34 レオナルドとのデート③
レオナルドの事だから、火の演出の凄い鉄板焼きとか一品一品運んでくるフレンチみたいなところかなと思っていたら、普通に屋台のところへ案内された。
まぁ、そうよね。教室でそんな事出来るわけないし、そもそも許可が下りないわよね。
「そういえば昔王都の市場で串焼きを食べましたよね」
「そうえばありましたね」
「あの時のよく分からない食感のものって何だったんですかね?」
そういえばそんなのあったなと思い出す。ちなみにここには出店されていないので、もう一度確かめようにも分からない。まぁ、また食べたいとは思わないのだけれど。
「あれソフィアが買ってきたんですよね。本人も知らずのうちに買っていたので、真相は闇の中ですね」
「確か最後の一個はエリーにあげたんでしたっけね。ホントあれなんだったんですかねぇ…」
懐かしいなぁ。あの後大聖堂に乗り込んでマーガレットを救出したのよね。アーサーは助けなければ良かったわ。
「しかしこうもいっぱいあると何を食べたらいいか迷いますね」
「そうですね。まぁフィーリングでいいんじゃないですか?」
生徒達は勿論の事、学園外の人たちが大勢来場していてごった返しているので、選ぶのも買うのも一苦労だ。
「なるほどですね。実はあの牛タン串というのが気になってまして」
「牛タン美味しいですよね」
「そうなんですか! じゃあ買いましょう」
チラっと見ると、少しお高めのお値段で牛串・牛タン串・フランクフルトが売っていた。牧場から出張してきたのかな?
レオナルドが二つ串を持ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ご厚意に甘えていただくことにする。
……うっまぁ♡ えぇ何これ…。めちゃくちゃ美味しい。臭みもないし、厚切りで歯ごたえがちゃんとある。でも焼きすぎてない。何より炭火ってのがいいわね。これなら何本でもいけそうだわ。
「クリスがそうやって食べているのを見るのは久しぶりですね」
「そうですか?」
「えぇ。いつもはもっと綺麗に食べてますので。よっぽど美味しかったんですね」
「まぁ…はい…」
ちょっと恥ずかしいな…。でも本当に美味しかったのよ。
その後もレオナルドと一緒にチョコバナナや焼きとうもろこしなんかを食べた。
チョコバナナに関しては特に言うことはないけれど、この焼きとうもろこしも美味しいわね。醤油の香ばしい風味ととうもろこし本来の甘さが際立っていて、噛むたびにジューシーなのよ。ここの屋台ってレベル高くない?
そんなこんなで腹ごしらえも済んだところでレオナルドはふと立ち止まった。
「どうかしましたか?」
「いえ、射的と書いてあるので何なのかなと……」
銃もない世界で射的とな? いやあるのかもしれないけど、身近では見たことないのよ。
「えーっと…、それを使って景品に当てて落とせばそれが貰えるっていうゲームですね」
「なるほど……」
「おっ! 流石クリス様ものしりー」
レオナルドが頷いていたら、お店の生徒が朗らかに対応する。
「クリスは何か欲しいものはありますか?」
「うーん…」
ぱっと見特に欲しいものは……。強いて言えばあのブサカワニャンコのキーホルダーみたいなやつかな。
それを見ていたレオナルドがニヤリと口角を上げる。
「分かりました。では一回やらせていただいてもいいですか?」
「どうぞー」
コルク銃の使い方を教えてもらうレオナルド。
「ではいきますよ」
コンと当たると、それはビクともしなかった。
「これ本当に倒れるんですかね?」
その後も二回三回とやるが倒れる気配はない。まぁ、コルクですし。
身を乗り出してコルク銃を突き出しながら引き金を引く。
「痛っ!」
反動で私のおでこに当たった。
「あ、すいませんクリス。大丈夫ですか? 割れてないですか?」
こんなので割れるわけはないのだが、大丈夫と答える。まぁ、気遣いは嬉しい。
「これ下接着剤か何かでつけてませんか?」
「つけてないですよー」
景品をとって持ち上げる。
「ぐぬぬ」
悔しそうなレオナルドは最後の一発を祈るようにしながら撃つが、結局落とせなかった。
「はい。おしまいですねー」
「すいません、クリス落とせませんでした」
「まぁ仕方ないですよ。縁日の射撃なんてこんなもんです」
「縁日?」
「あっ! 文化祭! 文化祭です。言い間違いです。気にしないでください。あ! 私もやります」
「どぞー」
話題を変えようと私も射撃をすることにする。
弾は五発。五発全て当てて後ろに落とした。
まぁ私にかかればこんなもんよ。
「わぁ凄いですね、クリス!」
少年みたいな笑顔で喜ぶレオナルド。
「あーすいませんー。これ後ろじゃなくてー、前に落としてもらわないとー、アタリにならないんですわー」
「「はぁ?」」
私とレオナルドが同時に疑問の声を漏らした。
いやいやおかしいでしょ? どうやっても後ろにしか倒れないでしょうに。
流石にインチキだとは思ったのだろうが、レオナルドはじーっと半眼で睨めつけている。
「そんな顔してもダメですねー」
もうこれ分かっててやってるわね。いいわ。そっちがその気なら受けて立とうじゃない。
「へぇ…。じゃあいいわ。もう一回やるわ。前に落とせばいいのよね?」
「えぇ。前に落とせばオッケーですよー」
「何個でも?」
「できるものならー」
言質は取ったわよ。何があっても知らないからね?
