5月19日 千歳茶
5月19日
千歳茶
せんざいちゃ
#494A41
R:73 G:74 B:65
5月19日 千歳茶
*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*
特別に有名な画家の絵が展示されるわけでもない、小規模な企画であればこんなものなのかもしれないが、県立の美術館の展示室は、まるで、間違った時間に忍び込んでしまったかのように、人が少なかった。
展示品の保護のためということで、照明が抑えられ、薄暗くひんやりとしたその空間は、なにか、異空間に迷い込んだような錯覚さえ起こしそうだった。
コツコツと、自分の靴音がやけに響く。
母が誰かからもらったチケットをさらに押し付けられ、特段の興味もないのに訪れたのは、地元の歴史民俗資料館との共催の『江戸時代の暮らし~郷土の歴史と文化のあゆみ』という、やる気があるのか無いのか分からない名前の展示企画だった。
大河ドラマの主人公になるような有名な武将が出たわけでもなく、地元の江戸時代がどうであったかなど、小学校の社会科の授業でも少しばかりやった程度で、よく覚えていない。
展示品の大半は、埃を被った古道具の類にしか見えない。
暇だったとはいえ、なんでこんな所で時間を潰しているのか、残念な休日だ。
展示品をざっと義理を果たす程度に見て、次の展示室に移動する。
すると、薄暗い展示室の一角のガラスの向こうに、衣紋掛けに一枚の着物が広げて掛けられているのが見えた。
きっと、身分の高い人が着たものだろう。
近付いて見ると、全体に細かい刺繍が施されている手の込んでいそうなものだった。
こんな着物、汚しちゃいそうで手を通すだけでも緊張しそうだ。でも、昔の人って、こういうのを毎日着てたんだよな。まぁ、ここに展示されているのは、一般人が着ていたのとは違うだろうけど。
私は最後の展示室も抜け、通路を通ってロビーに戻ってきた。
吹き抜けの天井が高く、解放感と明るさにホッとする。
すれ違った女性は、和服を着ていた。
着慣れているのか、歩き方もスムーズで、後ろ姿もきれいだ。
展示されていたような刺繍で埋め尽くされた豪奢な着物ではなかったが、むしろ千歳茶の帯が、普段から和に接している余裕みたいなものを感じさせた。
あんなふうに着れたらカッコイイな。
今年の夏祭りには、浴衣に挑戦してみようか? そんな考えが、ふと頭に浮かんだのだった。
せんざいちゃ。
緑味の渋い茶色。
千歳茶は松の色である千歳緑から派生した色と考えられ、仙斎茶、千才茶、千載茶、仙歳茶の字が充てられることもある。
江戸時代中期以降は、しばしば流行の色になったとか。




