59 BAR①
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俺の名前はクステ。
つい先ほど、ボスから頼まれていた仕事を仲間と共に片付け、夜の街に繰り出している所だ。
仲間のグモーとドスピはそれぞれ別の店で飲みたいとかで別れてきた所だ。
全く連れないねぇ…。
まぁ、俺らみたいのが一緒になっていると、要らぬ憶測で通報される場合もあるし、そこから足が付く事もあるしな。
今回の仕事は特に重要だからな。なるべくリスクは最小限にしておいた方がいいだろうって事でボスから連むなって言われてたんだっけ。
いけねぇいけねぇ。どうもそういう重要な事は忘れちまうんだよな。
そんな事よりも、今日こそはお持ち帰りをしてみたいものだ。
いつも声をかけた段階で逃げられちまうからな。
今日は報酬も多かったし、少し決めてみたんだがどうだろうか?
………………まぁ、それを聞いたところで答えてくれるやつなんていないんだけどな。
さて、そろそろ店が開く時間だな。
秋は暗くなるのが早いくせに、王都の飲み屋は軒並み杓子定規で営業時間を早めないのが難点だよな。
確かこの辺に小洒落たバーが有ったはずだ。
えーっと…………ば…BAR……すぱ……スパイダーズ……ウェブでいいのかな?
意味はよく分らねぇがまぁいいや。酒が飲めて、綺麗なネーチャンがいりゃそれでいい。
俺は意を決して扉を開けた。
へぇ…。中々に高そうな店だ。店内は落ち着いた雰囲気で、ピアノの伴奏をしている。俺にはからっきし分からねぇが、多分いいものなんだろう。ただ、ピアノを弾いてるのがおばさんじゃなきゃなぁ…。スタイルはいいんだが、もう少し若けりゃ声かけたんだが……。
「うっ…」
何だ? 今物凄く寒くなったぞ。気分的に三回くらい殺された気がする。
ま、まぁ店の女に手を出しちゃあいけないもんな。
ちゃんと客の方に声をかけよう。
さて、店の中には何組かの客が談笑しながら飲んでいるな。流石にあそこに割って入る程、俺は空気が読めない訳じゃない。
別に女が沢山いるのが無理って訳じゃねぇぞ。本当に。
……となると、カウンターで一人で飲んでる女かな。
近づき声を掛けようとしたんだが、そこで飲んでいたのはどう見ても少女だった。
おかしいな。まだ今日は飲んでないんだがなぁ。
しかし、世の中にはロリババアと呼ばれる女がいるとは噂で聞いたが、これがそうなのか?
少し様子見をしようと、一つ席を開けて座る。
カウンターには黒髪と紫髪の二人の店員がいるが、一人はまぁまぁのイケメンだ。ま、俺には劣るがな。
一瞬ジロリと睨まれた気がするが気のせいか? 冷や汗が止まらないんだが、その理由は目の前の角刈りの店員が舌なめずりしているからだろうか?
「あらぁ、いらっしゃあい。何にするぅ?」
何だこの店員は?
どうしてこの見た目でオネエ言葉なんだ? 相変わらずペロペロと舌を出し続けている。そんなに唇が渇いているんだろうか?
もしかしてこっちの男もそうなんだろうか?
「クラリッサさん、そんなに迫っては頼みたくても頼めませんよ?」
「あら、そうね。そうよね。いやぁいい男だから、ついね」
なんて店だ。変な受け答えをしていたらとんでもない事になっていたかもしれない。
しかし、こっちの男はまともそうで良かった。
そんな様子を見ていたのか水色の髪の女がクスクスと笑っていた。かわいい。
どこからどう見ても少女だが、手には琥珀色の液体の入ったグラスを持っていた。
そして、ゆっくりとグラスを口につけて飲むのだが、どう見ても玄人の飲み方だ。
これは本当にロリババアの可能性が出てきたぞ。
このくらいの大きさなら俺でも抱えてお持ち帰り出来そうだ。
よし…。頑張って落としてみるか。
だが、その前にお酒を頼まないとな。
しかし、こんな洒落た店じゃあ、どう頼んだものか分からないな。酒だってエールかワインくらいしか分からん。
ふむ…。あの琥珀色の飲み物を頼んでみたいが、名前が分からん。こんな時は…。
「ふっ…。彼女と同じものを」
どうだ? 今のはカッコよかったんじゃないか?
