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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
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 魔女アルベリーナの望み

 動きを止めたヴァビリニアの鉄巨人は、砂漠に忽然と姿を現した緑色の巨大なオブジェの様相を呈していた。

 ヘムペローザの蔓草魔法(シュラブガーデン)をレントミアの円環魔法(サイクロア)で加速圧縮したことで威力が何乗倍にも拡大された結果だが、全高20メルテ以上もある鉄骨の塊は全て蔓草(つるくさ)にビッシリと覆われて、もはや動くことは不可能だろう。

 青々とした蔓草は鉄巨人を包み込んでも尚勢いが衰えず、緑の絨毯のように広がると周囲の砂丘を三つほど飲み込んでようやく止まったようだ。


 今は甘い芳香を漂わせる白い花を一面に咲かせている。花はいつもなら短ければ数秒、長くても数分で枯れて()を作るのだが、今のところその兆候はない。加速されたことで魔法効果の表れ方に変化が生じているのだろうが俺も詳しくは判らない。


「なんだか疲れちゃいました……」

「ぐっさん……、なんだか下半身が湿っぽいんだけど……」


 最大の脅威を無力化できたと判断した俺は、イオラとリオラをスライムの束縛を解除しているところだった。

 リオラとリオラも戦闘から開放されてようやく一息といったところだろう。


「はは、調整無しでいきなり実戦だったからな。でも、おかげで助かったよ、ありがとな」


 俺は二人の頭を撫でようとして……肩に手を置いた。15歳になる二人を子ども扱いするのが気が引けたからだ。

 と、リオラが俺の手を掴んで、自分の頭に乗せた。驚く俺に二人はすこし照れくさそうな笑みを見せる。

「まだ、撫でて欲しいです」

「俺も」

「あ、あぁ! うん、よくやったな!」

 俺は二人の柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でた。 大人と同じ扱いをして欲しいときもあれば 、まだ子供のようにして欲しい時もあるのか……、と俺は一つ学んでしまう。だが、思い返せば自分もそんな頃があったかもしれない。


「賢者ググレカス、戦闘は終結ですね。でも、お一人で私たち全員を相手にしたわけで、なんだかちょっとお気の毒でしたわ……」

 妖精メティウスがすこし後味が悪そうに小首をかしげている。その言葉には憐憫(れんびん)の情が含まれている。視線が向けられた先には緑の巨人がひとり静かに佇んでいた。


「わかっているメティウス。だが、相手は300年も生きてきた魔女だ。あれは魔王とだって対等に渡り合えるレベルの術者だった。俺達全員で戦わなければ勝てっこなかったさ。俺達は全員で一つのパーティだ。良いところや弱点を上手く組み合わせて戦うのが『パーティ』での戦闘なのさ!」


「そう……ですわよね!」


 妖精が納得したようにキラキラと光を散らしてターンしたが、すこし疲れたように俺の肩に降り立った。

「少し、本の中で休んでいてくれよ」

「はい、お言葉に甘えますわ賢者ググレカス」


 今回は、大増殖された兵士の幻から、鉄塔攻略戦に至るまで、メティウスに(ニュー)陸亀(グランタートル)号の基本的な魔法制御系を全て委譲し、俺は戦術情報の分析と指示に集中できた事が大きかった。

 実際の格闘戦闘はセンスのある双子の兄妹に任せることで不利な状況を打破できたし、直接的な大ダメージを与えて無力化したのはエルゴノートとファリアという二枚看板の超絶攻撃力によるものだ。そして敵の制御中枢を直接狙いに行ったのはルゥの俊敏性があってこそだ。


 勿論、マニュフェルノが陰で支えてくれた事も忘れてはいけない。回避率の向上や幸運度をアップしてくれた祝福(フェス)無しでの戦闘は、例えば鉄塔に乗り移ったエルゴノートが足を滑らせて股間を強打する……なんていう目を覆いたくなるような不慮の事故を防いでくれるからだ。


 ――つまり全員での友情・努力・勝利、というわけだ。

 

