03 お父様からの呼び出しは大抵ロクなもんじゃない
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「お父様お呼びですか?」
「あぁ、クリスぅ待ってよぉ……」
私の部屋とは打って変わって少し肌寒い部屋。
暖炉くらいつければいいのに。
いっぱい着込んできて正解だったわ。
「それで用って何ですか? 今度は神社とか寺とか、もしかしてモスクを建てろっていうんですか?」
「いやいや…」
「じゃあ、神殿とかパレスですか」
「いや、そういうのじゃないんだ」
一体なんだろうかと思っていると、机の横に置いた箱から数十枚の封書を取り出して、机の上に置いた。
「これは……」
一番上には『最後通告』と書かれていた。
「なんですかお父様…。もしかして、街金でお金でも借りて返せなくなったんですか?」
「そ、そんな事するわけないだろう? ほら、差出人をよく見て」
お父様がトントンと示した差出人の所を見ると、『エテルナ王妃』の名前が記されていた。
「これって呼び出しですか?」
「うん……」
「いつからです?」
「夏前くらいかな……」
「なんで無視し続けてたんです?」
「いやだって、いろいろ忙しいし、ルイスとクリスが私の仕事を手伝ってくれるもんだから、いなくなったら大変なんだよ」
「それにしても……」
「まぁ、引き延しすぎたと思うんだけどね」
「まじおこですよこれ」
中身を見ると、簡潔に『はやくしろ』と書かれていた。
一体最初の方には何て書かれていたのだろう。
「そこで、申し訳ないんだけど、クリスにはこの後王宮へ行ってもらいたいんだ」
「へ?」
「いや、まぁ一応レオナルド殿下の婚約者だからね。今まで王妃教育をしてこなかったのも問題でね」
確かにそうね。よく今までやらずに済んできたわね。
王妃教育なんて、固くてキツいイメージしかないんですが、実際のところどうなんですかね?
正直何をやるのか、皆目検討もつきませんが、まぁ、うちでやっている事に比べれば、そんなに大変じゃないのかな?
「それで、王妃教育含め、王城での暮らしに慣れるように暫く滞在しろと…」
あれ、本当にガックリきてますね。意外。
でも暫く王城に滞在しないといけないのか。
「あの…、滞在中にバレたらどうするんですか?」
ポカーンとした顔で私を見るお父様。言われるまで気づかなかったみたいなかんじしてますが、まさかそんな事ないですよね?
「あ、そっかぁ………」
まぁ確かに、どこからどう見てもかわいい女の子にしか見えませんから、忘れてしまうのは仕方ないですが、本気で忘れるのはどうかと思いますよ?
最近は、少し色気も出てきたと思いますが、どうです?
でも今回は他に懸案事項があるのか、どこか上の空だ。
「あと、それとは別に問題が発生していてね。それの対応に追われているんだよ」
やっぱりそうでしたか。
この家で解決できない問題なんて、婚約解消位のものと思ってたんだけど、どうやら他にもあったらしい。
「実は、例の件で、他の貴族への説明に人を取られていてね、ルイスもサマンサも学園に入ってる時に仕掛けてきたんだよ」
最近メイドさんも使用人さんも少ないと思っていたんだけど、まさかそんな理由だったとは…。
「それで、いろんなところに説明に行ってもらってて、この後もそれぞれの子供と孤児たちの面倒を見るもの以外は、北とか東の貴族に説明に行かなくてはいけなくてね」
あのメアリーにできるんだろうか?
「私も、この後レイチェルと公爵領に行かなくてはならなくて…」
「公爵領ですか?」
「そう。アンバーレイク公爵領。そこでアンバーレイク公爵夫妻と今後の協議をして、他の公爵家や侯爵家に話を通さないといけなくて。もうこの時点でお腹が痛いよ」
「大変…そうですね…」
「そうなんだよ。本当ならルイスにサマンサ。そしてクリスに全部お願いしちゃいたかったんだけど、今回はそうもいかなくてね…」
あっぶな……。もし、そんな事になったら、お父様じゃないけど、私もお腹痛くなりそう。
今回は楽な方に行けてよかってわ。
こんな雪深くて寒い中、鉄道も通っていない場所へ、馬車で行かないといけないなんて、正気の沙汰じゃないものね。




