10月27日 錆納戸
10月27日
錆納戸
さびなんど
#476B6B
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10月27日 錆納戸
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もう、かなり昔のことで、記憶も定かではないのだが、幼い頃に住んでいた家の玄関のすぐ脇に、窓のない2畳ほどのスペースの小部屋があった。
いわゆる、納戸と呼ばれるものである。
そこには、読み終わった新聞紙や雑誌が置かれ、次の廃品回収まで溜めておかれる場所だった。
他には、毎年のように作られる梅酒のびんが並べられ、さらに冷蔵庫に入りきらない瓶ジュースや、食用油の缶なんかも置かれていたように記憶している。
どういう仕組みになっていたのか、真夏でもその小部屋はひんやりとしていて、薄暗く、秘密めいた空間として自分の中に残っている。
我が家は家系的にアルコールに弱く、したがって、梅酒など作っても、家族の中で消費されるようなことは滅多になかった。たまに泊る親戚や客に供されることがほとんどだった。
でありながらも、祖母は律儀に毎年きまって梅酒を作っていた。
梅干しの方がはるかに消費されるというのに、梅酒用にわざわざ青梅を分けていた。
そして、作られた梅酒は親戚の家に配られていた。
私は、一度、祖母に訊ねたことがある。「おばあちゃん、家に梅酒を飲む人おらんのになんで毎年作るん?」と。
祖母は「作らんと作り方を忘れてまうからな。」と言った。
忘れないために作り続けられた梅酒は、祖母が亡くなるまでに随分と溜まった。引っ越しの時、それらの多くは、欲しがった近所の人に譲られることになった。ワインでいうところのビンテージ品らしい。
アルコールの消費が少ない家では、結局はお客さん用だった梅酒。
祖母は、いったい誰に飲ませようと思っていたのだろうか?
写真は、果実酒。
納戸色からの派生。くすんだ深い緑がかった青色。
納戸の暗がりを表した色であるとか、城の納戸の入口に掛けられた布の色であるとか諸説あるようですが、よく分かっていません。
古さを感じさせる落ち着いた青です。




