06 学園へ行こう③
そういえば、ずっと後ろの方から食べ物の香りがしているのよね。
席に膝立ちになって振り返ると、メアリーがシュウマイ弁当やら豚まんやらを頬張っていた。今何個目よ?
「なんか私達もお腹すいちゃったわね」
「そうね。結構車内販売の人が通っていたわよね」
「次来たら何か買いましょうか」
「そうね」
前世だったら散々叩かれたであろう飲食も、この世界ならまだ許されている。
結構車内でもお弁当とか軽食とか食べているしね。
そんな時、横を車内販売の人が通ったので、ソフィアが勢いよく手を挙げた。
「あ、すいません。何かください!」
随分と漠然とした言い方ね。
「あ、はい。ありがとうございます。ただ、申し訳ないのですが。今し方、そちらの方が食べ物を全部購入されました為、お飲み物のみの販売となってしまいますが宜しいでしょうか?」
先ほどと同じように見ると、後ろのボックス席のメイドさん達がかなりの量を食べていた。さっきもあんだけ食べていたのに?
「なんですかクリス様?」
「いや…よく食べるなぁって思って」
「もう無いですよ」
「うん…」
いや、別にいいんだけどさ。別に欲しくて見たわけじゃないしね。
チラと横を見るとちゃっかり自分の分は買っていたお姉様がニヤニヤしながらお菓子を食べていた。
「さっさと買わないのが悪いのよ」
「………とりあえず、飲み物を四人分ください……」
すっごい落ち込みようね。それはまるでラーメン屋さんでかなりの時間待っていた時に、自分の前で販売終了してしまった時の表情だわ。
「はぁ…。まぁこんなこともあろうかと思って、お菓子焼いてきたから」
「ホント? マジで? 流石私のクリス。私の顔分かってるわね。大好き愛してる」
お菓子くらいでそんな大袈裟な。でも、ソフィアにとっては一大事なのかもね。
「!? ちょ、ちょっとクリス! そんなのあるなら先に出しなさいよ」
勢いよくこっちのボックス席に来たお姉様。
「あーら、サマンサお姉様は大量に買い込んだお菓子があるじゃありませんか。これは私のです」
全部ソフィアのものじゃないわよ。みんなのものよ?
「これはこれ、それはそれよ」
お菓子ごときで何でこんな争うんだ。貴族なのに食い意地がありすぎるわ。
他の席のお客さん達がこっちを見ているじゃない。恥ずかしいからやめてほしい。
「いいわ。そんなこと言うなら、ゲームで勝負しましょ」
「いいですわ。望むところですわ」
なんとか収まりそうな雰囲気でお姉様が自分のバッグから取り出したのは、トランプだった。
「いいですけど、何をやるんです?」
「ダウトとかどうかしら?」
「お姉様にぴったりのゲームですね」
「クリス何か言ったかしら?」
「いえ…何でもないです」
「そう? ならいいわ」
危ない危ない。つい、思った事を口にしてしまった。
でも、残り一時間くらいしかないけどいいのかしら? まぁ、本人達がいいならいいでしょ。
実際マーガレットとかも興味津々になっているし。こっちはゲームがしたいって感じだけどね。
いつの間にか後ろの席で入れ替えがあったのか、マトリカリアさんとデイジーさんとシフォンさんが席を乗り出して参戦していた。
「いつも思うのだけど、お姉様とソフィアは顔に出すぎなのよ」
「ぐぬぬ…」
「くやしい……」
案の定、お姉様とソフィアがツートップでビリだった。勿論お菓子は無し。
「シフォン! お願い。少し頂戴」
「仕方ありませんね。一つだけですよ」
「え、シフォンは私の事嫌いなの?」
「そ…そんな訳ないじゃないですか……。わ、分かりました。そんな目で見ないでください。あと二つあげますから。私の分無くなっちゃうじゃないですか…」
「仕方ないわね。三つで妥協してあげる」
シフォンさんかわいそう。二位で勝ったのに半分もソフィアに持っていかれてしまった。あの言い方は卑怯だと思うの。
まぁ、一番意外なのはカリーナちゃんかな。まさか、ゲームやっている時はあんなにポーカーフェイスになるなんて。
ちなみに私は下から三位だった。なんでかな? お姉様とソフィアの自爆以外で勝ててないのよね。そんなに顔に出やすいのかしら?
「こんなに顔に出やすいのに、相手の好意に気づかないなんてどうかしてるわ」
マーガレットがよくわからない事を言っている。多分お姉様かソフィアの事ね。
「「はぁ…………」」
唐突にマーガレットとカリーナちゃんがため息を吐いた。どうしたんだろう? 疲れたのかな? まだ学園にすら着いてないのに…。
あの後も駅に着くまでいくつかトランプでゲームに興じたのだが、トップが変わるだけで、下位三位は変わらなかった。




