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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第4章

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34 アーサー


           *      


 「おお女神様、今日も一段と逞しく美しい」

 その褒め言葉はどうなのかしら?

 アーサーはクリスの前に跪き、股間部分を凝視しながら恍惚の表情を浮かべている。


 「ねぇ、アーサーってあんなんだったっけ?」

 「いや…私の知ってるアーサー様と違う…」

 マーガレットが唖然とした表情でアーサーをみつめる。

 そうよね。あれじゃただの変態よ。

 というか、普通にクリスが男だってのを受け入れているわね。

 男相手に女神って、最高に意味不明よね。まぁ、確かにクリスは私にとっても天使で女神でアイドルよ。そこに気づくとは中々に目があるとは思うわ。


 しかし、堂々とクリスのクリスに顔を近づけて荒い息を吐いてるなんて…なんて、なんて羨ましいのかしら。

 私だってやりたいのに、いっつもクリスに拒否されるのよ。なんでよ。ちゃんとアーサーにも嫌がりなさいよ。まったく……。


 そんなアーサーを後ろから止めよと必死に服を摘んでる子がいる。

 テオドールだ。こんなところで攻略キャラが全部出揃うなんてね。

 「テオはちゃんと男の娘ね」

 「そうね。他の人は知らないけど、テオは変更点とかなさそうね」


 あら、どうしましょう。こんなところに三パターンの女装男子が揃ってしまったわ。

 一人目はクリス。どっからどう見ても女の子。体格も声も仕草も女の子。未だに声変わりしてないし、恐ろしいことに喉仏もない。脱がなけりゃバレない完璧女装男子。


 二人目はエリー。どっからどう見ても男。筋骨隆々な体格で、裏声でおネェっぽい喋り方をする男。体を鍛えすぎてるのか、着れる服が少なく、着てもほつれや破けてる箇所が多い。女装男子と言って差し支えがないのか判断に困るわね。


 三人目はテオドール。公式で男の娘扱いされてる可愛い子。基本男の子の服を着てるけど、顔・髪型・体型・声・喋り方・仕草、どれをとっても天然物の男の娘。クリスと今後どう絡むのか気になるわ。勿論性的な意味で。


 「正直、クリスとテオがどう絡むのか気になるわ」

 「ソフィアお姉様、それは私も気になります」

 ふっ…。マーガレットとはいい酒が飲めそうね。まだ未成年だけど。


 クリスから引き剥がされたアーサーがテオドールに叱られてる。

 やっば。クリス推しだけど、本物のテオドールも可愛いわね。ちっちゃいし、クリスと背丈もほとんど変わらない。

 そう考えると、クリスって背低いのね。


 「ムキになって怒るテオドールかわいい」

 「激しく同意」

 「正直、テオになら怒られてもいいかなって思うわよね」

 「えぇ。怒られてる感がないですしね。どっちかというとご褒美みたいな」

 「あー分かるー。微笑ましく感じるよね」

 「そうそう。攻撃力0のポカポカとかあると尚いいですね」

 マーガレットに向き合いスッと手を差し出す。

 マーガレットもそれに応えるように固く握手した。なんか固い絆が生まれた気分ね。


 「ところでマーガレット、どっちが受けかしら?」

 「そりゃあ勿論…」

 「「クリス」」

 再び固い握手をした。こんなところに分かり合える人がいるなんて。

 これは薄い本を描いてもらわないといけないわね。


 「テオが顔を真っ赤にして必死に腰振ってるところを想像するだけでご飯三杯…いや五杯いけるわ」

 「涙目も追加よ、マーガレット」

 「流石ソフィアお姉様……」

 うっとりした表情で見つめるマーガレット。今この瞬間同盟が結ばれたわ。

 しかし、そんな理想をぶち壊そうとする出来事が目の前で繰り広げられようとしていた。


 テオドールに必死に謝る姿は、昭和の怖いおかんに必死に謝るダメ親父感があった。

 テオドールは拗ねたようにそっぽを向いてしまった。かわいい。

 それを見て安心したのかアーサーがエリーの方を向きうっとりした表情になる。

 「あなたのも大きくて逞しくて、素晴らしいです…」

 「あらぁ、あ・り・が・と!」

 嫌な予感がする。


 「ねぇ…。褒められてとてもキュンキュンしちゃったわぁ。ねーえぇ、あなたさえよかったらわ・た・しとしない?」

 「ごめんなさい。とても魅力的な提案ですが、私初めてはこの人と決めてる方がいるので、その後でしたら…」

 「それじゃあ仕方ないわねぇ。その時が来たら連絡してねぇ…」

 「えぇ…是非!」

 クリスがすっごく嫌そうな顔をしている。分かるわー。

 チラッとマーガレットを見ると、真顔だった。何か…御愁傷様?


 「あの、マーガレット……」

 「言わなくていいわ」

 「そ、そうよね。ごめんね……」

 「私にはソフィアお姉様がいるので、踏ん切りがつきました。ふふふっ…」

 こっちもかぁ…。

 アーサーのバカ! めんどくさいことになっちゃったじゃないの。どうしてくれんのよ!

 クリスは鈍感だし…。ここでまともなのは私とテオドールだけのようね。



 部屋に入るなり、速攻でクリスに駆け寄り痴態を繰り広げたアーサーは今頃になって、私とマーガレットに気づいたようだ。

 遅すぎない? まずは一通り挨拶してからにしなさいよ。


 「あっ…、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ソフィア嬢…。私アーサー・カーネリアンダウンと申します」

 本当に遅いわね。でも、私直接会ったのは初めてなのよね。ゲームでは何回も会ってるんだけどね。


 「あら、私の事知ってるの?」

 「当然です。貴族の方々と会う機会は多いですし、各家のご家族全て覚えるのは当然の事にございます」

 だそうですよクリス?

 知らなかったーみたいな狼狽えた表情になるクリス。

 その何でも出来るのに、肝心なとこで抜けてるクリスほんっとに好き。大好き。


 クリスももっと他の家のパーティとか行けばいいのに。

 あ、でもそれだとクリスの可愛さが他の家に知れ渡ってしまうわ。それはそれで困るわね。


 「あぁ…マーガレット嬢もお変わりないようで安心しました。ちゃんと食べてますか?」

 「あっ…はい。良くしていただいてます………」

 「それは良かったです。心配していたんですよ」

 にっこりとよそ行きの笑顔で応対するアーサー。

 これ分かっちゃったかも。もしかしてアーサーって男好きでしょ。だからか女性相手には形式的な対応なのね。複雑な心境だわ…。


 「あの…、アーサー様はどうしてこちらに…」

 そうだったわ。クリスの話だと今日は街を視察するみたいな感じだったけど、まだお昼前よ。………お昼何食べようかしら………。


 「いえ、折角なので女神様と街を歩きたいと思いまして、本日は許可を賜りたく参った次第でして…」

 「えっ!」

 より一層嫌そうな顔をするクリス。

 もう少し顔に出ないようにしなさいよ。でもそういう表情がコロコロ変わるところが愛おしいのよね。あぁ、クリスの涙目で朱に染まった顔が見たいわ…。


 「女神様、どうか、明日私と一緒に街へ行ってはもらえないでしょうか?」

 さっさと踵を返して、再びクリスの前に行き、手を取り了承を得ようとするアーサー。近い近い。それ以上近づいたらぶっとばすわよ?

 って、待って。何でちょっと赤くなってんのよ。え? もしかしてクリスもそっちの方がいいの?


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