 今の俺にとっては疲れすらも心地よいものに感じられた。


「ググレさまー! 新しいお友達とお話してきますー」

「あぁ、そうだ。二人には俺が礼を言っていたと伝えてくれ」

「『礼を言っていたと伝えて』ですね? りょうかいなのですー!」


 すたたっと緋色の髪をなびかせて、プラムが馬車の方に駆け寄っていく。

 途中参戦してくれた地元代表魔法使い、バーミラス爺さんとミリカ譲の協力も大きかった。あの凶悪な熱線砲をかい潜って接近できたのは、幻による撹乱ができたからだ。

 

 好奇心の塊のプラムとヘムペローザが、早速二人の元でなにやら話し込んでいる。


「賢者ッス、アルベリーナ姉ぇさんは……?」

「賢者殿……」

 犬耳の少女がすこし悲しげな顔つきで歩み寄ってきた。ルゥも傍らに並んでいる。


「心配するなスピアルノ、ほれ」


 俺は伝説の世界樹(・・・)のように砂漠に出現した緑の塔の頂上を指差す。


 目を凝らすと、魔女アルベリーナは、鉄のゴーレムの一番高い所でツタでぐるぐる巻きにされ、気を失っているのが見えた。

 一人で膨大な魔力を放出し続けたことで最後は錯乱し、力尽きたのだろう。


「し……死んだッスか?」

「まさか。単にスタミナ切れだろう。最後は錯乱していたようだし……な。いくら強力な魔法使いでも一人で戦っていたわけだからな」


 俺とて一人でこの「賢者の館」の維持や隔絶結界の制御、そして格闘戦までを行ったのでは、とてもこなしきれるものではない。おそらくアルベリーナよりも早く魔力切れを起こし、戦闘不能に陥っていただろう。


 だが、魔女が最後に叫んでいた言葉が妙に引っかかっていた。

 それに魔女が指に嵌めていた指輪は、スピアルノにかけられた呪い――ドゥジー・コゥンの呪い――を解くために必要な「対の指輪」のはずだ。


「どれ、みんなは周囲の警戒を続けながら、すこし休んでいてくれ。俺は魔女とご対面をしてくるよ」


 俺は魔力強化外装(マギネティクス)を足腰に励起して、とんとんっと軽快にジャンプしてみた。


「不安。危険ではない?」

「俺も行くぞ、不意打ちもありえるからな」

「ググレ、ボクもいくよ!」


 マニュフェルノが不安を口にすると、エルゴノートとレントミアがすぐに共に行くと名乗りを上げた。

「オ……オラ、姉ぇさんと話がしたいっす!」


 スピアルノもまるで捨てられた子犬のような瞳で訴える。


 だが俺は、全員を静かに手で制し、ここに残るように言う。


「いや、すまないがここは俺一人で行く。危険が消えたわけではないからな」


 レントミアが居ては思い出話に花を咲かせてしまいそうだし、スピアルノは呪いの指輪を嵌めたまま魔女の持つ指輪と近づく事は何が嫌な予感がする。

 エルゴノートは手に持った宝剣を突如奪われて、とんでもない事が起こる……という可能性が捨てきれない。

 このあたりの「想像力」はいろいろな本に書かれた物語を読み漁る事で自然に身についた俺の脳内妄想のようなものだが、いくつかの危険な可能性を排除しておくのは重要なことだ。


 ――ここは俺とアルベリーナが一対一で話すのが得策だ。

 

「ググレ……! だが、せめて少し離れた位置から援護だけはさせてくれ」


 ファリアのエメラルド色の瞳が静かに俺を見つめて訴えた。何かあれば真っ先に駆けつけてやると、すこし日に焼け始めた顔は語っている。


「……わかった。では、ファリアにバックアップに入ってもらおうかな」

「うむ! そうこなくては!」


 砂漠の太陽のような笑顔をみせてファリアが再び斧を担ぎ上げた。


 確かに、魔法使いが最も苦手とする物理的攻撃力(・・・・・・)の大きいファリアなら万が一のバックアップとしては適任だ。戦斧の放つ必殺技は接近戦でも中距離でも有効だからだ。


