114. 流星祭と新たな出会い〈1〉誕生日
――八月八日、流星祭の日。
今日は、レオンとクララ様、そしてセルジオ王子とミナ姫の恋人二組はそれぞれデートに行き、アル兄様とカスィム殿の帝国組もまた一緒にお出かけするのだそうだ。
油断禁物ではあるが、三国や王子王女間の探り合い戦も一時休戦、聖女や勇者という立場のことも頭の片隅程度に置いておき、落ち着いて過ごせそうな日である。
私とイラリアは、デート、というよりは、家族で仲良く遊ぶことを予定していた。
「ままぇー!!」
「おはよう、ドラコ――お誕生日おめでとう」
「ん!」
やわらかなほっぺにキスすると、ドラコは嬉しそうにきゃっきゃと笑った。「ままぃー!」と今度はイラリアの方へ駆け寄り、彼女からも「お誕生日おめでとー!」とほっぺにちゅーをもらう。
――ドラコ・リスノワーリュ。今の世では、私の養子。可愛い子。
イラリアの研究によって植物細胞からつくられたドラコは、二度目も三度目も、この八月八日の夜に生まれている。
彼は生まれた日から二足歩行ができたりと、やはり人間の男女から生まれた子とは違うところも多少はあるのだが、今ではほとんど人間と同じ姿に成長していた。
イラリアが彼を生み出したのは十四歳の時で、今の彼女は十七歳。
ドラコは、人間と同様に数えると、今年で三歳になる。
金色の瞳をきらきらと輝かせ、ドラコは私とイラリアの手をぎゅっと握った。
「ままぇ、ままぃ、ありがと! だいすきー!」
「私も、貴方が大好きよ。ドラコ。愛しているわ」
「きゃあ可愛い! うちの子かわいい!」
イラリアとドラコは朝から元気いっぱいで、明るい笑顔が眩しかった。
この笑顔を守るのが、私の望みと務めのひとつ。
――この子が無事に大人になれるよう、その未来を守れるよう、頑張らなくてはね。
セルジオ王子の母君である第二妃様の故郷、東の海に浮かぶ島国は、イラリアやアル兄様の前世の生国、日本と世界観もとい文化が近いらしい。
イラリアが準備してくれた東国の衣装――私と彼女は浴衣を、ドラコは甚平を着て、私たちはお祭りに出かけた。裕福な民と貴族ばかりの城下の祝祭だ。
過去、王太子の婚約者や恋人だった時と同様に、今日も私とイラリアのそばには騎士が潜んでいる。
王女としての私につく王宮騎士に、聖女としてのイラリアと私につく神殿騎士、そしてリスノワーリュ侯爵家の騎士だ。
なんとまあ、こうしてみると、なんだか可笑しいほど厳重に守られる存在になってしまったものだ。
「えへへ、フィフィ姉さまと流星祭! 久しぶり!」
「そうね」
「デートじゃないけど念願ですねぇ」
「ええ、私も嬉しいわ」
昨年のイラリアは長い眠りについていたし、一昨年は途中で会ったものの、デートという形ではなかった。あの頃は、まだ、彼女を想うバルトロメオがいた。
隣の薔薇色のまとめ髪には、隣国にいた頃の私が贈った簪が挿さっている。薔薇とペンペン草のドライフラワーを閉じ込めた硝子の飾りに、連なる赤白のビーズが揺れている。
抱っこしたドラコ(とたまにイラリア)に小さな焼き菓子をあーんして食べさせながら、お祭りを回っていると。
「姉さま、アレってジェームズ先生……ですよね?」
「うん? どこ? あら、そうね」
我らが薬学研究部の顧問、信頼なる紳士。ジェームズ・スターチス先生を見かけた。
あの先生が、驚くべきことに、見知らぬ誰かを連れている。
「目が合いましたね」
「ええ。間違いなく合ったわ。――こんばんは、先生」
「ああ、こんばんは」
「まさか――えぇっ、先生、恋人さんですかーー!?」
そう、私たちは、なんと。
女性と親しげに並んで歩くジェームズ先生に遭遇したのだった。




