73 女神様を探そう
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エテルナの執務室へ移動した三人。
そこにはいつの間にか抜け出していたラムダもいた。
「じゃあ、ここだけの話なんだけど…」
ラムダ、シグマ、メアリーを近くに寄せて囁くように切り出した。
「別にそんなコソコソしなくてもこの部屋だけは安全ですよね?」
「もう…そんなこと言ったら風情もへったくれもないじゃない」
口を尖らせて拗ねてみせるエテルナ。
「話が進みませんから、さっさと話してください」
恨みがましい目で続きを促すシグマ
「そ…そうね。……コホン。えっとねシグマ、女神様にお願いすればいいのよ。そうすれば結婚出来るんじゃない?」
「此の期に及んで、とうとう神頼みですか……。ついに耄碌しましたか?」
「ちっがうわよ! 全く信じてないんだから」
「エテルナ様の事は信じてませんよ。当然ですよ」
「いやいや本当なんだって。クリスちゃんはその女神様のお陰で今、女の子なのよ」
「そんな話信じられる訳……」
「本当ですよ。ただ、こっちではあんまり力が発揮できないのか、そろそろ効果が切れそうな感じですが」
シグマの発言をメアリーが遮り、補足する。
その言葉に胡乱げな目で見るシグマ。
「本当にぃ?」
「えぇ。あのロベルタの胸をAAからAに、その後無理矢理にBにまで大きくしましたのですから」
「それは凄いわね。あのカッチカチの洗濯板のどこを膨らませたのか気にはなるのだけど…。でも、それって限定的なんでしょ?」
「多分…」
「それじゃあ、私の結婚もダメじゃないの!」
しかしその言葉は予想していたのか、「ふっ…」と軽く鼻で笑うメアリー。
「な…なによ……」
「効果があるうちに既成事実を作ってしまえばいいのです!」
意表を突かれたシグマは、目を丸くする。そして、薄っすら笑みを浮かべると何度も頷いてみせる。
「メアリーにしては冴えているじゃない」
その事に気付いていなかったのはシグマだけだったようで、エテルナとラムダは分かっていても、苦笑いするしか出来なかった。
「で、その女神様を捕まえればいいのね?」
「さっすがシグマ。話が早くて助かるわぁ」
「だから私を有給扱いで調査を命じたんでしょうに…。で、その女神様とやらはどこにいるんです?」
「実は、行方不明なんですよね。年明け早々どこかにふらっと出かけてそのまんまなんです」
「天界に帰ったんじゃないの?」
「いえ、それはないですね。そもそも天界の仕事に疲れてこっちに来ているので、たまにふらっと旅に出ているようですが…」
「じゃあ、どこに行ったか分からないじゃない」
「それを探すためにシグマさんが呼ばれたんだと思いますよ、ねぇ王妃様?」
「そ……そうよ」
歯切れの悪いエテルナ。
「あの人そんなにお金持っていないので、そこまで遠くには行っていないと思うんですよね」
「目星はついているのですか?」
ここに来て初めて口を開いたラムダ。
「うーん。多分鉄道沿線かな…と」
「じゃあ王都から順にしらみ潰しに探していけばいいのね?」
「そう言う事になりますね」
シグマとラムダが互いに肯き合う。
「と言う事だから、メアリーも行ってきて」
「えっ! 私客人ですよね?」
「だって、その女神様とやらの顔を私達は知らないもの」
「では、似顔絵を描きますので」
「絵心無いじゃない」
「なっ!」
クリスにほっこりする絵と評されるくらい、メアリーは絵心がない。ちなみに、口頭で特徴を言っても擬音や曖昧な表現をするので、伝わらないのだ。
そんなメアリーは、がっくりと項垂れぶつぶつ言っている。
「あなた達二人だけじゃ大変でしょうからもう一人つけましょうか」
「待ってくださいエテルナ様。私とメアリーだけで行くのですか? ラムダは行かないのですか?」
「ラムダがいなかったら私の身の回りの世話は誰がやるの?」
「うっ!」
「でっ…でも、そんな重要人物を見つけるのに二人だけでは…」
「だからもう一人つけるって言ってるのよ」
一度決めたらなかなか意見を翻さないエテルナの性格を知っているシグマは早々に諦めた。
「はぁ…仕方ありませんね。で、そのもう一人って誰です?」
「今頃王都のホテルでサボっているはずだから、連れてきてちょうだい」
「分かりました…。それはそうと、ラムダだけでは大変じゃないですか? やっぱり私も残って…」
「大丈夫よ。そのホテルには補欠要員もいるもの」
「誰なんですかそれは?」
「クリスちゃんが大好きな、レオちゃんのライバルの子よ」