「いいんですか? 結構強いですよ?」
「大丈夫さ。俺は酒には強いんだ」
「はぁ。まぁいいですけど、ストレート、ロック、水割りに炭酸割りとかありますが…」
「ふっ…。男は黙ってストレートだろう」
折角の酒を割るなんてとんでもない。大体彼女は氷を入れて飲んでいる。つまり氷無しで飲む俺の方が凄いと思わせられるだろう。
それに女が飲む酒だ。強いはずがない。
「お待たせしました」
俺の前に置かれたグラスを持って、彼女にウインクする。
「乾杯」
「乾杯」
うわぁ…。返してくれたよ。いい女かよ。マジで惚れそう。見た目少女だけど、ロリコンじゃないぞ!
早速口元にグラスを近づける。
……独特な香りだな。
そして一気に呷る。
「!? ケホッケホッ…」
何だこれ? めっちゃ喉が焼ける! 熱い! 身体も一気にカッカッてしてきたぞ!
え、嘘だろ? こんなんどうやって飲むんだよ。
しかしいいカッコはしたい。
チラと彼女を見る。
「あら、そんなに一気に飲むものじゃないわよ」
「いやぁ、喉がカラカラでな」
「そうなの?」
妖艶な微笑みで俺を見る。少女にこんな表情出来る訳がねぇ。絶対に大人のお姉さんだ、これ。
「カッコ悪いとこ見せちまったな」
「よくある事よ。坊や」
「!?」
坊やだってよ。俺ぁもう理性を抑えられねぇぞ。
だがここで焦っちゃあダメだ。我慢だぞ俺!
「お…お姉さんはよくここに?」
「ええ」
「そうなんだ。お仕事は何を?」
「ショップのオーナーをやってるわ」
ショップのオーナー…と言う事はそれなりの大きさの店って事だよな。場合によっては複数店舗構えている可能性もある訳で…。つまり、金持ちって事だよな。
よく見たら、着ているドレスも高そうだ。
まぁ、体型は貧相だが、露出している肩や脚は色っぽい。
そんじょそこらの少女が出せる色気じゃねえ。
今すぐ跪いて足を舐めたいくらいだ。だが、まだ我慢だ。
「へ…へぇ。オーナーね。どおりで」
しっかし俺が楽しくお話ししてるってのに、あっちのボックス席の辺りはさっきからガタガタうるさいな。静かに飲めないのかね?
「(ちょ、メアリー落ち着いて)」
「(あの野郎、クリス様に色気つけやがって、ぶっ殺してやる!)」
こんな店で騒ぐなんて似つかわしくないな。
まぁいい。俺はこの女をお持ち帰りして、ついでにお金も頂きたい。そしてゆくゆくは養ってもらって今の仕事から足を洗うんだ。
「あなたは何のお仕事を?」
「ん? あぁ…」
何と言ったものかな…。パシリ…はダサいな。駒使いも違う。舎弟…。
「とある方の従者をね」
「そうなの」
そう言ってグラスの中身を呷る。氷の動く音が大人の女性っぽさを演出している。
何で氷を入れなかったのかね俺は。そうすれば薄くなって飲めたかもしれないのに……。
俺は最初の一口以外全然口を付けていないが、彼女は楽しそうに飲み続けている。
そんな強そうには見えないんだけどなぁ。
そして足を組み替える彼女。ゴクリと生唾を飲み込みながら、見えそうで見えない所を見ようと凝視する。
「あら、話してばっかりで飲んでないじゃないの」
「い、いや…。ついお姉さんと話したくなってね」
あぶねー。ってか俺には無理だよ。だってこれ強いんだもん。何が美味いの?
しかしそうも言ってられないんだよな。
お持ち帰りするには、彼女を酔わせないといけないんだが、そんな素振り全然見せないんだもの。
どうしたもんかね。




