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森守りシンの景色 ~魔法の帽子~  作者: marron
火の鬼ベイと弟
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3. ガングー様の命令


 俺たちは火の国に戻ると、狩りの獲物を披露して、大宴会をした。獲物を俺たちの火の術で焼き殺す楽しいひと時だ。そんな時は、シンはいつも誰にも見つからないようなところで小さくじっとしているのを俺は知っていた。

 俺の機嫌が悪いときは、そういう時に呼びつけたりするが、俺様は優しいからまあ、時々にしておいた。そうしないと、だれかれ構わずシンは殴られたり火をつけられたりするからな。俺の奴隷なのに、みんながシンを痛めつけるのはどうかと思うわけだ。

 盛り上がる宴会がひと段落して、朝になりみんなが寝静まると、シンはまた朝飯を食いにどこかへ行った。そして戻ってくると俺たちから少し離れたところで小さくなって寝ていた。

 夜になり俺たちはまた出かけなけりゃならなかった。ガングー様に喜んでもらえるとはいえ、狩りに関わる一族は大変なんだ。


 俺たちは今度は、近場のイタンス国に行くことにした。本当はホクコメ国まで行きたいと思ったのだが、あの凶暴な奴らからガキを狩ってくるのは大変なんだ。

 イタンス国の狩りの間、シンはどこにいたのか分からなかった。夜だからどこかで寝ていたのかもしれない。だが、明け方に荒野で獲物を見せあっている時には、シンはそのそばで俺たちを見ていた。あの顔は見ものだった。

 袋からギャーギャー泣く赤ん坊が出てくるたびに、自分が連れてこられた時のことを思い出すのだろう。恐怖の顔を浮かべて、それでも目をそらせずにじっと見ているのだ。あの顔は何度見ても気持ちのいいもんだ。シンは震えながらじっと耐えてるようだった。

 俺たちがそのうちの一人を焼き殺すのを見ると、さすがに耐えられなくなったのか、走ってどこかへ行ってしまった。

 まあ、そのうちまた戻ってくんだろ。

 そう思っていたが・・・どこかで、シンを探しに行きたい気持ちが渦巻いていた。どうしたんだ、俺。

 今回の狩りは、俺はちゃんと1人のガキを狩ることができた。シンの時のような間違いはもう絶対にしない。あんなお荷物もう一個増えたら大変だ。それに、荷物が増えると俺の心が今までとなんだか違ってしまう。それが嫌だった。



 イタンスから火の国に帰る途中、何日目だったか、俺たちの間でケンカがあった。まあ、いつものことだが、俺たちのケンカはひでぇ。

 徹底的に相手をぶちのめす。俺たちは火を操るが、自分のケツに火が付けば火傷もするし痛みも感じる。まあ、人間ほどじゃないけどな。それに力も強いから、ケンカになると誰かが死んだりすることもあった。

 俺たちは一族仲間ではあるが、仲良しこよしってわけじゃない。気に入らなけりゃ殺しちまうのなんて日常茶飯事なんだ。俺は死なないように自分の身は自分で守るしかなかった。

 その日のケンカは、俺が一方的にやられてた。まあ、俺はガキだからやられやすい。しょうがないんだ。でももう6歳になってるし、身長だって大人と頭一つしか違わねぇ。それに俺は動きが速いから、大人にもまけねぇつもりだった。だけど、俺はやられちまった。

 俺はいつものように蹴り技を多用して相手を痛めつけてたんだが、相手は俺にやられそうになると、俺の頭のことを言った。俺の髪のことは俺に言うな。髪が真っ直ぐだって俺は俺だ!だが、言われると冷静さを失う。

