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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆11章 灼熱の砂塵と勇者の逆襲 (ググレカスの大魔法 編)
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★勇者と犬耳少女の来館

「香ばしくて美味しいね!」

「あぁ! これなら一匹丸ごといけるぜ!」


 リオラとイオラがチキンを頬張りながら、ホクホクと幸せそうな顔を見合わせる。


 ファリアがメタノシュタット王都の屋台村で買ってきてくれた土産を、俺達は夕飯代わりにパクついていた。

 若鶏のローストを更に(いぶ)して保存性を高めたものだが、塩味のタレに漬けこんであるのでしっかりとした味わいがある。今日の夕食のメニューはそれと、茹でたジャガイモを潰したもの、それにレントミアの好きな野菜のスープと干した果物だ。


 エルゴノートとルゥが居ないのが寂しいが、エルゴノートは今日も仕事だろう。だがルゥはそろそろ帰ってきてもいい頃なんだがな……。

 以前抱き付かれてトラウマ気味のヘムペロと違って、プラムが実は一番ルゥを気にしている。「ネコの兄ぃさんは帰ってこないのですかー?」と言っていたことを思い出す。

 未亡人マダムとやらに可愛がられているのかもしれないが、居ないと寂しいものだ。


 ――まぁ、明日にでも買物がてら王都に行って見るか……。


「ググレ! なかなかのものだろう? 実はランチではいつもこの屋台で食べていたのだ」

「うん! 屋台の食べ物は美味いなぁ。気取ったレストランよりも俺は好きだし」

「ははは、ググレならそう言うだろうと思ってな」


 ファリアの豪快な食いっぷりは見ていて清々しい。

 運動の後でかなり腹ペコらしく、むっしゃむっしゃとチキンを喰らっていく。よくもまぁ帰り道に我慢したものだと思う。俺はチキンの片足を食えばもう十分だが、ファリアは一匹丸ごと食べる勢いだ。


「賢者ググレカス、私『屋台』でお食事をしてみたかったですわ……」

 俺の肩でメティウスがポツリとささやく。

 妖精のメティウスは食事を取らないが、大勢の食卓を見ているのが好きなのだとか。


「そか、メティウスはお姫様だから庶民の食べ物は無縁だったんだな」

 それに元々足も悪く、城から出歩く事などなかったのだ。


「今度連れていってくださいませ」

「あぁ、いいとも」


 世界を見せてあげる――。というのがメティウスと交わした約束だからだ。海を見せたから今度は屋台村か、それとも砂漠のオアシスか……。


「美味しいのですー!」

「にょぅ、ワシには大きすぎて食べにくいにょ……」


 満面の笑みでダイレクトにチキンに噛り付くプラムと、フォークとナイフを持ったまま困り顔のヘムペロは対照的だ。


「ヘムペロ、俺が小さく切り分けてやるぞ。てか、プラムは直接噛り付くんじゃない!」


「えー? プラムは丸ごとでへーきなのですよー?」

「プラムが平気でも、行儀が悪いと言われちゃうんだよ……」

「賢者にょ、小さめに頼むにょ!」

「あーはいはい」


 口の周りが汚れるのを嫌がる黒髪の少女と、全力で口の周りを脂まみれにしている赤毛の少女を交互に見ながら、俺はため息を漏らす。


「家庭。ググレくんを見ているとやさしい奥さま、って感じね」

「何で俺が妻なんだよ!?」

 うふっと笑うマニュにツッこむのも俺の仕事か。


「総受。ググレ君の素質は、以前から私が見抜いていましたし」

「夕食時に総ウケとか言うんじゃない!」

 すまし顔でメガネを持ち上げてマニュも肉を頬張る。まったく、マニュの桃色頭脳は相変わらず安定稼動(・・・・)だ。


「ググレが誰の奥様(・・)になっても、ボクは『友達』だからへーきだよっ!」

「あぁ……。レントミア。どこからどう突っ込んでいいか分からなくなってきたよ……」

「えへへ。男同士のゆーじょーっていいね」

 にこりと笑って、俺の手にそっと小さな手を重ねるレントミア。


「鼻血。ひさしぶりにでちゃいそう」

「俺は頭痛がしてきたよ……」


 と、賑やかに夕食を食べていると館の周囲に幾重に張り巡らせた「結界」を誰かが踏み越えた気配がした。


「あ?」

「お……?」


 レントミアと俺はいち早くその気配を察する。それはもちろん警告ではなく「歓迎」の気配だ。

 

 ――エルゴノートだ! そして……もう一人は? ルゥか?

