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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第6章

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11 男子三日会わざれば②


 ほんの僅かな時間だが、大勢の観衆が見ていた事で、やたらとざわざわしている。私の平穏な学園生活は訪れないんだろうなぁ…。

 「よぉクリス。それとソフィア」

 後ろから声を掛けてきたのはウィリアムだった。

 男子三日会わざれば刮目して見よなんて言うけど、何と言う事でしょう。メチャクチャワイルドなイケメンになっているじゃない。


 「おはよう」

 「お…おはよう。その……制服姿も似合ってるな…」

 「あ、ありがと…」

 ウィリアムが褒めるなんて内面のイケメン度も上がってるじゃない。どう言う事なの?

 後ろでソフィアとマーガレットが何やらヒソヒソ話している。

 「リアムはちゃんと制服着なさいよ」

 「別にいいだろ? 堅苦しいのは苦手でさ」

 「だとしても、せめて入学式くらいはちゃんとしなさい」

 「分かったよ」

 緩んでいたネクタイを上に戻し、ジャケットのボタンを留めるウィリアム。何かやたらと素直じゃない?

 でも、ネクタイを締め慣れてないんでしょうね。曲がっている。

 「もう、ネクタイ曲がってるわよ」

 「あ…悪い…」

 「よし。うんうん。様になってるわねって、何で横向いてるのよ」

 「いや…なんでもない…」

 「そう?」

 やけに顔が朱いけど、そんなキツく締め直してないわよ?

 「そういえばこんなところで突っ立って何してたんだ?」

 「別に突っ立ってないわよ。レオ様と話してたのよ」

 「あーそういえば、昨日言ってたっけなぁ…………。そういえば変な事は言われてないよな?」

 「………」

 何と言ったものかしら。視線をそっとずらす。

 「悪いクリス。レオには後でキツく言っておくわ」

 やっぱりバレちゃうか。まぁ、長い付き合いだしね。

 「なぁ、クリス」

 「なぁに」

 「俺もお前に謝ろうと思って…。すまん!」

 バッと九十度に折れて謝るウィリアム。

 「ちょ、レオ様といいリアムといい。何をそんな謝る事があるの」

 「いや、俺もレオに付き合ってお前のところに顔出してなかったじゃん。だから、嫌な気分にさせちまったかなって思ってよ」

 「別にいいわよ。レオ様に配慮してそうしたんでしょ」

 「お前……」

 「それに、私のところに来ないだけで、街中にはしょっちゅう来ていたでしょ」

 「バレてたか」

 「まぁね」

 お母様や王妃様の裏方として手伝っている時に、ステージ裏から見えてたからね。だっさいTシャツとバンダナして、ペンライト振り回してたものね。すっごいキレッキレのダンスまで踊ってさ。

 まぁ、ウィリアムのイメージが音を立てて崩れそうだから、そんな事を敢えて言うつもりはないんだけどね。


 「あーらぁ。みんなお揃いでぇ」

 「あら、エリー……………」

 ウィリアムがバツの悪そうな顔をしていたら、今度はエリーがやって来た。

 女子の制服に身を包んだエリーだが、既にパッツパツだ。どうして大きめに作らなかったの?

 どこを見ていたのかわかったのか、エリーが珍しく気まずい顔をしていた。

 「あらこれぇ? これねぇ、昨日まではちゃんとしてたんだけど、朝食食べすぎたらこうなっちゃってぇ。すぐに戻るわよ」

 「そ…そうなんだ」

 そんなエリーの後ろからひょいと顔を出したのはテオドールたんだった。エリーの大きさに隠れちゃってたのね。

 それにしてもなんて可愛いのかしら。テオドールたんの制服姿もかわ………待って。どうして男子の制服を着ているのかしら?

 「て…テオドールたん……どうして男子の制服を?」

 「普段はいいけど、学園にいる時くらいは男子の制服を着なさいって言われたんだ」

 そんな……。そんな事があっていいのだろうか? 男子も女子も好きに着ているのに…。そんな時代錯誤な…。

 ………という事は、テオドールたんは男子寮に?

 「おいどうした。一気に気落ちして」

 「いや、何でもないわ。ちょっといろいろあって疲れちゃっただけだから」

 「そうか」

 「無理しないでね?」

 あぁ、テオドールたんの気遣いが心に染みるわぁ…。

 この場に頽れなかった自分を褒めてあげたいくらいだわ。

 「もう、バカやってないで行くわよ。もうそろそろ始まるんだから」

 「そうね」「そうだな」「うん」

 ソフィアが一番リーダー感あるわね。事態が膠着した時にバシッと決めてくれる心強さがあるわ。

 「頼りにしてるわリーダー」

 「唐突に何? ていうかリーダーって何よ」

 「いや何となく」

 「?」

 そのまま入学式の会場へ向かおうとみんなで歩き出したのだが…。


 「何やってるの?」

 「女神様に謝罪の気持ちを表現しております」

 道の真ん中で土下座しているのはアーサーだ。

 「アーサー、服汚れちゃうよ?」

 テオドールたんは優しいね。そんな気遣い必要ないのに。

 「あぁ! 聖女様はお優しっ……………!!!!!!」

 顔を上げて恍惚の表情のアーサーが、テオドールたんを見るなり、驚愕の表情になる。

 「な…なぜ、聖女様は男子のお召し物を…」

 「お父様に言われたんだ」

 「あぁ…神は試練をお与えになったのか」

 「バカやってないで立ちなさいよ。入学式始まるわよ」

 「あぁ女神様のお叱りの言葉。甘受いたします」

 またぞろ道の真ん中で一悶着しているせいで、全然進めない。無視してもいいんだけど、さっきと同じように周りに人が集まっているのでそうもいかない。

 あぁ…。周りの人からの視線が痛い。穴があったら今すぐに入りたいわ。そしてそのままそこで暮らして地上にはもう出てこないの。

 ………おっといけない。自分の世界に入り込んでたわ。

 どうしましょうかしらね、こいつ。

 黙って何もしていなければ、ただのロン毛のイケメンなのに、ちょっとでも動いたり口を開いたら残念なんだもの。

 「分かったわ……」

 「おぉ…。では、今まで通り…」

 「今すぐ言うこと聞かないと女神辞めます」

 「なぁっ!」

 「ついでに、テオドールたんの聖女も解任します」

 「ぶはぁあっ……………!」

 血を吐いて後ろ向きに倒れ……ブリッジの状態で留まるアーサー。なんか流血したプロレスラーみたい。

 周りもざわついている。

 「エリーお願いがあるんだけど」

 「いいわよ」

 何を? と聞かれぬまま、気絶したアーサーをお姫様抱っこして連れて行くエリー。そんな丁寧に抱きかかえなくてもいいのに。

 「さ、邪魔者は片付いたから、今度こそ行きましょ」

 「クリスってアーサーにだけは厳しいわよね。何されたのよ」

 「もしかしたら僕とおんなじ事された?」

 「「!?」」

 アーサーったらテオドールたんにまで何かしたのね。それは是非とも入手しないといけないわね。

 「て…テオドールたんは絶対に口にしちゃダメよ。悲しいことになるからね」

 「うん。分かったー」

 「ちょ、何をされたのよ。教えなさいよ」

 ソフィアが袖を引っ張りながら聞いてくるがこればっかりは言えないわ。というか、ソフィアのところが絡んでるのに知らないのかしら?

 一生そのまま知らないでいてもらえると乙女的には助かるわ。


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