第35話 茶番劇②(side浩輔&朱里)
もうしばらく浩輔&朱里にがんばってもらいます。
~浩輔side~
結局、殆ど食事も取れないうちに俺は客たちに囲まれることになった。
口々に爵位と姓を賜ったことを祝い、容姿を褒め、討伐への期待を言い、朱里との仲を聞く。
異世界から召還されたということはオフィシャルらしく、向こうのことも聞かれたり・・・
一頻りの質問タイムが終わると、今度は女性に囲まれる。
魔王討伐の暁には王宮で重用し爵位もその上の伯爵に上がるとか何とか。
ようは、今の爵位は俺の行動にそこそこの自由を与えるためのものである仮の爵位で、討伐後、正式に授けられるということらしい。
そして、今のこの状況はそれを見越しての貴族の娘の婚活ってやつか?
俺はこっそり溜息を吐いた。
むせ返るような香料と白く浮き上がる化粧、顔には出さないが、媚を売る女にうんざりだ。
反吐が出る。
お互いに牽制し合い俺に自分を売り込もうと奮闘している女たちに微笑みかけながら朱里の様子を窺う。
朱里は「パーティーは男に囲まれ楽しめないから嫌いだ」といつも言ってたけれど・・・
今日は楽しめているようだな。
キーファにエスコートさせしっかり食事も取っている。
ちゃっかりしている。
俺の視線に気が付いたのか、こちらを振り返り華のような笑顔を見せた。
だが、その目は、
「大変ねぇ、ま、がんばって。私は私で楽しむから。なんだったらその中の誰かをお持ち帰りしたら?」
とニンマリ笑っている。
誰が持ち帰るか!
こんなとこでそれをやったら面倒なことになるだろうが・・・まったく。
「コースケ様、今後のご予定は?」
「私とお庭を散歩しましょう」
「向こうに綺麗な花壇がございましてよ。夜の灯りでとても幻想的ですの」
遠まわしな誘いから、
「お部屋に美味しいお酒をご用意してありますわ。ゆっくり語らいませんこと?」
あからさまな誘いまで・・・・・・
それを適当にあしらう。
透流、お前は俺のことを「モテるのに気が付きもしない鈍いやつ」と言うが、俺は自分がモテているのはちゃんと自覚している。
ただ、俺にはお前という本命がいるから遊びと割り切っている女としか遊ばないだけだ。
割り切れる女が少なすぎるのが難点だが。
まぁ、透流がちゃんと俺の想いに応えてくれたら他で処理することも無いんだけどね。
ここまでオープンにモーションかけても気がつきもしない。
鈍いのはどっちの方だっていうんだ。
煮詰まり過ぎたら行動に責任持てないぞ。
俺は隠すこともせず深く溜息を吐いた。
☆
~朱里side~
食事もそこそこ、あっという間に浩輔くんはお客さんに囲まれてしまった。
私のほうにも何人か来ようとしたけど隣にキーファがいるからか遠慮してるみたい。
視線は感じるけど近づいても来ないわ。
キーファってそんなに怖い?
チラッと見上げると、
「どうしました?」
軽く方眉を上げて微笑み返してくる。
「別に・・・」
確かに超が付くほどの綺麗な顔だわ。
背も高いし、モテ要素はたっぷりよね。
一見チャラ男の腹黒だけど。
今でも私をエスコートしつつも綺麗な女性には流し目を送ってるわ。
独身人妻見境無く。
相手も満更でもない様子。
マメよねぇ。
軽く溜息。
「アカァリ?料理はお口に合いませんか?」
「料理に溜息付いたわけじゃないんだけど・・・、まぁ、料理は不味くはないわね。美味しくもないけど」
「美味しくない?」
「えぇ、物足りないのよ。ファストフードの濃い味に慣れた私たち現代っ子には物足りない味ね」
味は和食の洋風バージョン?
