106. 聖女と勇者の探索パーティー〈2〉隣国
隣のレグルシウス国からやってきたのは、炎の勇者レオナルドと、聖女クララ。
ベガリュタルとの国境地帯を管理する辺境伯家の長男令息と、レグルシウス中央の騎士団長公爵の長女令嬢だ。
「こうして一緒に食事するの、久しぶりだな」
「そうね。一年半ぶりかしら」
私が最後にレオンと会ったのは、クーデター前の冬。イラリアに求婚された後、大学院受験を控えていた頃のことだった。
あの時の彼との会話を経て、私は、イラリアへの恋心をようやっと認められたのだった。
あの日よりさらに大きく成長したレオンは、セルジオ王子やカスィム殿といった他の年上勇者と比べても最も逞しくて背が高い。
白銀の髪に琥珀の瞳をした、頼りになる子。こんなに大きくなってもなお可愛い。十年間を一緒に過ごした、私のもうひとりの義弟だ。
今の彼の隣には、かねてよりの想い人の姿もある。
「貴方からこちらに来ることになるなんて、わからないものね。私がグラジオラス家に帰省して、お母様たちに彼女を紹介すると思っていたのに」
「昨年の姉ちゃんは、大変だったもんな。これからも大変そうだけど」
「そうね。私の周りに聖女と勇者が集まってしまったことだし、あの前世だし。血なまぐさい歴史は繰り返したくないわ」
「同感だ。俺も、戦う相手は魔物と悪人だけでいい」
うふふ、あはは、と義姉弟ふたりで笑いあう。彼との食事は緊張しない。宮廷料理人のつくるごはんは美味しくて、先程の会談でのストレスを和らげてくれる。
あらためて、と。
私はイラリアのことをレオンに紹介した。
私との手紙や会話を通して、イラリア、レオンそれぞれの存在は相手に伝えていたが、ふたりがこうして席を共にするのは初めてだ。
魔法迷宮という空間でも一緒に居たとはいえ、儀式中のあの場は恋人を紹介しあえる雰囲気ではなかった。
「イラリア・ミレイ・リスノワーリュと申します。オフィーリア姉さまの婚約者です」
「レオナルド・グラジオラスです。……――姉ちゃんのことを、よろしくお願いします」
「はい! 必ず幸せにしてみせます」
無事にイラリアの紹介が済んだところで、今度は彼に〝彼女〟を紹介してもらう。
「えーっと……まだ正式に何かあるわけではないんだけど……俺の恋人で、我が国の聖女です」
「このような形でお会いできて、光栄です。オフィーリア様。お久しぶりですね」
クララ様はほんわかと人懐っこい笑みを浮かべ、挨拶する。艶めく飴色の髪に、群青の瞳。たいへん可愛らしいご令嬢だ。
彼女とは此度の件が初めましてではなく、私が隣国暮らしをしていた時に出会っている。
「ええ、クララ様。お久しぶりです」
にこやかに会話しながら食事をし、親交を深める。
どちらも滞りなく進めば、いずれは四人とも家族になるのだ、良好な関係を築きたい。
「――私、ちょっと、皆さんで遊んでみたいです」
食後。クララ様が提案したのは、彼女らしい〝ゲーム〟だった。
お城の方に希望を聞かれまして、お言葉に甘えました――と。クララ様は悪戯っぽい笑みを浮かべて私に言った。
今の彼女は武装をしており、ドレス姿ではない。私もだ。
女の騎士仲間ということで、彼女は私に親近感が湧いているらしい。素直に慕われているなら、こちらも悪い気はしない。
「私がレグルシウス初の女紫紺騎士になるかと思っていたのに、先を越されてしまったと知った時はびっくりしました。グラジオラス家のご令嬢だと聞けば、納得もしましたけれど」
「クララ様は、最年少で叙爵された女騎士でしょう? それも素晴らしいことですよ」
「一度、貴女と闘ってみたかったのです。楽しみ」
「ふたりとも、無茶はするなよ。聖女様だから、治せるのは知ってるけど……」
レオンから心配のお言葉をいただきつつ、私とクララ様は鍛錬の話などをする。
なお、イラリアは私におんぶされて、私の髪をいじっていた。たぶん三つ編みにされている。
「姉さま、髪型、崩したら怒っちゃいますよ」
「あら、難易度が上がってしまったわね」
イラリアに髪を編み編みされながら、隣国組との武人談義に花を咲かせる。てくてく歩く。
王宮庭園の一角にやってくると、そこには、いかにも今時な武器があった。
「さあ、オフィーリア様。これで勝負です」
「うふふ、面白いですね。受けて立ちます」
どうやら、こんな遊びの場面にも、二国の魔法計画の片鱗が現れるらしい。




