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聖女殺しの恋 ―死に戻り悪女が妹聖女のキスで目覚めたら―  作者: 幽八花あかね
【二】一・聖女と勇者の会議は踊る

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108. 聖女と勇者の探索パーティー〈4〉武器


 ――ばぁん! とわざとらしい音がした。


 熱の欠片になった元人形は、ひらひらと、夢見の花びらのように空を散る。


(……まさか一発でいけるとはね)


 周囲に危害が及ばないようにと手加減しつつ、最悪自身だけは痛い目に遭うことも覚悟してやってみたら。傷ひとつさえ負わずにあっけなく終わった。イラリアに遊ばれた髪の三つ編みも崩れていない。


 握ったままの魔道具を見おろし、次いで人形の欠片を目で追いかける。ひとひらを摘まむと、やはり、まだ熱かった。火傷するほどではないけれど。


(もしかして、この感覚――王子が……?)


 確証はない。だが、何か感じるところがあった。何者かの作為めいた気配がしたというか……。



「――フィフィ姉さま! お疲れ様です! よくぞご無事でしたねぇ愛してますっ」

「ありがとう、イラリア。誰も巻き込まずに済んでよかったわ。本当に」


 みんなのもとに戻り、今度はクララ様の番ですね、と彼女に微笑む。

 クララ様はにっこりと笑みを返し、お見事でした、と鈴の声で言ってきた。


 イラリアは私の背にくっついて、いつの間に摘んできたのか、野花を朽葉の髪に挿してくる。


「それでは、私の武器を、オフィーリア様がお選びください」

「では、こちらで」


 私が選んだのは、水属性の古魔法が施された弓矢だ。


「我が国の勇者は水の神に愛されておりますから」

「まあ、弓矢ですか、あらまあ」


 クララ様は目を丸くして、その魔道具を手にとった。私の時と同様、触れただけでは、まだ何も起こらない。


 ――本当は、クララ様には、いきなり触ってほしくはなかったのだけれど……念のため……


 まあ、相手はクララ様だ。このくらいは想定内。何事もなかったので今回はそれでよしとする。あとでレオンとは話し合うことにして。


 私はレオンとイラリアへ交互に視線を向け、ふたりに指示した。


「人形を発動させたら、レオンはクララ様のそばに付いて。最中も、危険を察知したら必ず守ること」

「ああ、了解」

「イラリアも、時間を計りながら、念のため付いていて。万が一の時にはすぐに癒やしの魔法を」

「はいっ!」

「……オフィーリア様は単身で行かれましたのに、私には護衛役と治癒役を付けると? なぜ?」


 唇で弧を描いたままのクララ様は、しかし群青の瞳に笑みを灯らせず、やわらかな線で私を睨んだ。私も微笑みのままで返事する。


 人形が、動きだす。


「貴女は、隣国(レグルシウス)からいらしたお客様ですから。気兼ねなくお楽しみいただけるよう、私なりに舞台を整えたまでです。それに、二手に分かれてと始めに申しましたでしょう? 元より、クララ様をひとりきりにするつもりはございませんでした」

「やはり悪いお方ですね、オフィーリア様は。これでも一武人である私を、まるでただの姫のように扱いになる」

「クララ様は、ローデンロン公爵家のご令嬢であり、レグルシウスの聖女です」

「私、クララ・ローデンロンは、そして紫紺騎士です」


 ふっ、と小さく息を吐き、彼女の蒼き双眸は人形へと向いた。


「完成しましたね。イラリアさんとオフィーリア様は、時計をお願いします。では、はい、{――――}」


 しゅっ。と軽い音がして、水魔法を帯びた矢が放たれる。構えたきり、彼女は一歩も動かなかった。速かった。


 何と言ったのか、古魔法語のところは聞き取れず。


「……あら」


 矢は迷いなく人形の胸を貫き、それを地面に倒れさせた。私よりも、明らかに素早い。瞬殺だ。


「さすがですね、クララ様」

「オフィーリア様だって、この武器ならば、これくらいの芸当はできたでしょう。まだです」

「まだ、とは? 人形は無事に倒れ、時間的にも、クララ様の勝利に終わりましたが……」

「これです。ローブと剣」


 サファイアの瞳がキラリと光り、また好戦的に私を見る。


「今度こそ、堂々と、剣術で、手合わせをしましょう? オフィーリア王女殿下」


 と。ふわっと投げて寄越されたローブを、私は受け取った。


 然るべき手順を踏んで事を始め、決まった箇所に模擬剣で触れると色が変わる、魔装のローブ。


 遊びで羽織るには贅沢な代物だが、まあ、クララ様のためとなれば頷けた。

 これは魔道具の実験でというよりも、単に彼女のための用意だろう。


 もしかすると、今も、鏡か何かでこちらの様子を窺っているのかもしれない。あの王子様は。


 ――私、勝てるか、わかりませんわよ。クララ様が相手では。


 私とその昔々の元婚約者を無駄に崇めて特別視しているもうひとりの義弟の顔を思い浮かべて、それでもなお、私は剣をとることにした。


「どうせなら、最後までお付き合いいただきましょうか? クララ様――炎の勇者殿も、うちの聖女も一緒に」


 魔道具の武器は、まだ数種類が残っている。


 女騎士ふたりは笑いあい、ローブを纏い、恋人たちの賑やかな声を聞きながら一戦を交えた。





 そして、夜。


 昼間の庭園の時とは打って変わって、艶やかな盛装のドレスを身に纏い、私は異国の勇者殿とダンスを踊る。今度の相手はレオンではない。


 ファリア・ルタリ帝国からの来訪者。

 風の勇者カスィム。


 灰銀の短髪に朱色の瞳をした、皇族の影を務める男である。


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