63 番外編11 年末のガールズトーク①
「どう? 女の子には慣れたかしら?」
街のカフェに自称女神様であるイデアに呼び出されて、開口一番に言われたのがこれだ。
約四ヶ月前に私の体を期限付きといえど、正しい性別に変えたのだから、自称は外してもいいのかもしれない。
ちなみにこの自称女神様とやら、前世では『井出敦子さん』という名前で、この世界の元ネタのゲームプロデューサーだったらしい。
本人曰くたまたま『イデア』って名前だったそうだけど、どう考えてもネトゲのハンドルネームを決める感覚の命名よね。だって、ゲームの設定であるんだもの。たまたまなんて事ないはずよ。
ちなみに、この世界の創造主ではないらしく、いつの間にか女神になっていたそうだ。
まぁ仕事一筋で生きてきたからなのか分からないけど、うちで暫くメイドの格好をして過ごしているんだけど、メアリーと同じで全然仕事が出来ない。
炊事・洗濯・裁縫・掃除どれをとっても酷かった。
メアリーでさえ、私とお風呂はいって、一緒に寝て、着替えをするくらいは出来るから、それより酷い人は他に見当たらない。
だから今はメイドの格好をしていても客人の扱いになっている。
客人ならメイドの格好じゃなくてドレスとか着てればいいと思うんだけどね。
「それにしても携帯って便利よね」
「なに、メリーちゃんにもらったの?」
「そうよー」
折りたたみ式の携帯電話をパカパカと開いたり閉じたりしている。
私のケータイに着信があったから出てみたら、「カフェで待ってるから来てね」と一言だけ言って切ってしまった。
教えていないはずなのに、どうして知っているんだろうか。
「で、どうなのよ」
そんなイデアさんは、持っていた携帯電話を置いて、両手で頬杖をつきながらニヤニヤしている。
「女の子の日がつらい」
「あら大変ね」
「こんなに辛いなんて知らなかったんだけど」
ホント、今すぐにでも戻してほしいくらいよ。こんなのを毎回味わうなんて拷問よ? どおりでお姉様やソフィアがいつも決まった頃に機嫌悪い時があるわけだわ。
地上にいる間は力が制限されるとか嘯いているので、のらりくらりと躱されてきたのだけれど、もしかしたら戻してくれるのか、或いはこのデメリットだけをなくしてくれるのだろうか?
だから態々こうして赴いてきたわけなんだけど。
「そんな事を聞きたいわけじゃないんでしょ?」
「いや、そうだけど」
「え?」
「いや、最近どうなのかなー、慣れたのかなー? 毎日してるのかなーって思って」
「正直、あの日速攻で気になったから触ったんだけど、痛かったから、それ以降何もしてないわよ」
「えぇ! もったいない!」
もったいないも何も、ただ痛いだけで全然気持ち良くなかったし。しかもちょっとトラウマになってるからそういう事しようという気持ちに一切ならないのよ。トイレの後ですらちょっと怖いから、恐る恐る拭いてるのよ?
まぁ、心が体に引っ張られてるってのもあるとは思うんだけどね。
だから、ここ最近下ネタとか全然興味が湧かない。どうしてうちのメイドさん達はあんなに盛り上がれるんだろうと思ってしまうくらいに。
「ねぇ、もしかしてそんな事を聞くために呼んだの?」
「いやほら、あれからまともに話せる機会ってなかったじゃない? だから、こうしてゆっくりお話したいなって思ったのよ」
「そういえばそうだね」
とてもそうは思えないけど、まぁ最近いろいろ忙しかったし、ゆっくりしたいって気持ちはあるから、まぁ良しとしましょ。
店員さんにホットのカフェラテとティラミスを頼むと、ついでとばかりにイデアさんも追加でカフェモカとズコットを頼んだ。
「やっぱり甘いものって大事よね」
「…まぁそうね……」
既に何かしら食べていたであろう形跡があったが、注文を取りに来た店員さんが片付けてしまったので、どれだけ食べたのか分からない。
「ねぇ、それ一口くれない?」
「え、いいけど…」
言い終わる前に勝手に私のティラミスを食べるイデアさん。
「じゃあこっちもどうぞ」
そう言ってさっき注文したズコットの切り分けられた先端部分をとって口に運ぶと「えっ…」という声が聞こえたので、イデアさんを見ると信じられないと言った顔をしていた。
なんで? 別にいっぱい食べたわけじゃないのに、どうしてそんな表情をされないといけないんだろう。
ムッとした表情のまま、私のティラミスをさらに一口食べるイデアさん。
「これでおあいこよ」
解せない。お姉様やソフィア以上に自分勝手すぎる気がする。
とりあえず、気を取り直してここ最近見かけなかった理由を尋ねる。
「そういえばここ暫く見なかったけどどうしてたの?」
「ん? あぁ、ゲーム作ってたわよ」
「え? ゲーム? ボードゲームとかカードゲームとか?」
「違うわよ。ちゃんとゲーム機で遊べる方のゲームよ」
「え、そんなの出来るの?」
てっきり私が作ってたボードゲームとかカードゲームの事だと思ったんだけど、まさかまさかのテレビゲームの方だとは思わなかったわ。
「いやほら私ゲーム作ることしかできないからさぁ、ソフィアちゃんのところのスケキヨ君とメリーちゃんと一緒に篭って作ってたのよ」
まぁあそこだけ世界観ぶち壊しなくらいハイテクな機械とかあるからね。そりゃあやろうと思えば出来るでしょうよ。
「この数ヶ月居なかったのって…」
「そうよー。あの子達ホント優秀ね。びっくりしちゃったわ」
「そ、そうなんだ…………。で、出来たの?」
「そんな短期間で出来るわけないじゃないのよ。まぁ、さわりの部分だけはできたわよー。他にも優秀な人たちがいっぱいいたしね。あ、スチルとかはクリスちゃんのところのメイドさん達に描いてもらったわ」
どうりで最近ちらほら見かけない人がいると思ったのよね。
まぁそうだよね。普通に考えて一年以上掛かるわよね。
「まぁ、スチルに関しては全部終わってるのよ」
「はやっ! え、だってペンタブとか液タブでしょ? 使えるの?」
「みんな一時間かからずにマスターしてたわ。私もびっくりよ。まぁ、手伝ってもらった子達が全員欲しがってたけどね。流石に私が用意したわけじゃないから簡単にどうぞ、なんて言えないしね」
デジタルに移行したらより刊行のペースが上がるんじゃないかな?
「まぁ向こうで生産出来次第配るらしいわよ」
「私も一台欲しいんだけど…」
「スケキヨ君に聞いてみたら?」
「私、あの人と殆ど会話した事ないのよね…」
後で行った時にお願いしてみようかな。