 その策略にひっかかって、俺は負けた。殺されはしなかったが、ボロボロになって転がった。腕が折れているのが自分でわかった。

 朝になっても、悔しくて眠れねぇ。痛みで眠れなかった。

 その時、夜中にまた置いてけぼりを食らったシンが、懸命に走っているのが見えた。

 そっちじゃねぇ。

 俺たちはここだ。

 俺は身体が動かねぇし、別にシンを呼ぶ気もなかったけど、なんとなくそう思っちまった。

 そうしたら、シンは俺の心の声に気づいたみたいで、急にこっちに振り向いた。

 シンは俺のそばまで走ってきた。

 あいつは転がっている俺を見下ろして立っていた。今なら俺のことを殺すことだってできるだろう。だがそんな恐怖はなかった。アイツの顔は不思議そうに俺を見ていたが、俺を憎んでいるという顔ではなかった。俺もそんなシンが不思議だった。

 シンは俺のそばにかがむと、俺の折れた腕を触った。折れているってわかるのか?

 そして、何か口の中で歌のようなものを歌ってるような、小さな声が聞こえた。俺の腕の痛みがなくなるのを感じた。

 なんだコイツ。

 俺に何をした?

 俺は不信感を現した形相で、シンを睨みつけた。そして、思わずコイツの腕を握った。

 シンは俺に火をつけられると思ったのだろう。ビクっと身をすくめて、ギュッと目を瞑った。

 だけど、俺は火をつけられなかった。握ったシンの腕が、柔らかい気持ちのいい感触だった。それでなんだか、火をつけられなかった。

 なんだこの柔らかいの。

 なんだこの温かいの。

 それはシンの心だと俺にはわかっていた。わかっていたが、それを認めたくなかった。それを認めたら、俺は泣きそうだからだ。だから気づかないふりをした。そしてシンの腕から手を離した。

 シンは何だかわからないような顔をしていたが、俺が目を瞑ったのを見て、眠ったと思ったんだろう。静かに立ち上がると、またあの白いのを食べに行った。


◇◇◇


 シンを捕まえてから、何度目かの狩りから火の国に帰ると、すごい情報があった。

「明日、ガングー様がいらっしゃるぞ!」

 火の山の広場はものすごい盛り上がりを見せた。ガングー様がいらっしゃるというのは、俺たちにとって、嬉しいことだ。

 ガングー様は俺たちに好き勝手をさせてくださるし、俺たちが世間を恐れさせることをすると大変に喜んでくださる。

 とくに狩りで、遠くの国まで恐怖を広めに行っている俺たち一族は、もしかすると褒美がもらえるかもしれない。

 だが俺は不安もあった。

 シンのことだ。手違いであんなお荷物拾ってきちまった俺は、もしかすると叱られるんじゃないだろうか。ガングー様は怒るとものすげぇ怖い。そんじょそこらのお仕置きなんて目じゃないことをする。

 俺はシンを隠してしまおうかと思った。だが、それよりも、シンをガングー様に差し出すのが良いかもしれない。そうすれば、ガングー様がシンを殺してくれるだろうから、俺はもうこんな面倒くせぇお荷物とはおさらばだ。

 俺がお仕置きを受けてでも、シンがいなくなるのなら、それが良い。だけど、俺まで殺されるのは嫌だなぁ。

 俺が殺されようが何だろうが、親父だってかばってはくれないし、俺は自分のことは自分でなんとかしなけりゃならねぇんだ。

 とにかく、ガングー様が俺やシンには気づかないかもしれない。あんまり考えるのはやめた。



 俺の考えは浅はかだったらしい。

 ガングー様はなんでもお見通しだった。

 ガングー様は火の山にやってくると、俺たち火人を大いに褒めてくださった。俺たちの大好きな辛い食べ物や強い酒をふるまってくださった。

 特に“狩り”の連中を褒めてくれた時は俺は本当に嬉しかった。俺はまだ成人に達していなかったけど、俺にも火を飛ばす魔法を授けてくれた。本当に一人前のように扱ってくれたんだ。

