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聖女殺しの恋 ―死に戻り悪女が妹聖女のキスで目覚めたら―  作者: 幽八花あかね
【一】五・花と指輪と浴室の聖女

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077. 花と指輪とゲームとお風呂〈4〉


「私はセルジオ殿下を、貴女はアルティエロ殿下を煙たがっ――いえ、ちょっと、おふたりを疑いすぎているかもしれないわね。今の私たちの立場を考えると、もちろん警戒するに越したことはないけれど。

 アルティエロ殿下は、貴女と同じく、ニホンでの前世の記憶を持っている人なのよね。彼について、何か他に知っておいた方が良い情報はある?」

「姉さまのおっしゃる通り、彼は前世でニホン人だったみたいですね。でも、あのオトメゲームのことを知っている〝オフィーリア〟推しの同志ってこと以外には、私も知りません。あんまり良い前世じゃなかったのか、オトメゲーム以外の話はしてくれませんでした」

「なるほどね。おふたりについて、いま私から言える補足情報はないけれど……セルジオ殿下は〝水の勇者〟だから、勇者の魔法について調べておくと、何か役に立つかも。今度レオンにも聞いてみるわ」


 私たちのような癒やしの魔法を操れる女――〝聖女〟が存在するように、この世界には〝勇者〟と呼ばれる男も存在する。火、水、地、風の神に愛されて覚醒した男は、その神が司るものを操る力を得る。


 私の養家であるグラジオラス家の長男坊、義弟のレオンことレオナルドは、火の神に愛されていた。

 十四歳の成人の時に〝素質〟を持つことが判明し、私がイラリアの亡骸とともにリスノワーリュ領地に引きこもっていた間に、覚醒条件を満たして正式な〝炎の勇者〟となった。


 そしてセルジオ殿下もまた水の神に愛され、最近覚醒した〝水の勇者〟なのである。

 どうやら私たち〝聖女姉妹〟の影にうまく隠れて、今は自分への注目を躱しているようだけれど……。


「そういえば、そうでした。レオンくんの勇者の件に加えて、あちらの国にも新しく〝聖女の素質〟を持つ女の子が現れたとのことで、近隣諸国はざわついていますよね。今度の長期休みにでも、グラジオラス家の皆さんには会いたいなぁ」

「ええ、いつか会えたらいいわね。私も貴女をパートナーとして紹介したいもの。まだ調整中だから詳しくは言えないけれど、レオンとは公務で会うこともあるかもしれないわ」

「わー! そうなんですね! えへへ、姉さまからお仕事の匂わせをされると、信頼されてるって感じがして嬉しいです。いい子にしているので、もっと話してくれてもいいですよ!

 あ、それはそうと、私たちは聖女の力のおかげで()()()()とは言え、セルジオ殿下に水魔法で攻撃される可能性があると思うと怖いですね。溺死は苦しそうなので嫌です。

 殿下のこと、あんまり怒らせないようにしないと。――うふふ、お風呂でそんなこと言うと、フラグみたいでさらに嫌ですねぇ」

「私も溺死は嫌よ。今度死ぬ時は……年をとって死にたいわ。刑死も、病死も、もう嫌。殺されるのも嫌」

「姉さまに悲しい死に方は、もう絶対にさせませんよ。今度は安らかに終わりましょう」

「そうね。……あら? 身の安全のための話し合いをしていたのに、どうして死ぬことを前提とした話になってしまったのかしら?」

「セルジオ殿下のせいですよ。あいつの力で溺死させられちゃうかもしれない〜って」

「レオンの力だと焼死かしら。それも嫌ね。恨まれないように気をつけないと」

「ですね。そろそろ死ぬ話から離れましょうか??」


 なんとなく、互いに相手の方を見て、目を合わせて。おかしくなって、くすりと笑う。


 私は彼女に「おいで」と言って、向かい合う形で太ももの上に座らせた。その腰を抱けば、「お返し」と彼女にちゅーされる。


 死の話から漂っていた陰鬱さは、たちまち吹っ飛んだ。


「あ、そうそう。私ね、この機会に、貴女に聞いておきたいことがあったのだけれど」

「はい、なんですか?」

「ジェームズ先生って、オトメゲームの中で重要人物だったりする?」

「……どうしてそんなことを聞くんです?」

「先生のお仕事について振り返ってみたら、何かの力がはたらいているかのように酷い労働環境で、かつ〝ヒロイン〟や〝悪役令嬢〟との関わりが多そうな役回りだと思ったの。

 貴女も、ほら、私と彼が関わることをよく嫌がって、『ジェームズ先生と浮気して〜』なんて言ったこともあったでしょう。何かあるんじゃないかと思ってね。彼もオトメゲームの物語の登場人物――〝ネームドキャラ〟というものだったの?」

「まあ……そう、ですね。彼も〝ネームドキャラ〟でした。はい。三人の王子たちのような〝正規ルート〟の〝攻略対象〟ではありませんが、まあ、なんというか、物語の中で誰かの恋愛対象になることもあるかもしれないキャラクターだったことは事実でしたとだけ今現在の私の口からはお伝えさせていただきたいと思いますでございますね」

「そうなのね。ぼやかした言い方は気になるけれど、いいわ。ありがとう。それで、貴女から見た〝オトメゲームらしさ〟や〝強制力らしきもの〟について、この世界で生まれ育った私の推測を――って。なぜ、きょとんとしているの?」

「あっ、脈絡なくて、びっくりしました。てっきり、先生の……〝キャラ〟の話が続くと思っていたので。てへっ」

「あら、ごめんなさい? 私の中では繋がっていたのだけれど。――貴女の世界にあった〝オトメゲーム〟とこの世界の関係について、考えてみたの。

 貴女にとっては〝ゲームと同じ展開〟や〝設定〟に見えるものたちを、こちらの世界らしく解釈すると……〝女神さまの悪戯〟かもしれないわ」

「女神さまの悪戯?」


 初耳ですと言うように首を傾げて、イラリアは可愛らしくぱちぱちと瞬きする。

 長い睫毛に飾られた空色の瞳は、今日も宝石のように美しい。いや、湿気た浴室の中でも曇らないことを見れば、宝石を超えた輝かしさかもしれない。


 こんなにも可愛く美しく見えるのは、惚れているからか、姉馬鹿だからか。あるいは。


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