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聖女殺しの恋 ―死に戻り悪女が妹聖女のキスで目覚めたら―  作者: 幽八花あかね
【二】一・聖女と勇者の会議は踊る

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113/121

113. 聖女と勇者の探索パーティー〈9〉聖女

 レグルシウスとファリア・ルタリから来た異国の聖女と勇者を歓迎するパーティーの最中。

 我が国ベガリュタルの聖女ふたりは、あれよあれよという間にホールから抜け出してしまった。


 ――逃げ出すわけにはいかないのに、もう……


 ふたりきりの休憩室。ソファの上で。


 華やかなドレスを着た可愛いイラリアが、私に覆い被さっている。空色の瞳は熱い感情を宿してこちらを見、私の胸をどきどきと焦らせた。


「んぅ」


 しなやかな指が頬に触れ、ぷにぷにと優しく突いてくる。


「イラリア……そんなに触ったら、お化粧が……」

「私のフィフィ姉さま」

「ちゃんと他家の方と踊っていたところまでは、いい子だったのに……」

「悪い子の私はお嫌いですか?」

「うぅ、そんなことはないけど……せっかくのドレスも皺になっちゃう……」

「じゃあ、体勢を変えてあげますね」

「あっ」


 さりげなく胸や脇腹を掠めながら、イラリアは私の脇に手を差し入れて抱き起こす。


 彼女の醸し出す圧のせいか、それとも私も心の底では彼女を求めてしまっているのか、あるいはやっぱり体の調子が悪いのか。イラリアの好きなようにされるのを止められない。


「バレないように頑張らないと駄目ですよ?」

「ん……」

「いい子に立っていてね」


 彼女より背の高い私の頭を、慣れた手つきでぽんぽんと撫でてから。イラリアは私の背後に回る。そのたわわな胸をむぎゅっと押し付け、私を抱きしめた。


「イラリア」

「姉さま、本当に大丈夫? 今も具合は平気?」


 私の心臓の鼓動を確かめるように、彼女の左の手のひらが胸元へと触れる。


「ええ、平気よ」

「どうしてあいつにハグされていたの? うん?」

「それは、兄様本人に訊いてほしいけれど……。感極まってというか、私を心配して、というか。今日は、悪意のあるものじゃなかったわ。私が(レオン)とするのと同じようなものよ。信じて」

「姉さまは、ご自分の立場をわかっておいでですか」

「貴女こそ。私たちは今すぐに広間へ戻るべきだわ」


 イラリアの手が艶めかしく動き、違うところへと触れてくる。


「ね……イラリア……だめ……」

「私が満足したら、パーティー会場に戻らせてあげますから」

「わ、私たちの状況は、良くないわ。アル兄様は、帝国の方々と繋がっていて、私たちの知らない情報を持ってて……セルジオ王子も、んっ、魔道具については、私たちより先を行っている。昼間の私やレオンたちは、セルジオ王子の掌の上だったということでしょう?」

「ええ、そのようですね」


 同じ王家に連なるきょうだいでも、王太子決定の儀を終えても。


 王子王女らの関係は、平らではない。ただ協力するだけでなく、それぞれの思惑をもって動いていることもある。


「レオンたちはレオンたちで、あの家の生まれだから、戦術と勇者の歴史については、私たちより――ねえ、イラリア、わかっている?」

「何をです?」

「私とイラリアは、聖女の心臓蘇生――死者の復活の成功者であるという諸刃の剣は持っているけれども。それ以外の魔法情報については圧倒的に弱い。このままだと、食われるわよ」

「今は姉さまの方が私に食べられちゃいそうですけど」

「……、ふざけない、で」

「ふざけてません」

「――イラリア?」


 私を容赦なく責めていた手付きは、変わらなかったけれど。


 どうしてだろう、彼女が泣きそうになっている、ような気がした。


 震える脚に力を入れて、彼女に弄られ続けながら、振り向こうとする。彼女に導かれてキスをする。


「ん、いらりあ……」

「フィフィ姉さま」

「なぁに、イラリア」

「死んじゃだめだよ」

「……ええ。まだ死なないわ」


 私は彼女の手の甲をそっと撫で、「続けていいわ」と呟いた。


「愛してます。フィフィ」

「ええ、私も。貴女を愛しているわ――」



 結局、私とイラリアが広間に戻ったのは、それから数十分後のことだった。


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