 上の方の大人には、もっと強い火を出す魔法をもらった者もいた。俺もいつか絶対あんな魔法を使えるようになりたい。そう思っていた。

 そして話はそれで終わりではなかった。

 ガングー様は畏れ多くも、俺のそばにやってきた。その白い長い髪と白い衣は目に痛いほど眩しい。美しいというのがピッタリな、まるで水でできているのではないかと思うような顔を俺に向けたんだ。

「ベイブレード」

 ガングー様の穏やかな声が俺を呼んだんだ。

「はい、ガングー様」

 俺はすぐさまガングー様のそばに行き跪いた。

「アレはなんだ?」

 ガングー様は広場の隅で眠そうに、小さくなって座っているシンを指さして聞いた。俺に聞いてくるということは、本当はアレが何だか分かっているんだろう。

「はい、ガングー様、俺の奴隷です」

「連れてまいれ」

 ガングー様はさすがに興味を持ったようだった。それとも、樹紀の国から手違いで連れてきちまったと知ったら俺を怒るだろうか。

 俺は少し怖かったが、シンを呼ぶしかない。

「シン、来い!」

 俺が叫ぶと、シンはすぐに立ち上がり、俺のそばにやってきた。

「真っ直ぐ立て!手を伸ばせ」

 俺が言うと、シンは直立不動でビシっと立った。そしてガングー様を見つめた。

「おや、これは珍しい、樹紀の国の子どもではないか」

 ガングー様は笑顔でシンに話しかけた。その途端、シンはブルブルと震えだし、冷や汗をかいたと思うと、いきなり気絶しちまった。失礼な奴だ。



「まあ、良い。ベイブレードよ。この子どもはなぜここにいるのか?」

 ガングー様が聞いてきた。シンじゃないが、俺も冷や汗が出た。ガングー様は優しい顔をしているし、別に怒った声も出していない。でも、何か、そう本能に訴えかけてくるようなヤバさを感じるんだ。

「ガングー様、俺が初めて狩りをしたときに、間違えて連れてきてしまいました。それで奴隷として生かしてやってるんです」

 俺は話ながら息苦しく感じた。やっぱり怖え。だけど、ガングー様は嬉しそうに笑った。それがまた怖え。

「それは良い!ベイブレードよ、よくやった」

 よくわからないが、どうやら褒められたらしい。

「ベイブレードよ、これがどういうことか分かるか?」

 俺の冷や汗はひかなかった。このお方は本当ににこやかなのに、どうしてこうも恐ろしいのか。俺は声も出ないで首を振った。

「この子どもは、アルジンの宝だ。それが我らの手の内にあるということだ。生かすも殺すも我らしだい。素晴らしいことじゃないか。

 良いか、お前はこの子どもの兄となって、この子どもを火人と同じにするのだ」

 俺はどういうことかわからなかった。まず、シンがアルジンの宝という意味が分からなかった。こいつにそんな価値があるのか?もしかして、王様の子どもか?と思ったがそんなはずはない。ただのみすぼらしいガキだ。

 それを、俺たちの手の内に入れたというのに、殺してしまわないらしい。それがガングー様の思慮深さというものだろう。

 そんでもって、シンを火人と同じにするってのは一体どうしたら良いのかさっぱりわからない。

「わからないか、ベイブレードよ。

 何、簡単なことよ。この子どもに火の魔法を教えてやればよい。それだけだ。それができれば、この子どもは火人と同じになる。

 アルジンの大切な宝は、ただ醜く死ぬだけでなく、私たちのものになるのだ。殺してやるより、アルジンは悲しむだろう。ああ、その顔が見たい。ベイブレードよ、必ずやり遂げろ。このガキに火の魔法を教えるのだ」

