星のふるさと
「うわあ~。綺麗な星空だねぇ」
「だね~」
黒猫と末っ子くんは丸一日をかけて遠くの山までやってきました。
そこは人里離れた高い山で、誰一人いません。
空に一番近い場所で、黒猫と末っ子くんは着地しました。
黒猫は地面に寝そべり、末っ子くんは黒猫の横にちょこんと座りました。
星々が瞬く綺麗な空は、今にも降ってきそうなぐらい輝いていました。
「ずっと空を見上げて、そして祈って。翼が欲しいって。流れ星が現れてもずっと願い続けて」
「う、うん」
気合を入れた黒猫と末っ子くんは一晩中でも祈り続けるつもりでした。
もう一度空へ飛び立つために。
羽ばたくための翼を。
どうか、この身に得られますように。
「あ、また流れ星」
「………………」
黒猫が流れ星を見つけて、その度に末っ子くんは強く祈ります。
流れ星が落ちるタイミングで強く願えばきっと叶うと信じているのです。
しかし末っ子くんの背中にあるのは、未だに傷ついた翼だけです。
新しい翼はまだ得られていません。
一晩中祈っても、願っても、もしかしたら叶わないのかもしれない。
黒猫の願いが叶ったのは偶然でしかないのかもしれない。
そんな不安に押し潰されそうになりながらも、末っ子くんは祈り続けます。
諦めないこと、願い続けることを黒猫が教えてくれたから。
「夜明けが……近い……」
地平線がうっすらと明るくなってきました。
朝焼けの輝きに星々の光が掻き消されていきます。
「お願いだよ……ボクは、翼が欲しい! どうか……お願いだから……!」
流れ星はもうありません。
星々に願っても、翼は生えてきません。
「どうして……」
黒猫は悔しくて呻きます。
自分には翼を与えてくれたのに、どうしてこの子には与えてくれないのか。
何が足りないのか。
諦めることだけは違うと分かっています。
だけど、何かが足りないんだということも分かります。
あの時自分は何を思ったのか。
何を願ったのか。
どこへ行きたかったのか。
その時の気持ちを必死で思い出そうとします。
「お願いだよ。ボクにもお兄ちゃんと同じ翼をください!」
星が消えていく中、末っ子くんは祈り続けます。
悲痛な声で願いを口にします。
「分かった!」
その言葉で、何が間違っていたのかを悟った黒猫は急いで末っ子くんに呼びかけます。
「ちび! そうじゃない! ぼくと同じ翼じゃ意味がないんだ! 心の翼は、自分だけの翼なんだ。誰とも同じじゃない! だから、もう一度願って! ぼくと同じじゃない! きみ自身の翼を! 自分だけの翼を!」
「っ!」
空を駆けるたった一つの翼。
辿り着きたい場所は、自分の翼で目指さなければならない。
その事に遅まきながら気付いた末っ子くんはもう一度祈りました。
一晩中の願いを凝縮して、祈りが空へと届くように。
「ボクの翼を! どうかっ!!」
ボクだけの翼をっ!
その祈りが空に届いた瞬間、一際目立つ流れ星が落ちていきました。
燃え盛る炎のような激しい光を撒き散らしながら、夜明け前の空、その彼方へと堕ちていきました。
「あ……!」
「やった!」
その瞬間、末っ子くんの背中に白い翼が生えてきました。
黒猫のとは違う、真っ白な光る翼が。
「わあ!」
ばさり、ばさりと羽ばたかせると、ふわりと身体が浮きました。
「やった! それがきみだけの翼だ! ちび!」
「うん! うん! お兄ちゃんのお陰だよ!」
「そんなことないさ。ちびが諦めずに自分だけの翼を求めたから、その願いが叶ったんだ」
ばさり、ばさりと空へ昇ります。
同時に太陽が昇り、ふくろうには辛い時間帯になってきました。
夜通しで祈り続けたので疲れていることでしょう。
「どうする? 夜まで休んでからお母さんのところに戻る?」
「ううん。すぐに、今すぐにお母さんのところに戻りたい」
身体は少しきついままですが、それでもここでじっとしていることは出来ませんでした。
きっとお母さんは末っ子くんを心配していますし、それに何よりも、ようやく得た翼で空を飛びたいという強い願いが勝りました。
「帰ろう! お母さんのところへ!」
「うんっ! 一緒に帰ろう!」
黒猫と末っ子くんは飛び立ちました。
お母さんが待つ森を目指すために。
さなぎさんってば一体どうしちゃったの!?
……とかこのあたりで言われそう(^_^;)
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