1. 手違い
これより番外編2「火の鬼ベイと弟」となります。
全部で6話です。よろしくお願いします。
ガングー様は新しい試みをしていた。火の山での暮らしだけではなくて、もっといろんなところに出て行って、他の国の奴らを奴隷のようにしてしまえというのだ。
俺は指図をされるのが嫌いだが、それには大賛成だ。
その頃俺はまだ子どもだったから、あんまり難しいことは分からない。ただ、周りの国の奴らは、俺たちのことを恐れて、みんな俺たちの言いなりになったことは確かだ。
俺たちは奴らを支配し、ガングー様はとても喜んでくださった。この調子でアルジンが愛するこの世界を全て支配して、ガングー様のものにするんだ。
ガングー様は、俺たちの一族に「もっと遠くへ行け」という命令をした。食料調達の目的だった。俺たちの周りの国の人間を食べるわけにはいかない。だったら、その向こうから食料になるガキを調達するしかないのは、俺にもわかった。
俺は5歳になる頃から親父たちに連れられて、一緒に“狩り”に行くようになった。最初はイタンス国に行った。狩りで必要なのは、まだ喋ることのない赤ん坊を狙うということだ。喋るやつはダメなんだ。それがどういうことかその頃の俺は知らなかったが、とにかく、まだ喋らないガキが必要だった。
イタンス国のガキは俺たちに似た赤毛のガキもいた。でもほとんどは金髪のガキだった。肌が白くて柔らかくてそれはうまかった。
でもそれよりもうまかったのは、ホクコメのガキだ。奴らの赤ん坊は禿げ頭が多い。そして青い目をしていて見た目は気持ち悪いが、何と言っても脂がのっててうまかった。
ただし、ホクコメ国は狩りをするのが難しかった。ホクコメ国の成人は俺たちの大人よりも体が大きい。身長は多分同じくらいだろうが、横幅ががっちりしていて筋肉質。俺たちも力は強いが、なんというかもっとえげつない強さを持っている。“大きい人”には気をつけろとよく大人に言われたもんだ。
それで、俺たちが次に目を付けたのが、ホクコメから少し南東に行ったところにある森の中の国だ。ここは森が広くて歩きにくい。とても入って行く気にならないが、森を超えれば町が広がっていて、小さい人間が住んでいることは知っていた。
それで俺たちはその樹紀の国に行くことにしたというわけだ。
俺は6歳になっていた。もう随分狩りにも慣れ、俺は今回必ず一人を狩ることを任された。初めて任された仕事で、俺は気合が入っていた。
樹紀の国に入るのはやっかいだった。まず広大な森を越えなければならない。湿気が多くて、それだけで疲れやすい。イライラして、俺たちは無駄に木を燃やした。
そうしたら、この国の森に住む奴らがわらわらと攻めてきた。奴らの恐ろしさと言ったらない。俺たちの大嫌いな水をぶっかけてくる。それに、森の木々や動物を自分の手足のように使いやがる。
小さいくせに見かけによらず恐ろしいやつらだった。こんなところは早く抜け出したい。だが、逃げたと思われるのもしゃくだ。絶対に狩りを成功させてやる!俺たちは火を操って奴らの大切な森を焼いてやった。さぞや度胆を抜かれた事だろう。
だがこんなもんじゃない。俺たちは無敵だ。
森を抜け村へ入ると、無防備なこの国の連中は、俺たちを見て驚いた。俺は嬉しかった。俺たちの強さを目の当たりにした人間の顔と言うのはなかなかの見ものだ。
夕暮れ近くなっていたのもあり、俺たちはだんだんと力が出てきた。肌が灰色からうろこに変わる時間だ。この時間は俺の大好きな時間だ。
俺は木でできた家に入り込み、寝っころがっているガキをむんずと掴んだ。ガキは何も言わず、泣きもしない。簡単なもんだ。俺はそのガキを、持っていた袋に入れた。
その時、そこにもう一人ガキがいた。俺くらいの年齢だろう。身体もそれなりに大きかったが、何しろ顔が幼い。こいつはダメだ。きっともう喋るだろうから、狩っても意味がない。俺はそいつを蹴り飛ばした。そいつは蹴られて派手に転がった。こいつらは身を守るという本能はないのだろうかと疑うほど鈍い。だが起き上がってこようとするので、さらに3回ほど腹を蹴ってやった。
そのままその家を脱出。
ついでなので、隣の家にも入って行った。その家にはさっき俺が蹴ったガキよりも小さいガキがいた。そばには大人も誰もいない。ちょうどいい。今回は1人を狩れれば良いと言われたが、2人も狩れそうだ。
俺はその2人目のガキを掴もうとした。
だが、そのガキは俺の手を避けやがった。俺は頭に血がのぼった。近づいて顔を何発も殴ってやった。
「わあー!」
そいつは高い声で叫んだ。良い声だ。