「かしこまりました。でも・・・」

 火人じゃない人間に、火の魔法が使えるのか?俺の心の声が聞こえたらしい、ガングー様が言った。

「おお、そうだな。確かに、樹紀の国の人間に火を出すことはできん。それは体質というものだ。私が少し手を貸してやろう」

 ガングー様はそう言うと、そこで伸びているシンの左腕を取り、呪文を言った。しばらくシンの腕が黄色く発光していた。



 俺はガングー様に大きな仕事を言いつかった誇らしさでいっぱいだった。とにかく、シンを俺の弟として育てるんだ。これで、置いてけぼりにすることはできなくなったが、まあ、シンなら勝手についてくるから大丈夫だろう。

 朝になってもシンは目を覚まさなかった。よっぽど恐ろしかったのか、それともガングー様がシンの腕に何かをしたことで、身体に変化があったのか、とにかくシンは起きなかった。

 夕方になりシンは目を覚ますと、自分の左腕に違和感を感じているようなしぐさをしていた。痛みを感じるらしい。それに匂いを嗅いでいた。俺たちが狩りに出かけて山を降りて歩いていく間、後ろから腕をさすりながらついてきた。

「シン!」

 俺が呼ぶと、シンは俺のそばに来て、直立不動で立った。よし、ちゃんと言うことを聞いてるな。だが、いつまた俺に殴られるかとビクビクした顔をしている。俺はその顔を見るのが好きだ。

「今日から俺はお前の兄だ」

「え?」

「喋るな!」

 聞き直されて俺は思わず殴っちまった。だって失礼じゃないか?俺の弟にしてやるって言ってるのに、聞き直すなんて。まあ、シンは喋ってはないけどな。

 シンは立ち上がり、殴られた頬をさすりもせずにまた直立不動で俺の前に立った。

「お前に、火の魔法を教えてやる」

 シンは無言で頷いた。喋るなと言われてるから、頷くしかないのだろう。返事をしてほしいがまあ、しょうがない。

「まずは、コレを食え」

 俺は今朝、こいつが何も食べてないのを知っていた。だからきっと腹が減ってるだろうと思ったのだ。たまには親切にしてやる。俺の弟だからな。

 シンは俺が渡してやった干し肉をじっと見ていた。食べたくなさそうだった。そうだよな、お前たちと同じような人間の肉の可能性があるもんな。でも、これは確か牛か羊だった気がする。香辛料を付けてるからめちゃめちゃ辛いけどな。

「これは、羊の肉」

 俺がそう言うと、ちょっと安心したような顔をして、それを口にした。しかし辛かったらしい。

 口に入れた瞬間にすごい顔をして吐き出そうとした。だが俺が睨んでいるのを見て、また口を閉じた。汗と涙を流して真っ赤な顔をしながら飲み込んでいた。それだけで、かなり楽しい食事だった。



 俺は狩りの間も、シンにそばにいさせた。こいつも火人の一員となるのなら、これくらいのことは慣れてもらわにゃならん。

 だけど、シンははっきり言って足手まといだった。俺は赤ん坊とおびえるコイツを両方持ってこなけりゃならなくて、はっきり言ってすげー大変だった。やっぱり狩りは身軽じゃなきゃできん。

 俺は狩りから帰ってくると、

「狩りの邪魔をするな!大人しく付いてこいって言ってんだろ!」

 と言って、シンをはり倒した。吹っ飛んだシンをゲシゲシと蹴りつける。シンはうめき声をあげていた。それで俺はさらに怒りに火が付いた。

「喋るなって言ってんだろうが!」

 俺はシンの腕に火を付けてやった。

 その時シンの腕がいつも以上に焼けた。どうやらガングー様が何かをしたその腕は、燃えやすいらしい。さすがにシンは「ギャー!」と悲鳴を上げた。

 やりすぎた。とは思うが、どうしろと言うんだ。

 俺はガングー様にシンのことを頼まれて使命感に燃えてるだけなんだ。やる気があるのは良いことのはずだ。

 まあ、なんとか考えないと、とてもコイツに火の魔法を教えるなんてことはできそうにない。俺にはこらえ性はないし、コイツは俺を怒らせる。

 先は長いぜ。


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