22 テオドールのお家
「ところで、どうして王城に呼んだの?」
私が思っていた疑問をソフィアが代わりに聞いてくれた。
そう言われて、テオパパは険しい顔つきになる。
何かここでないといけない理由があるのだろうか?
「だって、領地あるでしょう? テオだって今は家にいるでしょうし」
確かに。
ここに呼ばれたから、てっきりテオたんの事とは思わなかったのよね。
「……じゃあ、うちに来るかい?」
絞り出す様にテオパパは口を開いた。
もちろん。私とソフィアは二つ返事で返すと、テオパパは小さく嘆息した。
なんか、家に中々帰りたがらないように見える。
馬車に揺られる事一時間。
王都に隣接するジェイドフォレスト侯爵領についた。
そういえば、テオたんの領地に来るのは初めてかもしれない。
賑やかな王都と違って閑静な住宅街といった感じだ。
森も多く、妖精やエルフが住んでいてもおかしくない雰囲気だ。
そんな街の中を通って進んでいくと、突き当たりに大きな屋敷が見えたが、なんだろう…。違和感が…。
屋敷の前に着いた時には、気のせいではなく、違和感は確信に変わっていた。
テオパパの趣味とは到底思えないファンシーでメルヘンな屋敷が現れた。
「宰相閣下の趣味って結構少女趣味なんですね」
「違う! これは断じて私の趣味ではない!」
若干早口で捲し立てるテオパパは顔が真っ赤だ。
「これは、その…、妻と娘と息子の勢いに負けて…。去年リノベしたんだ…」
なるほどねぇ。まぁ普通に考えたらそうよね。
しかし、シックな街並みの中で、一見だけこんなお姫様のお城みたいな屋敷に変えて、よく訴えらなかったわね。
屋敷の中へ案内されると、これまたフリフリの魔法少女みたいなメイド服を着た高齢のメイドさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ…」
メイドさんを見て、苦々しい顔をしているけど、いつも見ているのに慣れないのだろうか?
そんな高齢のメイドさんはコテンと小首を傾げている。
「こちらは…」
「あ、ああ…。クリスティーヌ・オパールレイン伯爵令嬢と、ソフィア・ウイングドライオン・アンバーレイク公爵令嬢だ」
おお。ちゃんとソフィアのフルネームで紹介してる。ソフィアはなぜか微妙な顔している。
紹介されたメイドさんは、特に反応もせずに深々とお辞儀をした。
「アクティ、カミラとタリアとテオドールはいるか?
アクティと呼ばれたメイドさんは淡々と答えた。
「カミラ様とタリア様は昨日から王都に出掛けられておりますが、まだ帰ってきておりません。今日も帰ってこられるかは不明です」
「また迷子になっているのか…。誰か連れて行ってるんだろう?」
「今回は十人体制で行きましたが、まぁ、お察しの通りですね」
本当に迷子なんですかね? まぁ、私はテオたんに会えれば別に問題ないのだけれどね。
しかし、屋敷の中も目がチカチカするくらいのパステルカラーだな。
星やハートなどの模様が各所に施されているし、カーテンにはフリルやリボンが付いている。
気圧されながらも周りを見ていたら、階段の上から愛しのテオたんがとてとてと降りてきた。
「あ! クリスにソフィア、いらっしゃい」
あぁなんて可愛いのかしら。
スカートの裾が広がった白を基調としたロリータ服を着ている。
テオパパも眦が下がって優しい顔をしている。これは子離れ出来そうにないかも。
テオたんは、私の手をとってニッコリ微笑む。え、何? 私の事そんなに好きなの? しょーがないなぁーもうー。
ソフィアにふくらはぎを蹴られるが、そんな些細な事気にならないわ。
テオたんに引かれるまま部屋へ案内されたのだが、それはもう見事な程に可愛らしい部屋だった。
「クリスは女装してる割には部屋はシンプルよね」
「まぁそうね」
天蓋付きのベッド以外はそんなに凝った家具とか置いてないしね。いろんな人が来るからシンプルな方がいいと思うし。
というか、ソフィアの部屋の方がよっぽど殺風景だと思うのだけれど?
チェストの上には私のフェルト生地のぬいぐるみが置いてある。最高かよ。
他には聖女の仕事に使うのか、いろんなステッキが壁に飾られている。
どれを使っても魔法少女に変身できそうね。
そんな可愛いらしい部屋で一箇所違和感のある場所があった。
チェストの上にある写真立てが一つ閉じられていた。
いけないとは思いつつも気になってしまったので、テオたんに気づかれない様にそっとそれを確認した。
「あぁ…」
そこに写っていた人物はテオパパの言っていた人物だ。テオたんと仲良く…いや、テオたんに抱きついて写っていた。
それから暫くはテオたんと三人で楽しく過ごした。
テオたんにせがまれたらやらないワケにはいかない。
キュアキュアの衣装を着てポーズを取る。
何故かソフィアまで着ているし、一体どういう心境の変化なのかしら?
ソフィアがスマホで写真を撮っていた。
「ソフィア、それ今すぐ全部送って」
「後ででもいいでしょ?」
「ダメ。よく忘れるから」
「ちゃんと送るわよ」
「あ、僕にも送ってほしいな」
「ほらぁ」
「分かった。分かったから。ちゃんと送るから」
「送らなかったら、どうなるか分かってるわよね?」
「どうなるって言うのよ」
間髪入れずに返されたけど、何も考えて無かった。
どうしようかな。ソフィアの着てきたドレスを隠しておこうかしら? 帰りはその衣装を借りて帰ってね?
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまったようで、夕食をご馳走になって、そのまま今夜は泊まっていく事になった。
流石に料理は普通の料理でよかった。アメリカのお菓子みたいのが出てきたらどうしようかと思ったわ。
結局、テオたんのお母様とお姉様は帰ってきていないので、未だに王都の中を彷徨っているのだろう。そんなに迷うかな?
テオたんに借りたネグリジェはとても可愛いのだが、フリルやリボンが多過ぎて引っ掛けたりしないか気が気じゃなかった。
下着もフリルやリボンが多くて可愛いのだが落ち着かないというかちょっと興奮する。
テオたんがこれを履いていたと思うと、より一層落ち着かない。
どちらも通気性が良くないが、結構涼しいので丁度いいのかもしれない。
そして、用意された客室はペールパープルを基調とした部屋だった。壁は薄い紫と白のストライプ。床は濃いめの藤色とピンクの小さい水玉…。
まぁ、そこまでハデハデはしてないが、ちょっと落ち着かない。
結構遅い時間までベッドの上で待っていたのだが、テオたんどころかソフィアも来なかった。
翌日、テオたんとテオパパに挨拶をして屋敷を後にしたのだが、帰り際に屋敷へ向かう馬車とすれ違った。
チラッと中を見ると憔悴しきった女性が二人乗っていた。どうやら無事脱出できたらしい。
そんなに毎度毎度迷うなら行かなければいいのでは?
そんな事を思いながら、まずは王都の駅へ向かったのだった。
道中、ソフィアがずっと険しい顔をしていたけど、乗り物酔いした訳じゃないわよね?