十分に痛めつけてやって、そのガキを袋に押し込んだ。そうして、大人たちに合流して、また森へと入り込み、森を抜けた。しばらくは色んな声が俺たちを追ってきたが、そのうちそれも静かになった。根性のないやつらだ。
俺たちは狩りを成功させた。だが、労力のわりにあまり収穫はなかった。森はデカく、町は小さい。この国に狩りに行くメリットはないようだ。
あの樹紀の国から俺たちの住む火の国までは遠い。歩いて何日もかかる。その間に狩りができそうならするが、できないこともある。
当然俺たちは腹が減るから、狩った獲物を食べることになる。
俺たちは適当な荒野に着くと、そこで袋を広げて獲物を見せあった。
大人が6人、俺ともう一人成人していないガキがいて、みんな狩りを成功させていた。袋から出したガキで一人は死んでいた。そういうのは早く食わなけりゃならない。腐っちまうからだ。
俺は初めての狩りで、2人も狩れたことが嬉しくて、意気揚々と袋を開けた。その中から転がり出てきたガキを見て、みんなが変な顔をした。
「おい、ベイ、こりゃダメだ」
親父が俺に言った。ダメ?ダメってどういうことだ。
「なんでだよ」
「デカすぎるだろ。もっと小さくて尻がでかいやつじゃないとダメなんだ。こっちのガキは良いがよ」
そう言って、小さい方のガキをつまんで見せた。たしかに2人目のガキはちょっと大きかった。それに自分で立っている。
「じゃあ、捨ててくか?」誰かが言った。
「そうだな、こりゃ、無駄骨だ。捨てて行こうぜ」
みんなで合意した。俺はすごく悔しかった。でもまあ、1人目は成功したから良いことにするか。
だけど俺は、なんでそのガキがダメなのかわからなかった。
「なんで捨てるんだ?今食っちまえば良いじゃないか」
そう言って、火をつけようとしたときに親父が止めた。
「やめろ!」
「なんでだよ」
「お前知らないのか?」親父が言った。「喋れるやつは殺せねぇんだよ。火では、な。火をつけようとすると、俺たちがやられちまうんだ」
本当だろうか?俺は大人たちが成人を焼いたところを見たことがある。じゃあ、アレはなんだったんだ?
「喋れるやつを焼くには、本当の名前を言わなきゃならねぇ」誰かが言った。
「本当の名前か」
なるほど。どっかの国では、本当の名前を大切にするらしい。俺たちはそんなことはないが、本当の名前というのは“契約”にある。俺たちは獲物を燃やすときに“本当の名前”を言わなきゃならねぇときがあることは確かだ。
ただそれは面倒くさいから、その必要がない、獣やまだ喋れないガキを狩るわけだ。
だがこのガキが本当の名前を大切にしているかどうかはわからない。俺はこのガキに聞いてみた。
「お前、名前は?」
「僕は、シン」
そのガキは答えた。ちゃんと喋れるガキだ。
「それはお前の本当の名前か?」
そう聞くと、シンというガキは首をかしげた。小さくてよくわかってないらしい。
「やってみりゃわかるぜ」
俺の嫌いな叔父貴がしゃしゃり出てきて、舌舐めずりをした。腹が減ってしょうがないらしい。叔父貴はガキの顔に手をかぶせて
「シン、死ね!」
と言って炎を出した。
炎はシンの顔を焼かず、叔父貴の顔を焼いた。そのまま叔父貴は焼け死んだ。
俺は少し驚き、“契約”を理解した。
叔父貴は身体がボロボロに砕け、ほとんど灰になっちまった。俺たちは死ぬとこうなっちまう。髪の毛だけが残ったのを、俺の親父が集めて束ねていた。俺たちはこれしか残らない。これが墓になるわけだ。
とにかくこいつの名前はシンだが、本当の名前というわけではないことがわかった。俺たちはこいつを炎で殺すことはできないわけだ。そうなると、勝手に死んでもらわなけりゃならないらしい。
手違いで面倒なもんを持って来ちまった。
「だから捨ててけばいいんだよ」誰かが言った。
「まあ、良いじゃないか。もしかするともう少し大きくなったら本当の名前を言えるようになるかもしれん。そうしたらデカい肉が食える」
「なるほど」
みんなが、このガキを育ててから食うことに賛成した。
「奴隷にしてこき使ってやれば良いんだよ」
「まあ、捨ててっても良いがな」
大人たちは適当なことを言った。そうは言っても、このガキを連れてきちまったのは俺なんだから、俺が面倒見るってことじゃねぇか、面倒くせぇ!
「お前、何歳?」俺は聞いてみた。
「僕、4歳」
「はあ?4歳?俺とほとんど違わねぇじゃねぇか!」
驚いた。2歳くらいかと思った。
てことは、コイツの成長はえらく遅いってことか?こんなんで、本当の名前が言えるようになるまで成長するのに何年かかるんだよ。
俺は、そのうち捨ててやる、と心に誓った。




