02 奇行
そして、その結果がこれである。
毎度毎度よくこんなの思いつくなっていうくらいのセクハラをしてくる訳だけど、今回は特に酷い。
「あの…何でそんな事しているの?」
大勢のメイドさん達が私のいる場所から扉まで一列に仰向けに寝ていた。しかも交互左右に寝ている為、扉までは肩と肩の間を歩いていかないと辿り着かない。
こんなの大昔のバラエティ番組でしか見た事ないわよ。
「これなら、例え血を噴いても重力で下にしか落ちませんから、安心して歩いてください」
「いや…顔を踏んじゃうかもしれないじゃない…」
「それはそれでご褒美なのでお気になさらず」
気にするわよ。人の顔踏んで悦ぶような変態じゃないのよ?
「というかですね、ここを歩くと、スカートの中が丸見えになってしまうのだけれど?」
「「「「「「「「「はい。そうですよ」」」」」」」」」
メイドさん達が一斉に答える。何それ気持ち悪い。もしかして、私のパンツを覗こうとしてやっているのかしら?
まぁ、スカートの中で包みきれずにはち切れそうな布があるけど、そんなの見ても面白くないでしょうに。
まぁ、このメイドさん達の欲求に応える必要もないのよね。
「はぁ…」
「観念しましたね。では、私たちの上をお歩きください」
「分かったわ。じゃあ、行ってくるわ」
前には進まずに、そのまま後ろのバルコニーへ行く。
「「「「「ちょっ!」」」」」
何人かが意図に気づき立ち上がろうとするがもう遅い。
そのまま軽く後ろへ跳び、一回転して庭へ着地する。
「ふふん。どうかしら」
「えぇ。とても素晴らしいパンツでした。ご馳走さまです」
「!?」
振り返ると、こっちにも大勢のメイドさん達がいた。
中にはキャロルさんもいた。妊娠六ヶ月目なのに何をやっているのよ……。
「どうして…ここに?」
「それはもう分かりますよ。うちのメイド達は欲望に忠実ですから、きっとクリス様に良からぬ事をするだろう。であれば、クリス様の身体能力を持ってすれば、二階から飛び降りることは容易に想像できます」
アンジェさんが何の事はないと淡々と説明する。
「ただ、予想外だったのは、一回転して、重力に逆らわなかったスカートが捲れて、パンツがモロ見えだった事ですね」
ちょ…恥ずかしい。制服着てこれをするのは止めましょう。
「お陰で、私達はクリス様を温かい気持ちでお送りすることが出来ます。ありがとうございます」
その温かい気持ちは違う意味でしょうに。
昔はまともだった人達が最近タガが外れたようにおかしくなっている気がするんだけど、気のせいじゃないんでしょうね。
そんなやりとりをしていたら、慌ててビシューとロココが走ってきた。
「クリス様置いて行くなんて酷いです」
「そうですよ。ちゃんとしたルートから出ていただかないと」
「あなた達、クリス様の行動の予測が出来なかったのだから、文句を言える資格はありませんよ?」
「うっ……」「くぅ……」
アンジェさんに窘められ、悔しように呻く二人。出発前に何をやっているんだろうね?
「そういえばミルキーは?」
「多分、寝坊するだろうと思いましたので、先に馬車に乗せておきました。この騒ぎで起きないのならまだ寝ているのでしょう」
ミルキーさんがそんな事を言う。流石はメイドさん一の力持ち。
というか、この時間まで寝ているとかメイド失格よね? ただのメイドコスプレしたダメ女じゃない。
そんな中で、身重のキャロルさんが前に出てきた。
「クリスちゃん、楽しんできてね」
「はい。ありがとうございます」
「あと、これ。クリスチャンを想って描いたの」
そう言って渡してきたのは、キャロルさんの性癖ど真ん中のエロ同人誌だった。胎教に悪い。
「そ…そういえばお兄様は…」
「付いていこうとしていたから、執務室に軟禁してきたわ。態々制服に着替えてたから。仕方なく…ね」
お兄様が卒業したのは一昨年だから、間違えたって言い訳は通用しないのよね。
「大変ですね…」
「本当よぉ。ちゃんと私だけ見て欲しいもの。だ・か・ら、ちゃんと罰を与えておいたわ」
これは深く聞かない方がいいだろうな。お父様と同じでMに目覚めたら嫌だなぁ。
「そういえばお父様とお母様も見当たりませんが、どうかしたんですか?」
「レイチェル様は見てないけど、ジェームズ様は物欲しそうな目で見ていたのから、ルイスと一緒にいるわよ」
うちの家族は嫁に好き勝手されてるわね。まぁ、時期伯爵夫人だから仕方ないんだけどさ。それにしたって乗っ取られる勢いで、いいようにされてるんじゃないかしら?
帰ってきたらお兄様がボンテージファッションになってたら嫌だなぁ。
「じゃあ行ってくるわね」
軽く手を振るキャロルさんと恭しく頭を下げ見送るメイドさん達。




