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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第5章

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84 視察に行こう②


           *      


 まさかこんな大人数で行くとは思わなかった。

 駅には王妃様とレオナルド。お付きのシグマさんに護衛なのかグレートさんとウィリアム、エリー、テオドールたんとアーサー。どこから話を聞きつけたんだろうね。あとはディンゴちゃん、ギガさん。お母様とメアリー。そして私。

 セキュリティ上問題があると思うけど、こんな手薄でいいのかな?

 それに気づいた王妃様がウインクする。

 「私強いので」

 まぁ、そうよね。この中で一番非力なのがテオドールたんとアーサーというのがなんとも。それ以外はみんな戦えるんだけど、賊が大人数で来たら大変よ?

 まぁ、アンバーレイク領ならその心配もないのかな? どうなんだろ。

 一人考え込んでいたら、急に手を掴まれた。

 「クリス、乗り遅れるわよ」

 お母様に手を取られ、そのまま客車に乗り込んだ。


 汽車に乗るのは約二ヶ月ぶりくらいだわ。

 いろいろあったなぁと思い出す。なんて事はなく、みんながはしゃいでいる為、そんな事を考えている暇はなかった。

 「クリス、もう一つください」

 通路側の席に座ったレオナルドが口を開けて待っている。私が一つ一つ口に運んであげている。

 レオナルド的にはラブラブなところを見せつけたいんんだろうけど、餌付けしている母鳥の気持ちにしかならない。

 「まったく。お菓子くらい自分で食べられないのかしら? 王子様ってのは」

 窓側に座り喧嘩腰で話すソフィアは、私の作ったお菓子を抱えながら不機嫌にバリボリ食べている。

 「あーあー、ソフィアそんな食べ方したら服が食べこぼしでひどい事になってるわよ」

 まったく。世話がやけるわね。服の上の粉とかを集めてゴミ袋に入れる。

 チラとソフィアを見ると、なぜか顔を朱に染めてドヤ顔していた。

 「あらぁ、ごめんねクリス。手のかかる女でぇ」

 「ぐぬぬ…。私の婚約者に手を出すなんていい度胸ですね」

 「あら? 私は何もしていませんよ。クリスが気遣ってくれただけですよ? 考え過ぎじゃないんですか?」

 「クリスクリス。私のここにも食べかすがついてます。取ってくれませんか?」

 「はいはい。仕方ないですね」

 持っていたハンカチで拭ってあげたのだが、何故か不満顔だ。

 「プークスクスー。何を期待していたんですかね王子様はー。こんなところでそんな破廉恥な事出来るワケないじゃないですかー」

 「なっ……ななな…。べ……べべべ別にそんな、キスして欲しいなんて微塵も思ってませんよ」

 「あらぁ? あらあらあら〜? 私、キスなんて一言も言ってませんよぉ?」

 「くっ……。ですが、私とクリスは婚約者。どこで愛を確かめ合ってもおかしくないですよね?」

 「おかしいわよ。というか、私認めないからね」

 「ふっ…。既に公表してますし、ソフィアが文句を言う資格は無いですよねぇ?」

 「ぐぐぐっ…。クリス! クリスも何とか言いなさいよ」

 「そうです。僕達は愛し合っているとソフィアに分からせるべきです」

 私を挟んで二人が口論している。段々とヒートアップして私を両側から揺さぶるのはやめて欲しい。

 さっき集めた食べかすが散らばるからやめて欲しい。


 というか、この異常事態を傍観していないで止めて欲しいんですが。

 向かい側に座る王妃様とお母様は可愛いドレスを着込んだスケキヨさんに夢中だ。

 「あらあらダメよー。みんな仲良くねー」

 「そうよー。私達もスケちゃんと親睦を深めているんだから」

 「…もう…やだぁ……」

 「あらあらどうしたのー? おトイレかしらー?」

 「……ちがう……」

 「はっはっは。エテルナ様。ホームシックになってるだけかもしれませんよ」

 「なるほどねぇ。ぎゅー」

 「ぎゅー」

 二人してスケキヨさんを可愛がっている。ダメだこりゃ。スケキヨさんにあんなデレデレしちゃって。新しいおもちゃを手に入れた子供みたいな状態になっている。これは駅に着くまで続くかもしれない。スケキヨさんの気力がそこまで持つかしら?