スープの味に塩気、ハーブかしら?香草の香りが少し。
「スパイスが欲しいわね。こう、ピリッとするものが肉料理には欲しいかも」
「なるほど・・・私たちはこの味に慣れきっていますからね。貧しい者になると塩も手に入りませんから塩気の殆ど無い物を食べていますから、これでも塩気が効いたご馳走なんですよ」
「そういうものなのね・・・」
この世界に生まれなくてよかったわ。
無事に帰れるかはわからないけれど。
さほど美味しくもない料理を適当につまんでいたら浩輔くんの視線を感じた。
今は女性に囲まれてる。
相変わらずのモテっぷりね。
私はニッコリと微笑み返してあげた。
その中の誰かと仲良くしてたらいいのに。
お持ち帰りしてどっぷりはまっちゃったら?
私は応援するわよ?
そしたら透流くんは私だけのものになるものね。
そんな私の思いに気が付いたのか、浩輔くんはムッとした表情になる。
そして、私に気を取られている浩輔くんを振り向かせるために周りの女性たちも色めき立つ。
腕を絡めたり胸を押し付けたり涙ぐましい努力ね。
残念なことに浩輔くんは透流くん一筋。
そう、本当に残念だわ、他所見してくれたらいいのに本当に一筋なんだもの。
溜まった性欲は適当に処理してるみたいだけど・・・こっちではどうなのかしら。
透流くんが見つかったら危険かも。
できれば私が先に見つけたいところだわ。
浩輔くんが深い溜息を吐いてる。
がっくり肩を落としてしょぼくれてるようにしか見えないのに・・・
ほら、周りは誤解する。
「何か心労がお有りなのかしら?」とか、「その憂いに満ちた表情が素敵」とか、「苦悩するコースケ様はカッコイイ」とか・・・
腐りまくってるわね、目が。
もしくはブラックホール並みの節穴ね、目が。
そんなこんなで時間もたち、テーブルもさりげなく壁際に追いやられ、楽団がスタンバイ。
見たことがあるようなないような・・・そんな楽器が奏でられ音楽が始まった。
生音でのダンスタイム。
聴いたことのないメロディーラインだけどリズムは単調。
最初は国王と王妃が踊るのね。
「この曲は王族のみが踊る曲です」
キーファが説明してくれる。
「この曲が終われば他の者も踊れますよ」
「ふぅん・・・そうなんだ」
ステップも複雑なものじゃないわ。
ワルツの基本に近い感じ?
「踊っていただけます?」
「リードはお任せしても?」
「お任せください、姫君」
キーファが芝居がかったお辞儀をする。
「では喜んで」
私もそれに乗って手を差し出す。
ちょうど曲が変わり、国王夫妻は拍手の中退場。
私は優雅に手を取られフロアに出た。
キーファにリードされターンを決めながら・・・・・・
こいつ・・・神職者のくせになかなかやるわね。
☆
~浩輔side~
朱里がキーファとフロアに出た。
さすがと言うか・・・朱里がしっかりリードされている。
まぁ、それが当たり前のことなんだけど。
しかし・・・・・・
この女性たちの視線がウザイ。
誘って欲しいという秋波がガンガン送られてくる。
俺は溜息を吐きとりあえずステップを覚えるために基本に忠実に踊っていそうな老夫婦に目をやった。
・・・・・・なんだあの夫婦は!?
アレンジしまくりのステップじゃないか!
てか、いくつだあの2人!?
信じられないほど元気だな、おい!
