64 朝からタイヘン
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「きゃあああああああああっ!!?」
客室に朝一番で悲鳴が響き渡る。
「た…助かった。ねぇ、ちょっと引っ張ってもらえない?」
悲鳴を上げたディンゴちゃんに救出を依頼する。
例の如くメアリーにガッチガチに抱き枕にされているために抜け出せない。
二時間くらい前から起きているけど、動けないのはキツイ。金縛りとどう違うのかしらね?
昨晩、メアリーに長い時間あれこれやられ、ひどく疲れて寝落ちした辺りから記憶がない。
ディンゴちゃんが試しに私を引っ張るが、一センチたりとも動かない。
「ねぇ、ちょっと何でこんなギッチギチになっているのよ」
「ホントにね…」
「そんな余裕そうなら別にそのままでもよくない?」
「少なくともあと二時間くらいは起きないから、何とかして欲しい」
そうなんだよね。メイドのくせに私より起きるの遅いのよね。一度寝ると中々起きないし。
だったら、私を抱いて眠るのはやめて欲しい。まぁ、言っても聞き入れてもらえない訳だけれども…。
「これクリスの趣味じゃないの?」
「趣味や酔狂でこんな事しないわよ。やめてって言ってもやめてくれないし…」
「クリスのとこのメイドおかしいんじゃない?」
「返す言葉もありません」
うちのメイドさん達がおかしいのは今に始まった事じゃないから、ちょっと感覚が麻痺していたわ。
「因みにいつもは、どうしてるの?」
メアリーにガッチガチに抱きつかれた状態で、ディンゴちゃんが立ったまま問いかけるシュールな構図になっている。
「いつもは、もう少し緩いから自力で出るかな。それでも難しい時は、他のメイドさん達に引っ張り出してもらってる」
他のメイドさん達ですら、メアリーの拘束を解く事は出来ないのよね。お陰で毎朝筋肉痛よ。
「サガさん達呼んでくる?」
「後々めんどくさい事になりそう」
「じゃあどうすんのよ?」
どうにか出来ないかな?
暫く悪あがきをしていたら、右肩の辺りが少し動かせるようになった。
メアリーの中でグリグリ身体を捩る。うなぎやどじょうになった気分よ。
「……はぁ…。もう無理ぃ……」
疲れた…。朝からこんな激しい運動したら体力もたないわ。
「ふぅ…。これならなんとかなりそうね」
不思議なものを見るような目で経過観察していたディンゴちゃんが、軽く嘆息して引っ張り出した。
「あぁ〜助かったぁー。ありがとー」
「ねぇ…何で裸なの?」
「え? あ……」
メアリー監獄から脱出した私は一糸纏わぬ姿をしていた。
「あぁごめん。こういう時に言う言葉があるのよね。昨晩はおたのしみでしたね」
「!」
ディンゴちゃんが、何か汚らわしいものを見るような目で私を見る。
「や…違うの。これはその…さっきので脱げただけで……」
「ふーん…そう。じゃあ何でその服がこっちに落ちているのかしらね?」
「そ…それは多分違うやつ……」
「へぇーそうなんだ。じゃあ違うんだったら、何でここに落ちてる下着とかこんなにびしょびしょなのかな?」
「み……水でも零したんじゃないかな……」
何で私は朝っぱらからディンゴちゃんにこんな言い訳をしているのだろうか?
というか、別に恋人でもないのに、なんでこんな詰め寄られているのかしら?
「女の子どうしでそういうことするなら、私でも良くない⁉️」
「えっ!」
ディンゴちゃんからのまさかのカミングアウト…。えぇ…そんな趣味だったんだ…。なんか顔と心が熱くなってきたわ。身体はすっごく寒いけど。
そんなディンゴちゃんが真っ赤な顔して私に近づいてきた。
「あ…あのさ……」
そんな時、部屋の扉が思いっきり開かれた。
「おはようクリスちゃん。調子はいかが? …………ってえぇっ!」
ノックもなくいきなり入ってきたのはエテルナ王妃だった。やっぱりレオナルドの母親だなと思った。
「あら…ごめんなさい。取り込み中だったわね…………って、待った」
ツカツカと神妙な面持ちで私の前まで来た王妃様は、さっとしゃがんで、私の腰の両側を掴んである一点を食い入るように眺めた。
「えっ………うそ………えっ…えっ? なんで……何でないの?」
この瞬間を他の人に見られたら、どんな言い訳をしても信じてもらえないだろう。
そして、わなわなと震えながら立った王妃様は私の両肩を掴んで尋ねた。
「ちょっと! クリスちゃん! お○ん○んを一体何処に落としてきたのっ!!!」
朝からとんでもない単語を叫ぶ王妃様。
ポカーンと現実を受け入れられず立ち尽くすデンィンゴちゃんと、私をガクガクと揺さぶる王妃様。そして、こんなにも騒がしいのに未だ起きないメアリー。
朝から随分と胃にくる重さだわ。
とにかく、このままじゃなんにも解決しなそうなので、一番めんどくさそうな王妃様を押して部屋から出す事にした。
「分かりました王妃様。後で説明しますので、とりあえず今は出て行ってもらってもいいですか?」
「そんなこと言って逃げるんでしょ?」
あぁもう。めんどくさいなこの人。
「逃げませんよ。まだ色々終わってないじゃないですか?」
「それもそうね。……分かったわ。必ず説明してちょうだい!」
何度も食い下がる王妃様を半ば強引に部屋の外へ追い出す。王妃様との押し問答で、少しドアが歪んだ気がする。
さて…ディンゴちゃんには何て説明しようかしら?
「ねぇクリス……」
「あ、ごめん…説明が必要だよね?」
「それよりもまず何かきた方がいいんじゃないかしら?」
そうね。裸だったわ。こんな寒い季節に私何やってるんだろうね?