コルク銃を構え、狙うは雑な作りの棚のつなぎ目部分。
それぞれ二発づつ高速で撃つ。
「どこ撃ってるんすかー? さっきまでのはマグレだったんですかねー?」
気づいていないようなので、そのままグラついている部分へ最後の一発を撃つ。
コルク銃の威力でもまぁなんとかなったね。棚は外れ、景品は全部前に落ちた。
「なぁっ!?」
「流石は私のクリスですね」
ドヤ顔でイキるレオナルド。
「ひ、ひどいっすよー」
「でも全部前に落としたわよ?」
「ぐっぐぐ…」
まぁ景品はいらないんだけどね。
「分かったっす。うちの負けっす。全部持ってっていいっすよー」
「いや別に…」
「では、そのキーホルダーみたいのだけいただけますか?」
「へ? あぁ…うん。はい、どうぞ……」
ブサカワニャンコのキーホルダー。
「本当は私が当てたかったんですが、どうぞ」
「あ、ありがとう……ございます?」
「何で疑問形なんですか…」
「だって落としたのは私ですし?」
「あ……」
とりあえず、射的は終わりにして別のところへ向かう。
まぁ、景品は一個しか取らなかったんだから、棚を崩したのは大目に見て欲しい。というか、もう少しちゃんとした運営しなさいよね。
急ピッチで裏から出てきた生徒達と直してたけど、またおんなじ事になったりしてね。
そんな事を考えていたら、またもやレオナルドが立ち止まった。
レオナルドの視線の先にはヨーヨーすくいがあった。文化祭よね?
私がチェックした時にはなかった気もするんだけど…。まぁいっか。
「クリス、あれやってみませんか?」
「えぇいいですよ」
ヨーヨーの先に付けられた輪ゴムのわっかに、包んだティッシュの先に付けたWみたいな形の針に通して取るんだけど……。
あーあー。もうレオナルドったら速攻で水に付けてダメにしちゃってるじゃない。
「これ難しいですね……って、クリスそんなにとったのですか?」
「どうしてレオ様は一個も取れなかったんですか?」
「流石クリス様はなんでも出来ますね」
またぞろ生徒の一人が私を褒める。
まぁ、こんなにあっても仕方ないので、二個以外返却してその場を後にした。
勿論一個はレオナルドにあげた。
「わぁ。ありがとうございます!」
楽しそうにビヨンビヨンさせている。
その後もいろんなところを見て回った。
空はすっかり茜色に変わっていた。
「ではそろそろ戻りましょうか」
「えぇ」
キリッとした顔で言っているが、頭にお面をつけ、わたあめやらヨーヨーを手に持って、縁日でいっぱい買い物した子供みたいになっている。
「クリス、今日一日ありがとうございました」
「いえ」
「おかげでいい思い出ができました」
「…………」
胸がチクチクと痛み出す。
「でも、これだけは言っておきますね。私は諦めていませんので、いつか問題が解決したら、また婚約を申し込みますね」
「はい……」
まぁ男と男で結婚なんて出来るわけないので、この婚約が解消されたら、ただのいい友達のままになるんだろうなと思う。
そして、レオナルドが再び手を差し出してきたので、素直にその手を掴んだ。
「教室にいきましょうか」
教室に戻ると他のクラスメイト達がみんな揃っていたが、私達の姿を見るなりいろんな顔をする。
それぞれが口を開く前にレオナルドが頭を下げた。
「すいません! 皆さんに是非協力して欲しいことがあるんです」
「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」
レオナルドが急に頭を下げるもんだから、みんな出鼻を挫かれたのか、それとも溜飲を下げたのかは分からないが、その様子に誰も口を開かない。
レオナルドはそっと頭を上げると、ある提案を口にした。




