんな事は許さないッ!」


 哄笑する四天王たちに、敢然と立ち向かうイオラとリオラ、そしてディカマランの英雄達。最後に、侵略にも決して屈しない凛とした顔つきの竜人達が映し出されてゆく。


「おぉ!?」「俺達もいるぞ!」「俺はたたかうぞー!」


 『闘え――――、強大な敵と、迫り来る運命と!』


 ♪フッ! ハハン! フッ、フゥン!♪


 力強い音楽(鼻歌)と共に、戦士たちが闇に立ち向かう。


 暗闇の中から現れた四天王が狂気に歪んだ表情で、灼熱の光線を何本も撃ち放つ。

 「俺」は光線をねじ曲げて逸らし、さらに空中へと飛翔すると、ガキガキと屈折しながら追跡してくる赤い光線を、空中で舞うような機動を見せながら華麗に避けていく。


「あ! 危ない賢者さま!」「なんて速いんだ!?」「賢者さま、凄い!」


 背後で円形の爆発が次々に炸裂するが、俺は超機動で空中を逃げ切り、最後に画面アップで不敵に微笑んでみせる。

 会場からどよめきと拍手が沸き起こった。


「グ……ググレ、飛べたっけ?」

「可能。人は夢の中では、自由に……飛べる」


 レントミアとマニュフェルノが達観したような顔で、穏やかな笑みをこぼす。


 画面の中では、他の戦士たちも四天王とそれぞれ超絶バトルを繰り広げてゆく。

 それぞれワンカットのみだが、レントミアは凄い勢いの円環魔法(サイクロア)を放ち、マニュは「祈り」のシーンから何だかよくわからない光を放つ。

 

 イオラとリオラは剣を振るう四天王と「スクロールする背景」の中央で激しくつばぜり合いを演じる。ギィン! ガギィン! と剣と拳がぶつかる度に、火花と衝撃波が辺りを吹き飛ばす。


 「がんばれー!」「まけるなー!」と、竜人の子供達から真剣な声が飛ぶ。


 最後はファリアが大きく戦斧をふりかぶり、筋肉の塊のような大男と、斧と拳で激しくぶつかり合う。画面一杯に顔同士がガッ! と左右から激突したところで画面は爆発光に包まれて真っ白に――。


 『闘え、勇者達! 救え――少女(プラム)の命を! 偉大なる種族、竜人(ドラグゥン)族を!』


 拍手と口笛が神殿の中で響き渡った。


 そこで映像は俺がプラムとすごした日々のイメージへと切り替わってゆく。


「あ、あれ……?」

 だが――俺の意思に反して、違う映像が流れ、止まらない。


 プラムが部屋に駆け込んで来て、俺を揺さぶる。起きてくださいよーググレさまー! と笑う少女の顔を俺は見上げている、そんな記憶の中の映像だ。


 花の咲く庭で、チョウを追いかけて転ぶのを俺はやれやれと眺めている。

 シチューで口の周りを真っ白にしたプラムの顔を、俺は苦笑しながら拭いてやる。

 暗い夜が怖いと、寝床にもぐりこんでくるプラムに困りながらも、俺はその頭をそっと撫でてやる。

 そんな、なんのことはない、ごく普通の……日の事だ。


「どうして……止まらないんだ……」


 プラムが初めて見る外の世界に、瞳を輝かせて俺を質問攻めにする。呆れ果て、けれども心の底では少し楽しいと思っている自分。

 小さな手をしっかりと握り、メタノシュタツトの雑踏を歩いた日の事、黒い肌の新しい友達が出来て、やがて学舎に通い始めた日のことを。

 制服で駆け出した小さな後姿を見送りながら、世界が少しづつ広がっていくのを見守る俺が――そこに居た。


「ググレさまー! プラムはとっても、とっても、楽しかったのですよー?」


 小さな手が俺の腕をぎゅっと掴んだ。

 ハッと俺は振り返り、傍らのプラムに視線を向ける。

 緋色の瞳に紅い髪、映像とは違う本物の小さな少女(プラム)が微笑んでいた。


「『アニメェション』のおはなしも、旅の馬車も温泉も! イオ兄ィや、リオ姉ぇ、レントミアちゃんとマニュさんと、ヘムペロちゃんと、えっと……、その、みんな、すごく楽しかったのですー……!」


 えへ、と白い八重歯を覗かせたその顔が、視界の向うで歪んだ。

 ぽたり、と足元に水滴が零れる。


 ――――涙?


 なんだ、俺は……泣いているのか。


「ググレさまは凄いですよー! 怖いお化けにも絶対、ぜったい負けないのですー! これからもずっと沢山、みんなと楽しい旅をしたいのです! …………? どうして、泣くのですかー……?」


 ぺた、と温かい手のひらが俺の両頬を包んだ。


 映像はそこで途切れた。

 画面は砂嵐に切り替わり、やがて小さく縮小し、消えていく。

 静まりかえった室内に、俺の短い嗚咽が響いた。

 

「プラムを……助けて……ください」


 祈りと呻きのような、掠れた声で、俺はガクリと膝を付いた。魔法力と精神力を想像以上に消耗し、立っていられなかったのだ。

「ググレ!?」「賢者!?」「ググレさまー!?」

 みんなが俺に駆け寄り支える。

 ――と。


「血など……血などいくらでもくれてやるわぁああ!」

「ワシじゃ! ワシの血を全部、全部くれてやるぞぇ!」


 叫んだのは、強行に反対していた古老達だった。

 ぬぁあああ! と叫んで上半身の服を引きちぎり立ち上がる。見れば涙を滝のように流し、鼻水もダラダラと垂らしている。なんて……顔だよ。

 「古老さまじゃ死んじゃいます!」「ここは私が!」と、竜人達が我も我もと手を上げてくれた。


「これじゃ、涙腺(ティア)破壊(ブレイカー)だよ……。これが、ググレの魔法なんだね」

 レントミアがぽろりと真珠のような涙を零して、俺の肩をにそっと手を置いた。

 そんな魔法なんて無い。だが、情けないことに泣いたのは俺自身だ。


「ありがとう……みんな、ありがとう」


 俺は何度も呟くように礼をいい、プラムの手を握っているのが精一杯だった。


 <つづく>


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