ダメだ、あの2人はダメだ。
俺は改めてフロアに目をやり比較的おとなしく綺麗に踊っているカップルに目をやった。
これなら何とかなるな。
覚えておいてよかったよ、社交ダンス。
フロアを見渡すと・・・いた、リーゼだ。
俺は約束を果たすべくダンスフロアを迂回してリーゼの元へ向かった。
「リーゼ、約束どおりに誘いに来ました」
「コースケ、ありがとうございます」
俺が声をかけるとリーゼははにかんだ笑みを浮かべスカートをつまみ挨拶を返してきた。
「ドレス姿のリーゼもとても綺麗ですよ」
「そ・・・そうですか?ドレスは着慣れていないので似合うかどうか心配だったのですが・・・」
「よくお似合いです」
瞳の色に合わせたのか淡い水色のふわふわとしたドレスはリーゼによく似合っている。
透流の母親がリビングに飾っていた人形っぽい。
はにかんだり微笑んだりと人間らしい表情をしているのだが・・・とにかく人形にしか見えない。
とりあえず1曲踊ればノルマ達成だ。
「次の曲、一緒に踊っていただけますか?」
「はい、喜んで!」
さっさと終わらせて部屋に帰りたい。
いい加減に疲れた・・・・・・
リーゼと並んでフロアを眺める。
さっきまで俺を囲んでいた女性たちの視線がリーゼに突き刺さっているようにも見えるが・・・
リーゼは気づいているのかいないのか、澄ました顔で朱里を見ていた。
「コースケ、聞きたいことがあるのですが・・・」
「はい、なんでしょう?」
「コースケと・・・その、アカァリはどういったご関係なのですか?」
「朱里との関係?」
「はい」
「朱里とは幼馴染です。小学・・・6歳の頃から一緒に遊んでいました。僕と朱里と透流の3人は家も近く、幼い頃からいつも一緒に遊んだり行動したりしていました」
「恋人では・・・?」
「朱里とですか?違いますよ。確かに大切な親友ではありますが、恋愛感情を持ったことは一度もありませんね」
「そうなのですか」
朱里と恋愛なんて考えたことも無い。
向こうも俺となんて嫌に決まっている。
視線の先、朱里が軽やかにターンを決め曲も終わった。
キーファにエスコートされ朱里はダンスフロアを出るが、今度は国王に誘われている。
上品に笑っているけど・・・内心は辟易してるんだろうな。
曲が始まった。
朱里は国王とフロアへ出る。
俺も行きますか。
「リーゼ、お手をどうぞ」
俺はリーゼの小さな手を取るとフロアへ出た。
30㎝近い身長差がなんともなぁ・・・・・・
踊りながら朱里たちと擦れ違う。
「大木に蝉・・・」
擦れ違いながら朱里が日本語で呟いた。
言われなくてもわかってるよそんなこと。
「今、アカァリは何と・・・?」
「ちゃんとリードしなさいと言ったんですよ」
「そうなのですか」
「はい。僕はちゃんとリードできていますか?」
「えぇ、コースケはとてもお上手です」
「ありがとうございます」
「あ・・・あの、コースケ」
「はい?」
「コースケは・・・恋人はいますか?」
「恋人ですか?」
「はい・・・もしくは大切な・・・愛する人は・・・?」
脳裏に微笑む透流が浮かぶ。
「恋人はいませんが・・・大切な人はいます。僕にとって最初で最後、心の底から愛する人です」
「それは・・・ッ・・・どのような方なのですか?お聞きしてもよろしいですか?」
「構いませんよ。その人は・・・唯一無二、生涯かけて守り愛し抜くと決めた相手です。誰よりも繊細でありながら誰よりも強い心を持ち、その笑顔は僕らに幸せをもたらしてくれます。腕の中にすっぽり納まるほど小柄なのに元気いっぱいで、気がつくと腕をすり抜けて行ってしまっている。心を許した者にだけ見せてくれるうち解けた様子が愛しくて・・・」
俺たちや家族といる時にだけ見せてくれる快活な笑顔。