 「エテルナ様、レイチェル様、たまには私と席を変わってください。私もスケキヨ様とにゃんにゃんしたいです」

 「ダメよ。まだ仲が深まってないもの」

 「恥じらってる今が最高の状態なのよ?」

 うーん。あっちはもうダメだな。

 でもやっぱりちゃんと窘めてくれる人はいるわけで。


 「おい、クリスが困ってるだろ? その辺にしとけよ?」

 「もーぉう、レオちゃんったらぁ、そんなに食べさせて欲しいんならぁ、ほらぁ… どぅぞぉ…」

 後ろのボックス席から身を乗り出したウィリアムとエリーが注意をしてくれた。

 「ふんふん…」

 横のボックス席のテオドールたんが可愛く怒った顔で頷いている。そんなテオドールたんの怒った顔に興奮するアーサー。

 「なっ…身を乗り出すなんてマナーが悪いですよ」

 「今更だろ? クリス困ってるじゃん」

 「そんな事ないですよねクリス」

 「そうよ。クリスを困らせてるのはレオナルド殿下だけよ」

 「これはダメだな」

 「そうねぇ。ちょっと重症よねぇ」

 そうなんだよね。二人ともなぜか一緒になると暴走するのよね。まぁ、一人でも結構暴走気味ではあるんだけど。

 「折角だしぃ、ここら辺で席替えしましょう」

 「そんな事をする必要はありません」「そうよ。やるなら私とクリス以外でやりなさいな」

 「あ?」

 「ひっ! や…やります…」「わ…分かったわ。やるわよ……」

 エリーが一瞬ドスの効いた声を出しただけで従ったレオナルドとソフィア。なんかかっこ悪いけど助かったわ。

 「どうやって席替えするの? クジとかあるの?」

 「あるわよぉ。ギガ〜」

 「お任せください。こちらに」

 スッとホストスタイルで棒状のクジを出したギガさん。用意がいいな。

 動くたびに胸がブルンブルン震えるギガさん。レオナルドとウィリアムの視線が上下する。これだから男は…。

 こんな状況でもテオドールたんしか見ていないアーサーってある意味硬派よね。

 ちょんちょんと肩を突かれる。

 そっちを振り返るとメアリーが飛び跳ねていた。

 「何やってんのメアリー」

 「……………なんでもないです………」

 そして悔しそうな声を出すソフィア。

 「くっ………」

 ソフィアはそんなに席が変わるのが嫌だったのかな?


 席替えの結果―――――

 私、テオドールたん、スケキヨさん、エリー、ギガさんのグループ。

 王妃様、お母様、シグマさん、メアリー、アーサーのグループ。

 レオナルド、ソフィア、ウィリアム、グレート様、ディンゴちゃんのグループに別れた。


 作為を感じるけど、まぁいい感じじゃないだろうか。

 「うわぁ………。最・高ぉ♡」

 両頬に手を当てて歓喜するギガさん。まぁ、ギガさん意外全員男だもんね。ギガさんも前世は男だから、中々に濃密なグループだわ。


 「絶対イカサマよね」

 「やり直しを要求するわ」

 「納得できません」

 「これ嫌がらせですよね?」

 「神は私を見放した…」

 納得いかないと王妃様達がが愚痴る。いいじゃない。ちゃんと主人と従者のグループで。まぁ、アーサーだけが異質だけど、お姉さん方に可愛がってもらって、女の人に目覚めたらいいんじゃないかしら?


 「またあなたとですか…」

 「その言葉そっくりお返しするわ。あんたが余計なことしなければ…」

 「よく言いますよ。邪魔をしたのはあなたではないですか?」

 あーあ。また二人一緒なのか。これはダメかもしれないわね。

 「お前らいい加減にしろよ? なぁばあちゃんも何か言って……」

 「おや、また一緒だね」

 「はい。またお話の続きが出来ますね」

 「………………」

 グレート様とディンゴちゃんはおばあちゃんと孫みたいな感じで和気藹々としている。レオナルドとソフィアも見習いなさいよ。

 そんな中でウィリアムはなんか苦労人になりそうね。


 「…どうして……どうして僕がまた真ん中……」

 「あらぁ…初々しくて可愛いわぁ…ほーんと食べちゃいたい」

 「…ひぃっ!」

 「あらぁダメですよエリー様ぁ。今が一番旬なんですよ。もう少し恥じらいを堪能しないとぉ…」

 エリーとギガさんに挟まれたスケキヨさんは顔を赤らめ、助けを求めるようにこっちを見るが、パワー系の二人に囲まれているので、右に左に振り向かせられている。

 スケキヨさんの細い首が外れないか心配だわ。

 そんな様子を眺めていたけど、トロンとした目のテオドールたんが撓垂(しなだ)れ掛かってきた。

 汽車の揺れで眠くなってきたのかな? まぁ、この辺はくねくねした線形だから結構揺れるのよね。

 寝息を立てて眠っているテオドールたんの頭をポンポンと触って窓の外を眺めることにした。

 車窓の外はまだ雪が残っているけど、所々地肌が見えていた。春も近いわね。目の前では春を超えて真夏のような光景が広がっている。こっちはこっちで楽しむので、ごゆっくりー。


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