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無題

作者: 白銀


灼熱の溶岩が所々から溢れ出て、灼熱の大河が流れているある火山の奥地。その奥地の岩場にて1人の男が四つん這いに倒れていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、ッゲハ、ゴホッゴホ!」

口から血反吐を吐きながら、俺は熔岩が固まってできた岩場に四つん這いになる。

……ザッと見た所、左腕の複雑骨折、右脚の重度の火傷、左目の全損、腹部に開いた大きな孔、数え切れない全身の打ち身、切傷、軽度から中度の火傷、血反吐を吐いたから肋も幾つかが折れて肺や内臓に突き刺さっているな。

はは、吐いた血反吐や傷から溢れ出た血液で水溜りが出来てらぁ……こりゃ、助からねぇな。

何処か冷静な思考が、自分のこのボロボロの身体をそう診断した。

「ゲホゲホ、グボハァ」

咳き込むと同時に、口から先ほどよりも多い血反吐を吐き出てくる。

アイテムポーチの中身も全て使い果たした。秘薬やその他の回復系アイテム。俺が得意とする爆弾も何もかも全てだ。使い切った事の無い砥石すら使い切った。そのせいで刃こぼれでボロボロになった相棒の刃を研いでやる事も出来やしねぇ。

「グパァ、ハァ、ハァ」

咳き込みはしないが、血で赤く染まった涎がタラタラと垂れてくる。

……もう、長くないかもしれんが、まぁそりゃそうか。命を代償にするような攻撃だったもんな。

だが、そのおかげで奴を葬る事も出来た。そう考えればこの代償は安いのかもしれん。

俺はそう考えながら、痛む身体に鞭打って前方を見やる。

「――」

其処には物言わぬ屍と成った巨龍が岩の上に横たわっていた。

その姿は翼をズタズタに破られ、角を切り落とされ、深紅の鱗を砕かれ、熔岩より紅き血を大地に流しながら死んでいたとしても、畏怖と恐怖の感情、そして自分が死ぬという幻想を湧き上がらせてくれる。が、伝説として謳われ、厄災の象徴として君臨していたこいつは死んだ。俺の、厄災の頭部に突き刺さった相棒の刃によって。

「グボフ、ゲホゲホ」

あ~吐き出す血の量が減ってきたな。多分出血多量で身体の血液が無くなったのかな? とすれば万が一救援が来ても助からねぇな。まぁ救援なんて来ないだろうけど。

俺は人が嫌いだ。まぁ人が嫌いつっても人類滅亡ヤーハーって訳ではなく。無関心なだけなんだがね。あ~でも困ってたり泣いていたりする子供なんかは例外だ。当たり前だろ? 子供が泣いてるのに助けない人が何処に居る。それが例え自分が死んでしまう状況であってもだ。助けないで後悔するより、助けてから後悔した方が良いと思っているからだ。……まぁウザいガキや明らかに子供に非がある場合は別だけどな。

人嫌いの理由は……まぁ過去に色々あったのさ。思い出したくも無い。まぁそのせいか、俺は常に1人だったんだけどね。別に孤独とか孤高を気取ってたわけじゃねぇぞ。ただ他人とのコミュニケーションが面倒だったから、話しかけられても必要最低限の反応だけしていたら自然と1人になっちまっただけだ。そのほうが気楽に旅できたからそのほうがよかったんだがな。まぁその弊害として、モンスターや盗賊共が襲い掛かって来ても1人で対処せんといかんかったが、これも鍛錬の1つと割り切ったよ。そのほうが鍛えれるし、金や武具の材料も1人だけで入手できるからな。

……そういや、今までの人生振り返ってみたら、これまでの人生隣には誰も居ないな。いつも1人だった。まぁ他人の事なんてどうでも良かったし、別に良かったんだがね。

けどね、そんな俺でも、目の前でモンスター共に食われ掛けられた子供がいたのを見たら、絶対に致命傷は免れない相手だろうと助けに行くさ。例えこの命をなくそうともな。

そこからの話は簡単、子供の囮と成った俺は厄災の巨龍を火山の奥深く――つまり此処――に誘い込んで戦った。結果はご覧の通り、相討ちさ。俺の相棒を巨龍の頭に突き刺した瞬間、カウンターで腹部を牙でぶっ刺されて風穴を空けられた。

くくく、だがしかし、だがしかしだ。相討ちとはいえ1人であの厄災を討伐できるとはなぁ。俺があと10歳若かったら生きて帰れたかもしれんな。……まぁ成ってしまったのは仕方がないか。それに、ここらが丁度いい引き際だったのかもしれないな。人嫌いが祟り1人旅をすること凡そ40年と少し。年齢は50を過ぎて爺と呼ばれてもいい年頃、ホント、丁度良かったのかもしれないなぁ。俺の目標でもある史上初の大偉業を果たせたのだから。

そう思うと自然と頬が緩んでしまう。多分、今の俺はニヤニヤと笑っているんだろうな。

「グフ、ガハガハ……ック……はぁ」

痛む身体を無理矢理転がし、仰向けに寝そべる。

ふぅ、疲れた。あぁ疲れた。ホント疲れた。

……そうだ。久々に村の実家に帰ってのんべんだらり隠居生活ってのも悪くないかもな。親父やお袋は死んじまってるし、いい加減墓参りに行った方がよさそうだしな。実家には確か姉夫婦がいた筈、土産を持って行った方が良いよなぁ。……そうだなぁ。余った素材で小さな置物を作ろうか。それともネックレスとか装飾品? そう言えば孫がハンターに成ったとかなんとか手紙に書いてたな。そこそこ使いやすい装備品を土産にするのもいいかもしれないなぁ。

俺はこれからのことを色々と夢想しながらも、自分の身体が上手く動かなくなるのを感じ取っていた。もう長くない。そう直感した。

「何はともあれ……疲れた、なぁ……」

重くなってきた瞼に耐え切れず、俺は眼を瞑った。

すると瞼の裏に今までの記憶が蘇ってきた。村の父と母の顔、村の風景、村を飛び出した日の事、襲い来るモンスターとの闘いの日々、最強種との命を懸けた死闘の日々、それらを倒した時の達成感、厄災の巨龍との絶望的な闘争、奇跡の勝利。そして、その合間合間にあった何の変哲のない平凡な日々。

それだけではない。その前、所謂前世の記憶も蘇ってきた。両親が死んだあの日、両親の遺産をもぎ取って行く自称親戚、心休まった孤児院、孤児院で暮す同じ境遇の仲間、仲間を救うため人嫌いながら孤軍奮闘した社会生活の日々、着々と理想へ向けて頑張った日々、そして1度目の死。

今までの人生は辛いこともあった。が、それにも増して楽しかった。満足だ。俺が歩んできた人生に悔いは無い。一度死んだせいか死ぬことへの恐怖も感じ無い。むしろ、穏やかな気持ちにすらなってきた。

「ふぅ……ホント疲れたよ」

貯め息と共に呟くと、不意に何かから引っ張り出されるような感覚を感じた。

そして俺は静かに、誰にも見守られることなく2度目の死を迎えた。







































――筈だった。






































「ちーす、俺の名前は(ヤハウぇ)。単刀直入で言うけど、君。ちょっくら転生してくんない?」

「……ハァッ!?」


どうやら俺の命運は未だ尽きないようだ。






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