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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第4章

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72 番外編13 アンとクライブ出禁になる②


           *      


 少し遡る事、昨日の午後―――――

 「なるほどね。それは問題だわ」

 「どうしたらいいでしょうかね?」

 「うーん……」

 腕組み椅子に深く凭れ込み考える。


 ここはメイドさん達が普段使う会議室。

 メイド長兼議長であるアンジェさんの後ろの黒板には『第n回メイド会議 緊急動議! 私達の子供達を魔の手から救え!』なんて書いてある。

 うーん……。大体あってるわね。

 しかし、話を聞くと、想像してたよりよっぽど酷い。

 私だけならまだしも、子供達にトラウマを与えるのは如何なものかと思うのよね。

 そして今回、私がオブザーバーとして呼ばれたんだけど、オブザーバーってより、現時点の被害者って感じもするのよね。まぁいいけど。


 「どうせ何言っても納得しないでしょあの人達」

 「そうですね。今まで好き勝手やってますからね」

 「とりあえず、証拠あるんだよね」

 「はい。これです」

 そう言って取り出したのはICレコーダーとノートパソコン。

 うちにはアンバーレイク製の監視カメラがあるから、音声と映像はばっちりあるんだけど、全く知らない人達から見たら、あの人達からしたら未知の技術だ。証拠として取り合ってもらえないかもしれない。

 とりあえず見せるけど、十中八九いちゃもんつけるでしょうね。


 「じゃあ、さ。納得せざるえないようにしちゃえばいいのよ」

 「どうするんです?」

 「私達の大好きなイベントをやりましょ」

 「なんです? また大食い大会とかするんですか?」

 「確かに、サマンサ様やメアリー。それにソフィア様も参加していただければ勝ち目はありますね」

 「夏だから食中毒とか怖いのよね。毎回カードゲームやボードゲームやるのも面白くないし……。あ、そうだ。折角だし、子供達に勝ってもらいましょ」

 そう言ってアイデアを説明した。


 「なるほど。上手くいきますかね?」

 「うーん。半々だけど、そこは色々細工して。例えば………」

 そうしてある程度まとまったので、必要な道具などを準備・製作し、イベント当日を迎えた。

 上手くいくといいんだけどね………。


           *      


 「はい。という事でですね。さっきまで晴れていた天気も曇り空になったので、動くには過ごしやすいのかなと思いますが、どうですかお姉様?」

 「そうね。丁度風も吹いてきたし、過ごしやすいと思うわ。やるのも見るのも一番いいタイミングね」

 「はい。では、第n回、チキチキ玉入れ大会を開催いたしまーす!」

 「「「「「「わー」」」」」」


 今回のイベントは玉入れだ。初夏とか秋の運動会にやるイベントだが、夏にやるのは季節外れよね。でもまぁ、この十分くらいなら大丈夫だろう。子供達にはこの後、おやつとしてアイスクリームがあるので、それで勘弁して欲しいところ。

 何より子供達自身で倒す事に意義がある気がしたのよね。


 「クリスきゅんが司会してるわ」

 「そんなことより子供達がいっぱいいるぞ」

 「そうね。ここは勝って私達に正義があることを証明しなきゃね」

 いつもいがみ合ってるあの二人が固く握手をしていた。結託した変態って強敵なのよね。


「じゃあルールの説明しますねー」

 今回は子供達対変態二人だ。

 他の面々はみんな観客席でドリンク片手に観覧している。

 「じゃあ、この袋をみんなであそこの大会ところにあるカゴに入れてもらいます。子供達3チーム対クライブさんとアンさん二人組みチームとの対戦になります。制限時間は十分でーす。みんなーがんばってねー」

 子供達チームの方には豆が入った袋だ。豆もいっぱい入ると重いけど子供達でも投げられる重さだ。


 「じゃあ、用意はいいですかー? 始めー!」

 子供達が「わーわー」言いながら楽しそうに投げている。

 流石にカゴが高い位置にあるから、そんなに入らないけど、いくつか入っている。

 対する変態二人のチームは予想通り、玉入れそっちのけで、子供達の一挙手一投足全てに反応している。

 子供が袋を取ろうとしゃがむと一緒にしゃがむし、上に向かって投げると一緒にジャンプしたりする。

 こういうところだけ見ると無害そうに見えるんだけどね。なんて言うんだろうか…その、愛が暴走しすぎたのかな?


 一応変態二人チームの方には細工をしてある。

 子供対大人だから、ある程度のハンデは必要という名目で、袋の中身は豆粒サイズの鉄が入っている。そして、カゴのついたポールは重さで傾き、中身をぶち撒ける仕掛けを施しているが、どうやら出番は無いようだ。

 一応二つの意味で危ないから、距離も2メートルくらい離しているが、このままいけば大丈夫そうだ。

 結局、一つも袋に触れる事すらなく、子供達側の勝利で幕を閉じた。


 「では、約束通り子供達には近づかないでくださいね」

 大勢のメイドさん達と相対しながら、渋々頷いていた。


           *      


 「ちょっと、負けちゃったじゃないの」

 「お前だって一緒になって見ていただけじゃないか」

 メイド達が去り、庭に二人ぽつんと残されてしまった。


 「でもまぁ、今思うと、やりすぎたかなとは思うわ」

 「お前が反省するなんて珍しいな」

 「私だって反省してるのよ? もう子供達と会えない。あの感触、温もり、匂いを堪能する事が出来ないのよ?」

 「そうだな。それに関しては残念だ」

 いつからだろうな。我を失ってあんな奇行に走ったのは。

 目が覚めたのは全てを失ってからだなんてな。


 「私決めたわ」

 「何をだ?」

 「王都に戻って、ここみたいに子供達と触れ合える学園みたいのを作るわ」

 目をキラキラさせながら将来を語るアンは夕日の色と相まって眩しく見えた。

 「では、俺も一緒に手伝ってやろう」

 「あなたは要らないわ。私一人で愉しみたいもの」

 「まぁまぁ、そう言うな。男手だって必要だろう?」

 「だーかーらー、要らないって」

 「頼むよ」

 こういう時は土下座に限る。速攻で土下座したのだが、返事が無い。

 ゆっくりと頭を上げるとアンの姿は遠ざかっていた。

 薄情なやつだな。まったく。


 「おい待てよ」

 「ちょ、なんでついてくるのよ」

 「屋敷がこっちなんだから仕方ないだろ?」

 「もう勝手にしてよね。今日は気分が悪いわ。そうねクリスきゅんを愛でないと、この不満は解消されないわね」

 「俺も行っていいか?」

 「いいわけないでしょ。女子のパジャマパーティーなんだから」

 「ぐぅ…」

 もう少し自重するべきだったな。アンと一緒だとどうも我を忘れてしまう。


 その後、王都でアンとクライブが幼稚園や小学校などを、オパールレイン領をモデルに設立し、問題ばかり起こすのはまた別の話。


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