表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女殺しの恋 ―死に戻り悪女が妹聖女のキスで目覚めたら―  作者: 幽八花あかね
第二部【第一章】ベガリュタルの王太子と古魔法迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/121

055. プロローグ〈4〉願いと覚悟


「愛しいラーリィ。どうしていじけてしまったの?」

「いじけてるっていうか。なんでしょうねー……『愛しい気持ちが募って婚約を!』ってわけじゃないみたいだから」


 そう、イラリアの言う通り。私は愛情を募らせてこの婚約式を計画したわけではない。


「私は貴女を愛しているわ」


 嘘はついていないはずなのに、チクリと胸が痛くなる。彼女の期待や信頼を裏切ったようで、妙な罪悪感が心に滲み出す。


「それは、もう、わかってます。わかってるんです。でも……」


 彼女のことは、愛しているけれど。そう。これは、愛のための婚約じゃない……。私が不安を和らげるためのもの。彼女を縛るためのもの。


 イラリア・ミレイ・リスノワーリュという名のひとりの女性を、私の隣から逃がさないための鎖だ。


 悪女にもなりきれず、まだまだ聖女らしくもなれず。今の私は、いやに中途半端だった。


 この曖昧な態度を、どうにかしないと。彼女をじわじわと傷つける羽目になる。頭では、わかっているのだ。わかっているはずだった。


父さま(公爵家三男)陛下(第三王子)が正義の勝利を収めたとされる、あのきょうだい争いの時。数名の貴公子と婚約者の血が流れたことを、その歴史を、貴女だって知っているでしょう?」

「はい。もちろん」

「私は……その再来を恐れているの。もう二度と、貴女を他の男に奪われたくない。貴女を失いたくない……。ねえ、イラリア。わかって頂戴」


 その言葉は、私の耳から聞いても浮いていた。中身が無かった。伝わる想いなど、あったものじゃなかった。


 わかって頂戴――なんて、狡い言葉だと思う。頷くことを求めすぎている。押し付けている。


「姉さま、私、」

「――オフィーリア様、イラリア様」


 侍女の声だ。

 ふたりして肩を揺らし、反射的に距離をとる。私と彼女は話を止め、ガゼボの外に顔を出した。


「もうじき国王陛下と王妃殿下がいらっしゃいます」

「わかったわ。ありがとう。――イラリア、また後で話しましょう」

「はい。フィフィ姉さま」


 互いの姿を見合って、髪の乱れやドレスの皺を整えて。私たちは、静かに、おふたりのご到着を待った。


「おお……!」国王陛下の千草色(ちぐさいろ)の瞳が、無邪気な子どものようにキラリと輝く。

 その隣で王妃殿下は、愛おしげな目をしてクスリと笑った。


「感謝申し上げます。国王陛下。王妃殿下。私たちの婚約式の見届人を、お引き受けいただけましたこと。ありがたき幸せに存じます」

「オフィーリアも、イラリア嬢も。これはこれは……。もしや王妃と計画していたのか?」

「ええ、そうですわ。貴方」


 国王陛下の問いに、王妃殿下がにこやかに答える。


「私とオフィーリアとで、準備を進めていましたの。とても面白い企みだと思ったから。貴方も聞いてみたらいかがです? オフィーリアがこのドレスたちにかけた、願いと覚悟を」

「ほう。では、聞かせてもらおう。それらの特別なドレスを、そなたはどうして選んだのだ? 申してみよ」

「かしこまりました。国王陛下――」


 すぅっと深呼吸をして、私は話しだす。今度は淑女らしく、完璧を目指して。


「彼女のドレスにかけた願いは、末永く続く愛です。このドレスを纏って婚約式を挙げられた王妃殿下が、今も陛下と仲睦まじくいらっしゃるように。私と彼女も、おふたりのような結婚生活を送れるようにと願いました。

 また、おふたりから以前お聞きした、陛下が婚約の際に告げられたという〝覚悟〟を追いかける想いもこめております。王妃殿下におっしゃった『国で一番しあわせな女にしてやる』というものです。私もそれに匹敵する想いをもって、彼女を幸せにしたいと思っております。

 そして、私のドレス――母さまのドレスには〝やり直し〟の願いと覚悟を。悲劇を繰り返さぬように。何があっても、この私は、彼女を殺さないと。

 私たちは互いを尊重し合い、幸せになってみせると。母さまにも届くように……母さまの思い出の品を借りております」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