4月13日 フロスティグレイ
4月13日
フロスティグレイ
Frosty Gray
#E8ECE9
R:232 G:236 B:233
4月13日 フロスティグレイ
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店のドアベルが鳴り、誰かが入ってきた様子だったので、俺は反射的に振り向いた。
最後に会ったのはいつだったろうか?
もう20年は経っているはずなのだが、あの頃の面影が残っていて、すぐに分かった。
「ごめんなさい。待った?」
女の方も、すぐに俺だと気付いたようだった。そして、テーブルの俺の席の反対側に腰かけた。
「時間が余ったんで、早く来てた。ゆっくりしたかったしな。何か頼めよ。」
俺がそう言ってメニューを手渡すと、女はそれに目を落とした。
「それにしても、まさかこんな風に再会することになるとはな。元気だったか?」
俺は、冷めてしまったコーヒーを口にしつつ、会話のとっかかりを探す。
「まぁね。そっちは?」
女は、水とビニールに入ったウェットティッシュもどきを盆に載せて持ってきた店員に、ブレンドコーヒーを頼んだ。そして、言葉も短く切り返してきた。
「あぁ、こっちも変わらずだ。今、何してんだ?」
俺は、内心「何か喋れよ。間が持てないだろ。」と思いつつ、さらに返した。
すると、向こうは察してくれたのか、少し詳しい話をし始めてくれた。
「知り合いの手伝いみたいな仕事をしてるの。設計関係、というかリフォームね。古民家を専門にしてる人なのよ。それで、材料探しをちょっとね。」
「材料探し? なんだそれ?」
女が建築資材を探す様子がまったく思い浮かべられず、俺は戸惑った。
「古民家をリフォームする場合、内装なんかは新しい資材で行うことが多いけど、外側や、いかにも古民家って感じの部分を出したい場合、材料もそれなりに古い歴史のあるものが欲しいわけ。例えば、囲炉裏が欲しいっていう場合、天井から吊り下げる鉤なんか、古びた感じのものを使いたくなるのよ。煤けた竹筒と黒ずんだ金属製の魚ね。そういうのを探してくるの。」
なるほどな。そういうことか。俺は、妙に納得した。
「今、探してるのは結霜ガラス。昔の家にあった、羊歯模様が入ったガラスね。あれを窓に嵌めたり、アンティーク家具のガラス部分に置き換えたいっていうクライアントが結構いるのよ。」
「え、羊歯模様のガラスって、便所のガラスだろ? そんなん需要があるんか?」
「いやぁねぇ。あれ、今、人気なのよ。もう、作られてないから。作られてたの、昭和の初期までだったみたい。」
俺は、もうだいぶ前に取り壊してしまった田舎の祖父母の家にあった窓ガラスを思い出していた。
写真は、ガラスに降りた霜。
薄い灰色。
霜でくもったガラスのような色。
結霜ガラスは、レトロガラスの一種。無数の羊歯模様のような結晶が表面に広がった板ガラスです。
型ではなく、製造途中の板ガラスの表面に膠を塗る方法で造られるとか。
膠が乾く過程で模様ができるため、結晶のでき方は1つとして同じにはならないようです。
日本では大正~昭和初期に製造されていました。




