表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女殺しの恋 ―死に戻り悪女が妹聖女のキスで目覚めたら―  作者: 幽八花あかね
【二】一・聖女と勇者の会議は踊る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/121

111. 聖女と勇者の探索パーティー〈7〉剣戦


 昼間、王宮庭園の一角で――魔装のローブを身に纏った私とクララ様は、模擬剣を交えた。その始めの一戦。


「……ッ」


 彼女の剣の切っ先が私の胸に触れた、途端。

 私の羽織っていたローブの色が、たちまち黒から赤へと変わる。


 ――まあ、こうなるわよね。


 痛みはないが、敗北を鮮やかに突きつけられた。


「さすがはクララ様。美しい剣さばき。お強いですね」


 私は心から感心して微笑み、切っ先から離れるため一歩下がる。

 しかしクララ様はその隙間を埋めるように一歩、二歩と進み、今度は私の首元に剣を触れさせた。


「……クララ様?」

「オフィーリア様。まさか、今のが本気でございますか?」

「私とて一武人です。貴女と同じ、女騎士です」


 だから、ここで手を抜いたりはしない。していない。本気で挑まなければ、クララ様を侮辱するも同然になるのだから。


 けれど、クララ様は納得いかないご様子で。サファイアの瞳に闘志の炎を燃やしたまま、さらに強く、私の首に模擬剣を押し付けた。


「おい、クララ、落ち着けって」

「――あの貴女が、こんなに弱いはずがない!」


 凛とした彼女の声は、よく通っていた。私たちの間を爽やかに駆け抜けた。


「フィフィ姉さま……」

「大丈夫よ、イラリア」


 クララ様のそばには宥めるようにレオンが付き、私の隣にもイラリアが付いてくる。


 イラリアの瞳が私を――首元を熱心に見つめている気配を感じるが、心配には及ばない。


 ――ローブの防護魔法は、意外と範囲が広いのね。


 こんな時でも魔法のことを考えるなんて、私も、なかなか。陛下の計画に毒されている。魔法社会時代の方向に傾いている。


 ――他の勇者様や聖女様はどうかしら。


「まだ、まだ、終わらせられません、オフィーリア様……っ」

「では、五番勝負に致しましょうか? 他の魔道具の試し打ちにもお付き合いいただきますから、お疲れになるかもしれませんが、それでもよろしければお受けします」

「オフィーリア様にご心配をいただくほど、私は弱くありません。望むところです」


 ようやくクララ様の剣は私から離れ、隣のレオンもほっと息をつく。


 ――クララ・ローデンロン公爵令嬢。


 戦闘狂とまでは行かないお嬢様だと思っていたが、それは侮りだったか。数年前よりも血気盛んになっている気がする。成長期だし、当然と言えば当然かもしれないが。


 ――今のクララ様は、学院一年生の十四歳。一度目のイラリアが死んだのと同じ歳、ね……。


 傷のない自らの胸元に手を触れ、過去を想う。


 私は、過去にイラリアを刺した。刺し殺した。聖女を死なせた。


 十四歳の聖女というのは、なにか、妙な危うさを孕んでいるものなのかもしれない。


「かしこまりました。――イラリア、ローブの色戻しを手伝ってくれる?」

「はい! フィフィ姉さま」


 にこにこと私に寄り添うイラリアの頭を撫で、次の試合への準備をする。


 ――最低でも、あと二試合。一度でも勝てるかしら?





「――最終的には、負けたけれど」 


 アル兄様と踊りながら、私は続ける。


「五番勝負で二勝三敗。二度も勝ったのです。悪くない結果だと、」

「なあ、もしかして具合が悪いのか?」

「兄様は、もうちょっと、私の言葉を最後まで聞いてくれてもいいと思うわ。イラリアにも心配されたけれど……私は、本当に、平気で……」

「でも、儀式の日より痩せている。その、触れた感覚からしても、細い……。一気に痩せすぎじゃないか?」

「…………アル兄様も、変だと感じるの?」


 若苗色の瞳を覗き込み、その表情を窺う。


「自分では、わからなくて。城でもイラリアが容赦ないから、そのせいで疲れて痩せただけかもしれないし」

「……それ、俺に言っていいのか?」

「貴方だって、医薬学を学んでいる者でしょう。それに、いい歳した大人です。この程度で動じないでください」

「俺らの世界じゃ、オフィーリアの歳でもまだ未成年なんだけどな」

「子どもの戯れに見えますか? 私とイラリアの関係は」

「いや、そんなことはない、が……」


 明るい黄緑色の瞳が泳ぎ、さらに気まずそうな雰囲気を帯びる。アル兄様の思惑は、まだ、よくわからないところが大きい。


「ねえ、アル兄様」

「なんだ、オフィーリア」


 何気ないことを聞く声で、さらりと。私は彼に囁いた。


「大地の勇者様がどこにいるか、知っている?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