12月22日 ヘリオトロープ
12月22日
ヘリオトロープ
Heliotrope
#9079B6
R:144 G:121 B:182
12月22日 ヘリオトロープ
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亜沙子は、少し古めかしい感じのするものが好きなのである。
高校生だったころから、放課後は、古い市庁舎を改築した図書館へ通い詰めていた。
内装は図書館のそれに変えられていて、本棚もごく普通のものであったが、階段の踊り場の壁に開けられた色ガラスの装飾や、廊下の壁に貼られている歴史を経た色合いの腰板などは、それなりに趣があった。
そして、図書館では、明治の文豪たちの作品を読み耽るのが常だった。
今では失われてしまったもの。古い言葉使いや、独特の言い回し、そして往時の事物に浸っていると、時間などあっという間に過ぎ去った。
ガス灯の並ぶ通り、煉瓦の建物、ヘリオトロープの香り……。
化粧品や香水など、まだそれほど詳しくもなかった高校生の亜沙子にとって、ヘリオトロープの香りは、その不思議な語感だけで、秘密めいて魅惑的なもののように思えた。
漱石先生は、どこで知ったのかしら?
偏屈で胃が弱く、ノイローゼ気味だったという先生が、いったいどんな経緯で香水などに触れたのか、想像してみるだけでも、楽しい気分になったのだった。
写真は、ヘリオトロープの花。
ムラサキ科の植物、ヘリオトロープ(別名:キダチルリソウ、ニオイムラサキ)の花のような青紫色。
ギリシャ語のhelios(太陽)とtrope(向く)で、「太陽に向かう」という意味があるそうです。ギリシャ神話にも登場するらしい……。
しかし、このヘリオトロープという植物は、ペルー原産。ヨーロッパに知られたのは1757年以降なので、何かが変。ギリシャ神話の「ヘリオトロープ」ってヒマワリのことじゃないかと思うのです。
なぜ、ペルー原産の植物にこの名前を付けちゃったのかは、よく分かりません。
ヘリオトロープは、バニラのような甘い香りがするため、香水の材料とされたようです。
日本に輸入され初めて市販された香水は、ヘリオトロープの香水『Heliotrope Blanc』だったと言われています。しかし、白いヘリオトロープっていう意味ですよね? これ……。
そして、ヘリオトロープの香水が登場するのは、夏目漱石の小説『三四郎』です。漱石先生、本当に、どこで、この香水を知ったのでしょうかね(笑)。




