19day2
海に体を打ち付ける、痛みが襲う。
「…………」
自分の声らしきものが漏れる、だがそれは海水に阻まれ聞こえない。海に叩き付けられた体は、リュックの重さで沈みかける。だからそれを阻止するために、足を動かし、上へと海面を目指す。
「うヴっ」
口から空気が漏れる、足を必死に動かしてはいるが、体は思うように上がっていかない。荷物を投げ捨てたくなる。重たい銃を捨てたくなる。だがこれは僕たちが生き残るのに必要だと堪える。
「ヴヴッ」
体が酸素を求め出す、そろそろ限界なのかもしれない。だが海面は目の前であった。海面に向かい手を伸ばす。何かをつかめるかもしれないと言う期待を込めて。
「ヴッ」
体からすべての酸素が無くなる。その手はなにも掴めず、足は止まり、体は深い海の底へと。
「あなた」
手が何かをつかむ、そして引き上げられる。
「うっはぁはぁはぁはぁはぁ」
体全体に空気を取り込んでいく。
「あなた大丈夫」
「はぁはぁはぁあぁはぁはぁ」
荒く呼吸をしながら答える、紗枝に引き上げられたようだ。
「よかった、あなたが沈んでいって怖かった」
「はぁはぁはあぁ、助かったよ紗枝」
紗枝に感謝しつつ上を見る。ゾンビたちが海へと降ってくることはなく、逃げ切れていた。
「菜々美は」
「ここにいるよパパ」
菜々美も無事なようだ。だがゾンビから逃げ切り、みんなが無事とわかっても安心はできない。海の中にいる限りは、気を抜くと沈んでしまう恐れがあった。
「早く海から上がろう」
「ええ」
「うん」
「それはそうとはいあなた」
陸地に泳ぎ始める直前に、紗枝が何かを渡してくる少し水が入ったペットボトルだ。
「なるほど」
渡されたペットボトルに少しばかりだが体重をかける。するとペットボトルに入っている空気が浮力になって、少しばかり楽に泳げるようになる。水が入っているのはペットボトルが変に動かなくするためだろう。
「ありがとう紗枝」
「あなたどういたしまして」
そうして海辺に泳ぎ始めた。距離にしては100m程だが海流が逆に流れているのかなかなか進まない。だけど少しずつは確実に進んでいる。
「菜々美大丈夫か」
「少し辛いけど頑張るよパパ」
紗枝は余裕そうなのだが、菜々美は辛そうだ。そこでペットボルトをウエストポーチに入れ腰につければ、楽になるかもしれないと考えたが、さすがに弾を捨ててしまう恐れがあることを気軽るにはできない。だから菜々美を励ましつつ、陸地に向けて泳いでいった。




