55 そろそろ終わりにしましょう②
「うっ…うっ…。わ…私はどうしたら…」
「今まで通りでいいのよ。ねぇ王妃様」
「えぇそうね」
「えっ!」
顔を上げ驚いた顔をするディンゴちゃん。
「もういいわよ。メアリー! いるんでしょ?」
そう私が叫んだと同時に、天井から数人の人影が降りてきた。
「わっ!」
驚き身じろぐディンゴちゃん。
「遅いですよクリス様。待ちくたびれちゃいました」
「ごめんごめん。でも予定通りでしょ?」
「まぁそうなんですけどね」
天井から降りてきたのはメアリーとビシューとロココと、うちのメイドが三人とロープでぐるぐる巻きにされ布で口元を縛られて喋れないようにされている男が四人。メアリーが二人抱えてきたのかな?
「めちゃくちゃ寒かったです。もっと早く呼んでくださいよ」
「ごめんて」
「ハグを要求します」
「今はそういうのいいから」
「話が進まないから、今だけはちゃんとしなさいよ」
メアリーがくだらない事を言うと、ビシューとロココがちゃんとツッコミを入れる。
そんな様子に王妃様とラムダさんは動じず、ニコニコしているが、ディンゴちゃんは「えっ! えっ!」と戸惑い続けている。
まぁ、うちの独特のノリにはついていけないわよね。
「あぁ、ごめんねディンゴちゃん。でも安心していいわよ。あなたを脅していた悪い人はほら、ここにいるでしょう?」
そう言うとディンゴちゃんは、男達を確認すると驚愕の表情になる。
「!」
なるほど。この男か。
オールバックにしていたであろう金色の髪型は崩れ、出来損ないの食パンみたいになっている。
ディンゴちゃんはその男をみるなり、驚き固まってしまう。
「大丈夫よ。もうディンゴちゃんに危害を加える人はいないから」
「えぇ勿論です。ご家族の方は無事に救出出来ました」
「そ…そう。良かった…」
ロココの報告に涙をポロポロ流すディンゴちゃん。
「主要な人物はこの四人ですね。残りは皆地下牢に放り込んでおきました」
「あらぁ助かるわ。ありがとう」
ビシューが淡々と報告する。
その中で相変わらず睨みつける金髪の男。
王妃様が近づき、口元の布を下すと、一気に捲し立てるように喋り出す。
「えっ…エテルナ王妃! これは一体何の真似ですかな? どうして私がこのような目に遭わなければならないのか皆目見当もつきませぬ。内容によっては訴える事も吝かではないですよ!」
「ふーん。言いたい事はそれだけかしらトールロック侯爵?」
しゃがみこんで膝に肘を乗せ、顔を両手で支え、ニコニコしながら続きを促す王妃様。
「なっ…ななな…これは許されませんよ? 何の証拠があって」
「あるわよ。ほら」
王妃様の手には朝確認していたであろう書類の束が握られていた。
一体いつの間にと思ったら、いつの間にか横にいたビシューが渡していたらしい。
「調べは全部ついてるのよ? それにね。こんないたいけな子を脅して私を殺そうとするなんてねぇ」
「なっ! 私がそのような事をするはずがありません。何かの間違いでは?」
王妃様が残念そうに目を閉じて首を振る。
「ねぇ、どうしてこの後に及んで逃げられるなんて思っているのかしら?」
「へぇあ?」
情けない声を漏らすトールロック侯爵。
「この私が何の準備もせずに糾弾する訳ないでしょう?」
「……………」
「あなたの大事なおバカな娘さん。朝一で出て行ったけど、帰るところあるのかしらね?」
「⁉️」
くすくすと笑いながら問いかける王妃様。
「イットロファイアフライ伯爵、モナズサンド子爵、イーストパイライト男爵。あなた達も付く相手を間違えたわね。特にイーストパイライト男爵。命令とはいえ流石に、私の義娘になる者を陥れようとするなんてね」
あの…まだ予定ですよね? 恰も決定みたいな言い方してますけど…。
それはそうと、王妃様の圧に屈したのか、三人は諦めたのか反論する事なく、目を瞑り頭を下げていた。
しかし諦めの悪いのが一人。この後に及んでまだいろいろと捲し立てている。
「ち…違うのです。そう、これは国のため、今後の発展の為に必要であってですね…。少ない犠牲で大きな利益を得る……」
「お前私に死ねって言ってる?」
「…ぅっ! そ…そのような事は…」
流石の私も、王妃様の怒りで震えたわ。
その場限りの言い訳で逃げ切ろうとしたようだけど、どんどん泥沼にハマってしまったようだ。自分が何を言っていたのかやっと分かったらしく、これ以上ないくらい真っ白な顔をしている。
「国王様になら、その言い訳でも通用したでしょうね。でも残念。国政を担っている私がそれを見逃す訳無いでしょう」
「も…申し訳……」
「言い訳はいいわ。続きは法廷でやりましょう? もっともあなたに弁護人が付けばの話だけどね。ラムダ!」
「はい。王妃様」
もう結果が分かっていたのか、ラムダさんが扉を開けると、待機していたであろう騎士の人達が入ってきて、簀巻きの男達を抱えて出て行った。
最後に残った見覚えのある騎士が恭しく礼をした。
「王妃様、後は我々で対応いたします」
「お願いね。パジェロ将軍」
「えぇ。ところで、どうしてクリス嬢がここに?」
なるほど。ここでこうする事が予め決まっている事だったんだなぁ。多分私がイレギュラーだったのかな?
「あら。未来の義娘がいたらおかしいの?」
「い…いえ。そんな事は……っ! ……し、失礼します」
慌てて出て行ったパジェロ将軍。ウィリアムに変な事は言わないでおいてもらえると助かるんだけどな。……あれ、何でそんな事思いついたんだろう? まぁいいか。
しかし、さっきまでの張り詰めていた空気が嘘のよう。




