11月3日 黒茶
11月3日
黒茶
くろちゃ
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11月3日 黒茶
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「あの、すみません。必ず家に連れて帰るので、今日の就業時間中、この子を置かせてもらえませんか?」
朝一番、段ボール箱を抱えたままの後輩の口から出た言葉は、それだった。
段ボール箱の中には何かがいるらしい。
「他の人のアレルギーとか把握してないから、独断でOK出せないよ。」
私は、そう答えた。
「そうですよね。どうしたらいいでしょうか?」
そう言われてもな。
「警備員室へ行って、訊いてみるしかないかなあ。置いておけそうな場所を知ってるとしたら、あそこのおっちゃんたちだろうし。」
思わず口にした言葉に、後輩の曇った顔は、一挙に晴れた。
「ありがとうございます。早速行って来ます。」
「って、中にいるの何? そもそも警備員のおっちゃんたちがアウトの可能性もあるんだし。」
「黒と茶の混じった子です。」
「はあ?」
段ボール箱の中身は、黒と茶の混じった毛に覆われたウサギだった。
「……警察に届けた方が良くない?」
「この子、落とし物だってことですか?」
「そもそも、どっから拾ってきたの?」
「第一駐車場の端っこに置かれてあったんです。最初っから、この段ボールに入ってました。」
「第一って、社内の駐車場ってこと? それは、落とし物の線は無いか。捨てられたんだな。はあ、ちょっと待ってて。」
私は、警備員室へ内線をかけた。
「おはようございます。総務の林です。あの、あさイチに大変申し訳ないのですけど、第一駐車場に、ウサギが捨てられていたみたいで。」
「うなぎ?」
「ウ、サ、ギ。植木鉢のウ、鮭茶漬けのサ、義理人情のギ、です。」
「生きてるの?」
「死んではいませんね。」
「それ警備対象になるんかなあ?」
「拾得物として警察に届けるべきですかね? 一応、引き取り希望者はいるんですけど。就業時間中は、どっか別の所にいてもらわないと……。」
私は、後輩の方をチラリと見た。後輩は頷きで返事をしてみせた。
「ウサギだってさ。」
「は?」
「駐車場に捨てウサギがいたらしい。」
「捨てウサギ。また珍しいもん見つけたなあ。ウサギって食パンの耳食べるんだっけ?」
受話器の向こうの、のんびりとしたおっちゃんたちの会話が聞こえた。何とかなりそうだ。
「とりあえず、警備員室に連れてきて。あ、ウサギ入れとく箱が要るか……。」
「大丈夫です。箱入りです。」
「箱入りなのに、捨てられちゃったのか。可哀想に。」
黒と茶色の塊は、とりあえずの居場所を確保したのだった。
写真は、ウサギ。
黒みがかった茶色。
ウサギは草食動物で、餌は牧草やペレットが良いらしいです。
食パンの耳は、やめた方がよいようです。




