54 お姉様の部屋
そういえばお姉様の部屋って初めて入るわね。ドクロとか動物の首とか飾ってあったりしないわよね?
ベランダを乗り越え鍵の掛かってない窓を開ける。
誰かの寝室のようだ。多分お姉様のじゃない事だけは確かだ。だって、部屋全体が綺麗で片付いているんだもの。チェストの上には写真立てと小物が置いてある。
写真立てを見ると私とお姉様が写っている。
「………………………」
もしかしてこの部屋お姉様の部屋?
確認するため、引き出しとかを開けるとアクセサリーとかジュエリーのスケッチとかがあった。
マジか……。
よく見たら、部屋の隅に置かれた机だけ使用感がある。
机の上には作りかけのジュエリーとか完成したであろうアクセサリーとかが無造作に置いてあった。
多分、ラピスの方で売る物の試作品を作ってるんだろうなと思うんだけど、よくあの性格でこんなに綺麗で繊細で心惹かれるものを作れるなと感心する。
部屋を開けると、ちょっと散らかっていた。
やっぱりと思ったが、散乱しているのは布類だ。
基本食事はうちで食べるから、ここは使わないんだろう。代わりにいくつものトルソーに大人向けのドレスが縫いかけでかかっていた。
平行してやってるんだろうけど、よくもまぁ裏の仕事に、生徒会の仕事。そして商会の仕事も出来るなと改めて感心する。
表では絶対に努力してるところ見せないんだから。シャイなのね。
しかし、自分とは真逆のセンスだわ。私のラズリの方はかわいいデザインだけど、お姉様のラピスの方は私とは真逆でかっこいい大人の女性向けなのよね。これは私では真似できないわ。感性が違うもの。
感心しながら部屋を物色していると、ビシューさんとロココさんが声をかけてきた。
「あの、クリス様? そんなに見ていると怒られませんか?」
「頑張ってるとこ見られるの死ぬほど嫌がりますからね。忘れるまで殴られたりしませんか?」
そこまで攻撃的ではないと思うけど、確かに制作途中の物を見られるのって人によっては嫌かもね。
でもまぁ暫く戻ってこないでしょうから大丈夫だと思うのよね。
「じゃあお姉様が来そうになったら教えて」
「「えっ!?」」
「こんな機会中々ないからね。折角だし隅々まで見ておきたい」
という事で、散策開始。
下では大変な事になってると思うけど、今だけは忘れさせてほしい。
さてさて、まずはこの部屋ね。
テーブルの上にはデザインのスケッチが沢山ある。
……よくこんな際どいデザイン思い付くわね。このセンスは天才的よね。
そしてそれを形にしているわけだけど、形になると、なるほどと頷くしかない。
他にも制作途中のものや完成しているものを見るが、前世でお姉様がいたら間違いなくトップデザイナーになってたでしょうね。
さーてと、フィジーさんとヒナナさんとマーブルさんの部屋はどうなってるのかしらねー。
ワクワクしながら一つ目の部屋を開ける。そして閉める。
「クリス様、何で閉めたんです?」
「見なかったことにしましょう」
続いて二つ目三つ目と開けるが、言葉にするのも憚られる状態だったので、ここで散策は終了とさせていただきたい。
ま…まぁ、人の趣味って変に根掘り葉掘り詮索するものじゃないしね。それに休日や夜の過ごし方なんて人それぞれだし。
……ストレス溜まってるんだろうなぁ……。
予定よりもかなり早く散策が終わってしまってやる事がない。
今の明るい時間帯ではレオナルド達の捜索も勝手に出来そうにないし、学園内を先生達が隈なく捜索している状況だ。下手に首を突っ込まない方がいいだろう。
それに、何かあればお姉様かアンさんから指令があるだろう。
そういえばここ最近色々あってまともに休んでないのよね。
折角だし、イヴ様が帰るまでここで休むことにしましょう。と言っても、まともに休めそうな場所はお姉様の部屋だけなのよね。
お姉様の部屋に戻ると、いないなと思っていたメアリーが大の字で眠っていた。
そんなメアリーが大の字で寝ても有り余るくらい大きいベッド。流石、王族・公爵家用の部屋だわ。
とりあえず、メアリーとの間にクッションで壁を作って距離を置いて眠る。
「おやすみ」
「仕方ありませんね。お供します」
「ビシューに倣ってお共します」
「え?」
別にいいのに私の両サイドでこれ幸いといった顔で眠るビシューさんとロココさん。まぁ、この二人も普段忙しいからね。
私が寝ているのに、流石に寝るななんて言えない。
それに、疲れが溜まっていたのか一気に意識が遠くなっていった。
「……ス、……リス」
「…ん………んー………」
「クリス、もう夕方よ?」
「え……、あぁ……お姉様……どうしてここに?」
「どうしてって、ここ私の部屋よ」
「へぇあ!?」
上半身を勢いよく起こす。ベランダの方を見ると完全に真っ暗だった。秋だからか、夕方でも真っ暗だ。
そして何故か私の横で横になっているお姉様。
ビシューさんとロココさんはどこに行ったのだろうか。
「かわいい寝顔をずっと見ていたかったけど、流石にもうご飯の時間だしね。私もお腹が空いたわ」
どおりでメアリーも居ない筈だわ。
「安心していいわよ。イヴならとっくの前に帰ったわよ」
「あ、そうですか」
「もう気をつけなさいよ。楽だからってベランダから跳んだら目撃されちゃううんだから」
「はい。気をつけます……」
「ん。よろしい。じゃ、ご飯にしましょうか」
お姉様も眠っていたんだろう。寝癖がついている。
ハシゴを降り、みんなの所へ戻るとやたらと騒がしかった。
「あ、クリス…」
「何か騒がしいね。どうしたの?」
「マーガレットが帰ってこないの」
「「え?」」
私とお姉様が同時に驚きの声を出してしまった。
「というか今まで何してたの? クリスもいないから焦ったわよ。マトリカリアに聞いていなかったら、今頃パニックよ」
「ごめん」
しかし、それよりも気になるのはマーガレットだ。
「こんな時にマーガレットは外出したの?」
「食材を買いに行くって。そういえば、カリーナとヨメナさんも帰ってきてないわね」
「三人で行ったの?」
「二人じゃ危ないからって、カリーナがついていったのよ」
お姉様と顔を見合わせる。
「ねぇ、出ていったのって何時頃?」
「え? あー……お昼過ぎよ」
もう結構な時間が過ぎている。
「他には誰かに言ったの?」
「まだ……」
「分かったわ。街を捜索しましょう。ヒナナ、人を集めて」
「かしこまりました」
「お姉様、これレオナルド殿下の件と絡んでますよね?」
「多分ね。……クリス、夜になったら目一杯動けるわよ」
「はい」
「気をつけてね?」
「分かったわ。もし、戻ってきたらお願いね?」
ソフィアには、帰ってきたら携帯電話で連絡を入れるようお願いして、お姉様達と一緒にベランダへ向かった。
昼間にかなり寝たからね。気力十分よ。
その時、部屋のチャイムが鳴る音がしたので、お姉様と顔を見合わせた。




