17 人気の作家
改めて、私の横にアリスとメタモが座り、対面にコロナさん。
カリーナは私の斜め後ろに立っている。一緒に座ればいいのに。
「ところで、何で二人は私の横に座ってるの?」
「そりゃあ、原稿を持ってきたんだもの。ミスがないか確認してもらわないとね」
「そうよ。修正する箇所とかあったら逐次確認しないとね。常識だぞ?」
「あ、じゃあ私がここにいるのはおかしいわね。席を外すわ」
立とうとした瞬間に、両手を掴まれ、ソファに無理やり座らされた。
「えっ? えっ? 何で」
「いいのよ。クリスはここにいて」
「そして、一緒に確認しなさいよ」
「えぇ…。必要ないでしょ」
「あるわよ」
「そうそう。何てったって…」
そうして二人が私の眼の前に出したのは…。
「あのさぁ…。こういうのいいから。自分で好きにやりなよ」
私のあられもない姿のイラスト? いや、漫画だ。
「ちゃんと見てくれないとモチベ上がらないんだけど」
「そうよ。恥じらって、興奮してくれなきゃ」
「そうですよ、クリス様。お二方のやる気を削がれては困りますよ」
「え? どういう事?」
「お二人は、我が青の洞窟のナンバーワンとナンバーツーの作家なんですよ」
マジか。
「ふっふーん、あたしの凄さが分かった? ちなみに今回はー、クリスが奴隷落ちしたところをあたしが買って飼育する話でー」
あー、聞きたくない。聞きたくない。
半月前に言っていたのは、もしかして同人誌のネタを探してたって事?
「ふっ……。あたしのは、クリスがあたしを奴隷にしてあれこれする話よ」
どっちもひどい…。
「ところで、クリス様はもう、新作は描かれないんですか?」
「えっ!」
唐突に私に振られたな。新作かぁ。忙しいし、もう大体のものは出てるんだから今更でしょ。
「ファンの方々は、もう何年も待ち続けてますよ」
「いや、もう描かないですよ」
「そうですか…」
コロナさんがすごくしょんぼりしてる。
心なしか、両隣のアリスとメタモもがっかりしているように見える。
*
「さて、話も終わったわね。私帰るわ」
「じゃあ、私たちも帰るわ」
「そうね」
「では、お見送りしますね」
コロナさんとカリーナに見送られて、店を後にした。
カリーナが物凄く寂しそうにしていたな。また来るからさ。
そう思って手を振ると、カリーナに手を掴まれた。
「(今度は一人で来なさいよ)」
「え? あ、うん」
「(絶対よ)」
なんでそんな小声で言うのかな? 耳まで真っ赤にして…。もしかして、まだ体調が良くないんだろうか。
「今日は安静にしてないとダメよ?」
「えっ……」
「はぁ……」
カリーナが鳩が豆鉄砲を食らったよな顔をし、コロナさんが顔を手で覆ってため息をついた。
私別に間違ったこと言ってないわよね?
変な空気のまま店を後にし、馬車乗り場まで歩き始めたところで後ろから声をかけられた。
「ねぇ、クリス。私かき氷食べたいんだけど」
「そうね。こんなにも暑いんだもの。奢りさないよ」
「えぇ…。食べたければ自分で買って食べればいいじゃん。印税いっぱい貰ってるんでしょ?」
「あら、あたしの雇い主はどケチみたいね」
「こういう時、ルイス様ならすぐに奢ってくれるのになぁ…」
「じゃあ、お兄様に出して貰えばいいじゃない。帰ってからまた来ればいいでしょ」
そう言って、さっさと帰ろうと歩き出すが、今度は二人に服を引っ張られる。
「何言ってんの。クリスに拒否権なんてあるわけないでしょ。こんな小さい子が、暑いって言ってるんだから、買いなさい」
「そうよ。あたしと一緒に食べられる貴重な時間よ。感謝こそすれ、嫌がるなんて頭おかしいんじゃないの?」
ホントに、この二人はわがままだなぁ。
周りを歩く人たちが足を止めてクスクス笑いながら眺めている。
やっば。これ以上周りに人が集まったら大変ね。
仕方なく、今回は私が折れることにした。
「はぁ…。分かりましたよ」
「「やたーーー!」」
普段はマセた事してるくせに、こういう所だけお子ちゃまなんだから。




