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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第8章

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21 ルキナ王女は男の娘に厳しい


 「40点」

 「よんっ……」

 オパールレイン伯爵家の屋敷の客室で、ルキナはスケキヨに向かってそう言い放った。

 「…なんで…僕がそんな事…言われないと…いけないんだ…」

 客室でスケキヨは、『くりす』と書かれたスク水を着ていた。いや、着させられたというのが正しいだろう。

 エテルナの新しいお気に入り(おもちゃ)であるスケキヨは、部屋でゆっくりしていたところを、有無を言わさずにエテルナにいきなり連れてこられたのだ。

 もちろん一緒にいたメイドのプレオは止めるどころか一瞥すらしなかった。

 小声で「ごゆっくりー」と呟いたが、誰の耳にも届かなかった。


 そんなスケキヨは、王城での時と同じく、エテルナの着せ替え人形になっていた。

 エテルナがオパールレイン家のメイド達に用意させた衣装を次から次へと着せていった。

 スケキヨも半ば諦めているが、着替える事自体は嫌いではない為、こうして甘受していたのだが、それを見ていたルキナが着替える毎に点数を付けていたのだ。

 ソファに座り、足組み頬杖をつきながら眺めていた。その様子はさながら女王様の様だった。

 だが、内心期待していたのか、身体のラインが隠れる服を着てきた時は、そこそこいい点数を付け、笑顔で眺めていたのだが、スク水を着させられてからは、一変表情が険しくなった。

 そして、「40点」という発言をしたのだ。

 エテルナも、その呟きに顔を強張らせた。

 「ちょ…ちょっとルキナちゃんどうしたの? さっきまで楽しそうにしてたじゃない」

 「まぁそうですわね。でもお母様、これでも高い方だと思いますわよ」

 「そうなの?」

 ルキナは、頬杖をついたま、足を組み替えてから口を開いた。

 「確かに、かわいいとは思いますが、それはちゃんと着飾っていたから。でも、髪は伸ばしっぱなしで手入れ不足。肌は引きこもっていたのか青白い。痩せ細った身体は不健康そのもの。見た目はボーイッシュな女の子に見えなくもないですが、やっぱり骨格や体型は男ですわね。痩せているせいかより際立って見えますわ」

 「…引きこもりじゃなくて、こもって研究してただけ…」

 「そんなに言ったらかわいそうでしょう?」

 エテルナは、スケキヨを軽く抱いて頭をさすっていた。耳が赤くなるスケキヨ。

 「それに、女装した男の子が大好きだったじゃない」

 「語弊がありますが、まぁ、それは昔の話ですわ。今の私は女の子が好きなんですの。或いはクリス様の様に完璧な方でないと」

 憂いを帯びた表情で否定するルキナ。

 「昔はあの子とよく一緒に遊んでいたのにねぇ…」

 エテルナの呟きに一瞬目を見開き、すぐにそっぽを向いた。

 不機嫌を隠そうともせず、頬杖をついてため息を吐いた。

 「……。(気まずいですわね)ちょっと気分転換に街へ行きますわ」

 「もう…。気をつけていってらっしゃいね?」

 「分かっていますわ。ちゃんと誰かを連れて行きますわ」

 「じゃあスケキヨちゃんは私ともっと楽しみましょうねー」

 「……はい……」

 満更でもない表情で頷くスケキヨ。

 ルキナはそんな様子を何とも言えない表情で見ていた。



 「ホントこの街は凄いわね…」

 ルキナは街を歩き、カルチャーショックの連続にただただ驚いていた。

 「私も最初に見た時はびっくりしたものですわ」

 「僕なんて片っ端から声を掛けていたからねぇ」

 「最後の方は警官に見張られてましたわね」

 「ははは…。だからこうして自重しているんじゃないか」

 「当たり前ですわ」

 ジルがシェルミーにきっぱりと言い放つ。

 シェルミーを見張る様に空中に浮いた大きな丸い物体。

 それは太りすぎた警官であるのだが、いつからか風船の様に浮けるようになったらしい。

 街の住民は慣れているが、初めて目にする者は、その異様さに驚き固まる。

 ルキナも最初は風船だと思っていたが、まさかそれが警官だとは思っていなかった。

 シェルミーがいなければ、アレを目にする事は無かったかもしれない。


 ルキナ王女が街に散策に出ると言う事で、ジルを連れて行こうとしたところ、一緒にいたシェルミーもついてきたのだ。もちろん、後ろにはそれぞれの家のメイドがついてきていて日傘をさしていた。

 内心でルキナはシェルミーが苦手だったのだが、こうして話してみると、自分が避けていただけなのだと分かった。

 「卒業後はここに住みたいねぇ」

 「そうですわね。まぁ、仕事も内定している様なものですから、住めるのではないですか?」

 「だといいね。うちは妨害があると思うからそこをクリアしてからかな」

 「ああ…あそこは確かにそうですわね」

 ルキナは二人の話を聞いていて、それぞれの家にもいろいろ事情があるんだなと思った。

 確かにここに住めたら楽しいだろう。だが、それを許される立場ではない事を理解していた。

 今回ここに来たのは、それに抗う為でもあるのだ。エテルナ(母親)は理解しているのだろうが、デボネア(父親)は土壇場で覆す可能性が高い。

 なんとしてでも既成事実を作りたいのだ。


 「ルキナ王女はうちの領にも視察に来た事ありましたよね。どうでしたか?」

 急に話を振られたので、驚き立ち止まってしまう。

 「そ、そうですわね…。私は苦手でしたわ。どうしてあそこはみんな男の格好をしているのかしら」

 「はは…。あれは先先代の領主が決めた事なので、僕からなんとも…」

 シェルミーにも思うところがあるのだろうが、答えを濁すだけだった。

 「でも一番最悪なのはエンジェルシリカ領ですわね。なんなんですのあそこは! なんでムキムキのむっさいおじさん達がくっ…くん……くんず……抱き合ってあんな事を堂々とっ…」

 「…ほ、ほら、あそこは帝国に面してるから、そういう屈強な兵士達がいるのであって…」

 「だからと言って、街中で堂々とヤルのは違うと思うのです!」

 「「……」」

 「まぁ、あそこには二度と行く事ありませんけどね」

 ルキナは嫌な事を思い出してしまったと、自身の身体を抱いて身震いした。

 そして、そんな話題になってしまった事に苦笑いするシェルミー。


 「でも、ルキナ王女はどうしてそんなにクリス様がいいのですか?」

 ジルが疑問を口にする。

 「昔ちょっとありまして…。それからは女の子もしくは、完全に女の子な男性しか受け付けてませんの」

 ルキナはある一人の人物の顔を思い浮かべて、すぐに忘れようと(かぶり)を振った。

 「まぁ、そんな事よりこの街の面白いところ知っているんでしょう? いろいろ案内してくださいまし」

 「分かりました。王女様。僭越ながらこのシェルミーがご案内いたします」

 「私もいろいろ穴場を知っていますので、ご満足いただけるかと」

 「その穴場はあっちの意味ではないですよね?」

 「あっちとは?」

 「……。分からなければいいのよ。忘れてちょうだい……」

 今のは失言だったとルキナは苦い顔をした。まさか。ジルの方が純粋だとは思わなかったからだ。

 キョトンとした顔にバツが悪くなるルキナ。

 「き、気を取り直して行きましょう。私、この街の事いっぱいしりたいわ」

 無かった事にしたいルキナは、わざとらしく大声でそう言った。

 そうして王女様一行は散策を開始したのだった。


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