幼い頃のようにいつも見せてはくれないけれど、その笑顔は何ものにも代えがたい。
だが、どんなものからも守り、自由に羽ばたかせたいと思わせる反面、俺の手の中に閉じ込め、その笑顔を壊したいという被虐心も煽る。
俺の腕の中でどんな泣き顔を見せてくれるんだろう・・・・・・
自嘲する。
愛し過ぎて暴走する俺の心。
今は理性が勝っているけれど、いつ箍が外れるのか・・・時間の問題なのかもしれない。
☆
~朱里side~
「陛下、王妃様と踊らなくてもよろしいのですか?」
くるりとターンしながら問う。
「アカァリ、エレと呼んでおくれ」
こいつ・・・
「・・・では、エレ陛下・・・」
「エレ」
・・・チッ。
「・・・・・・エレ様、奥様と踊らなくてもよろしいの?」
「・・・まぁいいか」
妥協させたぞ。
「あれは体が弱くてね。1曲踊るのがやっとなのだよ」
「お体が・・・それは心配ですね」
「本当ならゆっくり休ませるべきなのだろうが、正妃という立場上そうも言っていられなくてね」
「そうですか」
国王、エレヴァティー・ラクシュト・イシュトビオス、28歳。
即位して3年、一見柔和で艶やっぽい顔立ちだけどこう見えてかなりのやり手。
侍女からの情報によると、即位してすぐに国の財政にメスを入れそこそこの膿を出したようだ。
まだ出し切ってはいないけど、毎年人事の面で何人かの移動や粛清があるそうだから現在進行形ってとこなのかしら?
側室は3人、まだ子供は無し。
「アカァリ?」
「いえ、なんでもありません」
じっと顔を見ていたから不審に思われたかしら?
浩輔くんたちが視界に入った。
背の高い浩輔くんと小さいリーゼロッテ。
まるで大木に蝉ね。
すれ違いながらそう言うと、浩輔くんは苦笑を浮かべた。
「アカァリ?今の言葉は?」
「浩輔くんとリーゼロッテさん、あの2人の身長差がおかしくてまるで大きな木に虫が止まっているみたいだと揶揄したんですの」
「あぁ、なるほど。・・・・・・確かにそう見えますね」
エレがクスクス笑いながら肯定する。
また浩輔くんたちとすれ違う。
・・・どうしたのかしら、なんだか変。
浩輔くんの笑顔が自嘲してるみたいだし・・・リーゼロッテさんの表情は能面のように笑顔が貼り付いている感じ。
何かトラブル?
考え事をしていたら視線を感じた。
視線を追うと壁際に一人の中年の男性。
誰かしら?
「エレ様、あの壁際の男性は?今、宰相さんとお話してみえる方です」
「ん?・・・あぁ、あれはヴィージンガー公爵ですよ。リーゼの父君です」
「リーゼロッテさんの?」
父親にしては年を取ってる、かといって祖父には若い。
「リーゼの父親としては年嵩だと言いたいのでしょう?」
「えぇ、失礼だとは思うのですが、祖父の間違いじゃないのか?と思いました」
「リーゼは後妻の子なんですよ。先妻を病気で亡くしてね、子供がいなかったため後妻を娶り生まれたのがリーゼです」
「どのような方なのですか?」
「愛妻家ですよ」
エレは面白そうに笑う。
「大陸一の美姫と言われるマルグレーテを妻にしていますからね。愛妻家の上、やっと得た一人娘のリーゼを溺愛しています。それこそ祖父のように」
「爺バカが入った親バカってヤツか・・・」
「アカァリ?」
無意識に日本語で言ってたみたい。
私はニッコリと微笑んでごまかしておいた。
こっちを見るあの視線がなんだか嫌だ。
それに、さっきのリーゼロッテの表情も気になる。
嫌な感じ。
ただの杞憂で何事もなくすんだらいいんだけど・・・・・・
あぁ、疲れた。
早く部屋に帰って休みたいわ。
茶番劇は続く、不穏な気配を孕みながら。
ほんと、嫌になっちゃう。
キャラの整理したほうがいいかなぁ。
キャラ設定必要ですか?
今日も聞きますいつもと同じことを。
間違い等がございましたらご連絡ください。




