03 つまり私は叔母になるという事?
屋敷内に入ると冷んやりとした空気が流れていた。ソフィアのところで取り付けてもらったエアコンのお陰だ。
メアリーが、「涼しいならさっさと入ればよかった」とぼやいている。
とりあえずみんな集まっているだろう応接室と名ばかりの部屋へ行く。
入ると、お母様、お兄様、キャロルさんとその子供が抱っこされていた。
「ただいま帰りました」
「あら。おかえりなさい」
嫁姑問題は勃発していないかハラハラしていたが、どうやら良好な関係で安心した。
お母様もいつもの凛々しい顔つきではなく、優しい顔をしている。孫が出来ると変わるんですかね?
お兄様に子供が出来たって事は、私は叔母になるのか。私がおばさんになっても…。いや、何でもないわ…。
というかキャロルさんのお腹がまた大きいけど、二人目早くない?
抱っこしている赤ちゃんもスヤスヤと眠っている。男の子かな? 女の子かな?
「あら、クリスちゃん。学園はどう? 楽しい?」
「ええまぁ。楽しいですよ」
「それは良かったわ」
「ところで、その…お子さんの名前って」
「あぁ。そうね伝えてなかったわね」
お母様が思い出したように話す。
キャロルさんが苦笑いしながら名前を教えてくれた。
「この子はねシルヴィー」
「いい名前ですね」
「ありがと。クリスちゃんみたいに可愛いおとこの娘に育つといいなって思ってるの」
なんかニュアンスがおかしかった気がする。
「で、今お腹にいる子はブルーノって名前にしようかなって思ってるの」
「へぇ。いいんじゃないですか?」
「そう思う? ほらぁ、やっぱりルイスのネーミングセンスよりいいと思ったのよ」
「お兄様はなんて考えたんですか?」
長い睫毛をぱちくりさせながら淡々と話すお兄様。
「アルファとベータ」
「それは流石に…」
子供がかわいそうだと思います。なんか識別番号感あるんですが。まぁ、沢山子供作るんならそれでも…いやよくないわね。
まぁ、まともな名前で良かったわ。でも、お兄様のことだからとんでもない厨二ネームにするもんだと思ってたけど、どうやらうちでのヒエラルキーはキャロルさんの方が上みたいだ。
そんな感じで暫く過ごしていたら、ソフィアが来たらしい。ヒナナさんに連れられてやって来た。
ヒナナさんはお姉様の専属やめたのかな? 心なしかイキイキしてる気がする。
「来ちゃった…」
頬を朱らめている。
もちろん分かっているわ。今までの私だったら、「熱中症? 大丈夫? スポドリ飲む?」なーんて事を言っていただろう。
だが、今は違うわ。一応レオナルドとの件は保留中ではあるものの、ソフィアからの好意には応えているわ。
別に二股してるわけじゃないんだけどね。
「今日はどうしたの?」
「理由もなく来ちゃダメなの?」
こう言う事を言う時のソフィアはめんどくさい。とりあえずお菓子でも作って静かにさせましょうかね。そう思っていたんだけど、赤ちゃんことシルヴィーを見て目を輝かせるソフィア。研究対象じゃないわよ?
「まぁかわいい。お目目はルイス様に似てますね。鼻と口元はキャロル様かなー?」
「あら。やっぱり分かる?」
「ええ。分かりますわ」
「やっぱり女の子はすぐ分かるのねー」
悪かったわね。どうせ私は女装趣味の男子ですよ。
「大きくなったら美人さんですねー」
「そう思う? クリスちゃんみたいになるかしら?」
「んー…」
苦笑いして曖昧な返事をするソフィア。まぁ、気持ちは分かるわ。
「あ! ごめんなさい。私クリスに用事があったんでした。すいません。失礼しますね」
そう言って、私の手首を掴んで部屋を脱出するソフィア。もう少し上手く逃げなさいよ。まったく…。
そして勝手知ったる屋敷を先に歩き、私の部屋へ入ると、私のベッドへ座り、そのまま大の字で倒れた。
「あー、やっぱクリスの部屋が落ち着くなー」
手をバタバタさせて寛いでいる。これ、用とか何もないでしょ。
その時、ドアをノックする音がした。
「どうぞー」
返事をすると、イノさんが入って来た。数年前までは、アリスとメタモのお世話で窶れていたが、今では元通りになっていて、我が屋敷内でもトップ5に入るくらいの美人さんだ。
「どうかした?」
「旦那様がお呼びですわ」
あっ! 帰ってきてから挨拶とかしてなかったわ。忘れてた。別にお父様が影が薄いって意味じゃないのよ。
そう。ちょっとバタバタしてただけ。
「分かったわ。すぐ行くわ」
「かしこまりました。…ソフィア様には冷たいお茶とお菓子をご用意しますね」
「わーありがとう!」
イノさんはうちのメイドさんにしては、本当に気がきくのよね。そのせいで気疲れしちゃうんでしょうけど…。
ホント美人よねぇ…。ドレスを着せたらどこぞの貴族のお嬢様にしか見えないと思うの。
「じゃあちょっと行ってくるわ」
「ん。お構いなく」
ホント、ソフィアは何しに来たのかしら?