 

 俺は馬一頭に重なる二つの気配に首を捻りながら、客人を出迎える為に席を立った。


 ◇


「はっはっは! いやぁググレ、なかなかの逸材(・・)を紹介してくれてありがとう!」

「お、おおぅ……?」


 巨大な白馬、「白王号(ホワイティア)」に跨ってやってきたのはエルゴノートと、例のドジッ娘暗殺者(・・・・)、スピアルノ・レーゼフだった。


 エルゴノートの笑顔が若干引きつっている気がするが、まぁ……無理も無いだろう。


 館に到着した馬が鉄門扉をくぐり、ぶるるんと嘶く。


 浅黒い肌にブロンドの髪、そして碧い瞳に犬耳(・・)の少女が、エルゴノートに背後から抱かれたままペコリと頭を下げる。


「ど……どうもっス」

挿絵(By みてみん)


 バツが悪そうに目を逸らす砂漠の国の娘は、つい先日エルゴノートの命を狙う為に侵入し、呪いの指輪で自爆した娘だ。

 ルゥローニィかと思っていた俺は拍子抜けだ。

 

 てっきりエルゴはこの娘のドジっ娘ぷりに呆れ果て、国に送り返す手続きをしてくれると思って手紙を託したのだが……。


 ――戻ってきてしまったか……。


 俺は半眼で少女を見つめながら溜息をつく。


 背後から好奇心旺盛なプラムとヘムペロがぴょこりと顔を覗かせる。エルゴノートの事が大好きな二人は「はわぁ!」と瞳を輝かせた。


「エルゴさまなのですー!」

「にょぉ! エルゴにょぉお!」

「はっは! ちびっ子たち、元気だったか?」


「元気なのですっ! わ? ネコのルゥ兄ぃさんではないのですー?」

 プラムがスピアルノを見て首を傾げて戸惑うそぶりを見せる。期待していたルゥローニィではなく、半獣人の少女だったからだ。


「あぁ、ルゥのお兄さんは人助けをしていてね、そろそろ帰ってくるとは思うよ」


 エルゴノートが優しく言うのを聞いてプラムも安心したように頷く。

 だが、ヘムペローザを見た途端スピアルノの顔色が変わる。


「にょぉお!? おぬしはこの前の夜這い娘にょ!」

「よっ! 夜這いちがうっス!」


 慌てて反論するスピアルノは見たところ元気な様子ではある。しかし、よく見れば体中傷だらけで、ドジを踏んで転んだりぶつけた跡だろうか。暗殺者だったとはいえ、見た目はルゥと同じ年頃の女の子だ。さすがにすこし不憫に思う。


「スピアルノは呪われているとしか思えないドジっ娘ぷりだなぁ……。ググレの紹介とあって俺の秘書にしてみたが……」

 流石のエルゴノートも、呆れたように肩をすくめる。

「す、す、すみませんっス! ホント、悪気はないんっス!」


 はわはわと目を白黒させて言い訳をするスピアルノ。まぁ、なんとなく何があったかは想像がつくのだが。


「……何があった?」

「うむ……。国宝級(・・・)の壷を3つ、役人の一年の給金と同じ額の名画(・・)を2枚、高級な皿を複数。それと……姫のドレスを真っ二つに壊したり破ったりしたくらいかな」

「う、うわぁ……」

 エルゴノートの憔悴した顔を久しぶりに見た気がするが、流石の俺も青ざめる。いったいどれほどの被害を出したのだろうか? 国を滅ぼしたドジ姫の呪い恐るべしだ。


「まさか……、それで城を追い出されたのか!?」

「ははは、流石に姫がキレたので逃げて来たのさ! と言うのは冗談だが……いや、実は今日の鉄杭(・・)の一件と関連して、例のネオ・イスラヴィアが動き出したんだ」


「なに……?」

「王が俺達に依頼(・・)があるとさ」

 俺は真剣な眼差しになった勇者を見つめる。厄介毎の「におい」しかしないわけだが。


「……聞かなきゃダメか?」

「ま、ここではなんだ、まず中でメシでも食いながらでどうだろう?」


「わっ……オラ、一人で降りれるッス!」

 エルゴノートは馬から軽やかに降り立つと、馬に一人残されたスピアルノを抱かかえて地面へと降ろしてやった。


「どうせ、ドジが発動して顔から落ちるのだろう?」


 ニッと白い歯を見せて微笑む。慈愛を宿した瞳と爽やかな勇者の微笑みを向けられて、心奪われない女性はついぞ見たことが無い。

 それは元暗殺者であっても例外では無いらしい。


「ど、どうもっ……ス」


 顔を真っ赤にして俯く犬耳少女の背中にそっと手を添えて、俺の前で立ち止まる。


「この子も入れて構わないか? ググレカス」


 勇者の真っ直ぐな瞳で見つめられて、俺までついドキリとする。

 呪いを宿した暗殺者を館に入れるのは気が進まないが、エルゴノートの頼みとあらば断わるわけにもいかないだろう。そもそも、危険(・・)なスピアルノをエルゴに押し付けようとしたのは俺なのだ。ツケは戻ってくるのが世の常らしい。


「……あぁ、構わないさ。皆で……夕飯を食べようか」

「はっは! 流石ググレだ!」

「せ、世話になるっス!」


 ペコリと頭を下げる犬耳の少女と、すでに保護者たる雰囲気を漂わせる勇者を俺は館へと招き入れた。


<つづく>


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