 マニュフェルノが少し表情を曇らせて見送っているが、心配は要らない。俺は案ずるなと小さく手を振るとファリアと共に館から跳躍した。


「行こうファリア!」

「あぁ!」


 館から飛び降りて、一気に砂漠を飛び跳ねて、緑の蔓草の草原を駆け抜けた。

 そのままの勢いで鉄巨人の胴体に飛びつき、足場を見つけてはぴょんぴょんと跳ねながら昇ってゆく。緑の蔓草で覆いつくされた最上部へ、俺達は辿りついた。


「はぁ、はぁ……俺は……魔力強化外装(マギネティクス)を使ってやっとだが……」


 ファリアは少し息を荒くしているが、差して苦にしている風も無い。銀色の部分鎧だけでも重いのに、大型の斧を背に抱えたまま、20メルテもの高さの鉄塔を跳ね登ってきたのだ。


「ふむ……さすがに少し疲れたが、ググレを御姫様抱(・・・・)っこして登ることぐらいは出来そうだぞ?」

「ははは、よせよ、皆が見ている……」


 みんなの前でファリアに御姫様抱っこなんてされていたら、俺の立場というものが……。


 俺達が立っている場所からぐるりと周囲を見回すと、西の方角の目と鼻の先に半ば崩れた廃墟のようなイスラヴィアの都市が見えた。


 ――あれが……イスラヴィアの王都インクラムドか。


 逆方向に目を転じると「賢者の館」が見えた。館の庭には全員が出揃っていて、水を飲んだりしながらこちらの様子を心配そうに見守っている。


 俺が立っているここは元・鉄巨人の首から肩にかけての部分となる。今は蔓草に覆われた「緑の塔」の最上部だ。幅は10メルテほどで奥行き3メルテほどの「デッキ」のようになっていて、丁度人が立って歩けるほどの広さがある。

 その中央にダークエルフの魔女、アルベリーナが緑の蔓草にぐるぐる巻きにされ、眠っているかのように首をうな垂れていた。


「さて、私はここでいつでもブッ飛ばせるようにしておく。遠慮なく尋問してくれ」


 5メルテほど離れた位置でファリアはズシャッと斧に手をかけて、俺と魔女の対話を見守る構えのようだ。

 

 俺は魔女に近づくと、結界を幾重にも重ね「障壁」を作り出した。更に粘液魔法(スロウドゥ)で疑似スライムを生み出して、魔女の両手を包み込んだ。

 この至近距離で突如攻撃されたり、呪いを放たれたりしては敵わないからだ。


「魔女・シュスヴァルト・アルベリーナ。すこし聞きたいことがあるんだ」


 俺は静かに声をかけながら、戦術情報表示(タクティクス)を展開、術式をすぐに選択できる体制で対話する。

 魔女はうぅ……と唸ると、まぶたをゆっくりと開いた。さらさらと流れ落ちる黒髪の向うから、漆黒の闇のような瞳が俺に向けられる。


「……賢者ググレ……カス。……私は……負けたのかい」


 俺はあたりを見回して小さく肩をすくめて見せた。魔女はフッと僅かに口元を緩めた。


「約束どおり話してくれ、お前の()目的(・・)が何なのか、そして『世界(・・)』のことを何処で知ったのか」


 魔女は這いの奥深くから古い空気を吐き出して、そしてゆっくりと口を開く。


「……私はね……、飽きたんだよ。この世界にね」


「飽きた?」

「297年も生きてきてね、そろそろやりたい事も尽き果てたのさ」

「300年も生きれば、そうだろうな」


 確かにそれはそうだろう。


「だからと言って隣国に物騒な鉄杭を撃ちこんで良いことにはならんだろう?」


「……297歳だ!」

「あ、あぁ? そうだなすまん」

 アルベリーナがカッと目を見開く。眼力ビームでも出すかと思って一瞬腰が引けたが何もでない。どうやら年齢には敏感らしい。たいして変わらんと思うのだが。

 それに、魔力糸(マギワイヤ)で探った限りでは本当に魔力切れのようだ。


「私はねぇ、賢者ググレカス、おまえが知る異世界(・・・)に、行ってみたくなったのさ……」


「――な?」


 魔女の黒い瞳の奥で、妖しげな炎が揺れた。


<つづく>


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