8day3
吐く、何度も何度も吐く、吐き終わったかと思うとまた吐く。
「井上、井上ってば」
紗枝がそう言いながら、背中をさすっているのがわかる。だが一向に吐き気は治まらない。
「井上っ」
胃の中に何もなくなり、口から何も出なくなるが、それでも嗚咽を繰り返す。
「み、み"ず」
「水ね、分かった今出すよ」
声が聞き取りにくくなってはいたが、紗枝はしっかりと聞こえていたのかリュックから水を取り出し渡してくれる、それを飲む。吐き気が少しずつだが治まってくる。
「はぁはぁはぁはぁ」
体の中からすべてが抜けきって、水が体に染み渡っていく感じがする。
「大丈夫なの井上」
涙声で紗枝はそう聞いてきた。
「あぁ」
返事は出来た、だが走りきった後のような疲れが襲い消え入りそうな声だった。息が荒い。
「すまない」
サブマシンガン持ちはそう言う。
「…ごめん」
八木はそう言う。
「私が撃てばよかった、ごめんね井上」
紗枝はまだ涙声だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
やっと息が落ち着いてくる。
「それで井上、本当に大丈夫なの」
「あぁ大丈夫だよ」
声を出す度にかすかに喉が痛む、何度も吐いたので胃酸で喉を痛めたのかもしれない。
「よかった、よかったよ井上」
紗枝がそう言って抱きついてくる。だから紗枝の頭を撫ででやる。
「紗枝の髪柔らかいな」
紗枝の頭を撫でていると、なんだか落ち着いてくる。なんでかはよくわからないが、多分ペットを撫でると落ち着くみたいなものだろう。
「それで本当に大丈夫なのか」
サブマシンガン持ちはそう尋ねてくる。
「あぁ、大丈夫」
「変な病気持ってたりは」
「しないしない、多分人を殺したのがはじめてだったからだと思う」
「……そうか」
サブマシンガン持ちにそう言ったが、正確に言うと人として意識して殺したためだろう。ゾンビならもう死んでいるものとして割り切っていた、だがさっきのは。そこまで考えが進むとまた吐き気が襲いかけたので、考えるのをやめ、紗枝の髪を撫でるのに集中する。そうやって襲いかかってきた吐き気をどうにかやり過ごす。
「ほら、あんたの戦利品だ」
八木がやって来て銃を見せてくる。
「弾ははいってないけどな」
「なら要らない、できれば見たくない」
「そうか」
貰っておくべきなのかもしれないが、見たらまた吐き気が襲いそうで嫌だった。
「なら他のもので渡すよ」
そう言って八木はその銃をまとめる。紗枝を撫でて吐き気を遠ざけつつ、呟く。
「助け早く来ないかなぁ」




