15 最近どう?
「そういえば、最近どう?」
「唐突に前振りなく最近の様子聞くんですね」
「いいじゃない。ここ最近のクリスの様子を知っておくのは姉として当然でしょう?」
それは当然なのだろうか? まぁ、気になる事はあるからね。折角だし相談してみましょうか。
「実は、ちょっときになる事があって…」
「えぇえぇ…。聞きましょう。聞きましょう」
キラキラとした目で上半身を起こして聞く体勢になる。
「王都から帰ってきてから、結構お父様と食事に行くんだけど」
「待って。え、初耳なんだけど。私呼ばれてないよね」
「お父様が呼ぶとお金かかるからって…」
「分かったわ。後でお父様にはお店で詳しく聞かないといけないわね。で、何だっけ」
「まだ全然話に入ってないわよ」
「あ、そ? じゃあ続けて」
お菓子をバリボリ食べながら、先を促すお姉様。
「…えっと、お父様と食事に行くんだけど、行った先々で、床の模様がどうだとか、階段の段数はどうだったとか、置物のツボはどうだったとか、毎回聞かれるのよね」
「あー、はいはい。それで?」
「いや、全部答えるのよ。他に聞かれそうなことも先んじて言ったりしてるんだけど、その度に笑顔で褒めてくるのよ。どういう意図があるのかしら?」
ホント不思議なのよね。いろいろ難題出してくるんだけど、特に意味がわからなかったのは、逆さまに読んだら何とか聞かれたことね。親子のスキンシップにしては異質よね。
それを聞いていたお姉様が、ニッコリと笑顔を作り、口元に手をやる。
「ウエルカムトゥーアンダーグラウンド」
「ぷっ…」
後ろでベルさんが後ろを向き、震えながら笑いを堪えていた。
そんなお姉様は、顔を真っ赤にさせて下を向いていた。
「そんな恥ずかしいなら言わなければいいのに」
「…い、いや……、前お兄様が言っていたから……、私も言ってみようと……思っただけで………」
最後の方は声量が小さくなって尻すぼみになっていった。
まぁ、お兄様はそういうのを好んで言うから、真似すると火傷ですまないのよね。
「ちょっと、ベルシック笑すぎよ!」
「いや、未だに言う人がいるとは思わなくて…、ひひっ……、すいません…」
「まったくもう。言うんじゃなかったわ。後でお兄様に抗議しなくちゃ。あー、あっついわー。ほんっとあついわー」
手で顔をパタパタさせながら、アイスティーを何倍も飲んでいた。
冷たいものを飲んでも、その暑さは解消しないと思いますけどね。寧ろどんどんと暑くなっていくと思いますよ。
空になったポットを持って、ベルさんに話しかける。
「ちょっとベルシック、おかわりちょうだい」
「あ、はい。かしこまりました。同じのでいいですか?」
「んー、どうしよっかなー」
「他のも出来ますよ。レモンとキウイとか…」
「あ、酸っぱいのはなしで。甘いのがいいわ」
「では、おまかせでいいですか」
「いいわよ。あ、なるはやでね」
「はい。少々お待ちください」
言い終わると同時に姿を消すベルさん。
一体どうやってるんだろうね。あの瞬間移動みたいなやつはちょっと覚えてみたいのよね。
暫く、空を流れる雲を呆っと見ていた。どれくらい時間が経っただろう。
グラスに残った氷が溶けて水になっていた。
勿体ないので、そのまま喉に流し込む。ほんのりフルーツの香りがした。
あぁ、もうここから離れたくないなぁ。ここに食事とか運んでくれないかしら。
「今日はここに食事を運んでほしいわね」
お姉様も同じことを考えていたようだ。しかし、お姉様が食べる量をここに運ぶと、スペース的に足りないんじゃないだろうか。
そんな事を考えながら、お菓子のお皿に手を伸ばすと、何も掴めなかった。
起き上がり、テーブルの上を見ると、綺麗に空になっていた。お菓子のカスやナッツの欠片すら残っていなかった。流石お姉様。
フルーツティーの入ったポットも見るが、ミントしか残っていなかった。結構量あったと思うんだけどなぁ。そんなに飲んだらトイレ近くなりませんか?
「みぃ~つけたぁあああああああっ」
突如、視界の上からヌッと髪の毛を垂らしながら顔を出してきた。
「わっ!」
「んっ………」
その人物は、庇の部分を掴んで、一回転して中に入ってきた。
「もう~、こんな所にいたのね。探したわよぉ」
「あ、アンさん⁉️ どうしてここに」
「どうしてって、今日も遊ぼうと思ったのにいないからよ。さ、行きましょ」
私に安息の地は無いらしい。
「どうしてもですか?」
「だって、私、クリスきゅんと末長く仲良くしたいんだもの」
一方的な好意って疲れますね。
「ふふふ。クライブとキャロルより先に見つけられるなんてついてるわぁ…」
「お、お姉様…」
こういう時何かと反論してくれるお姉様が静かだ。
ふと、お姉様を見ると、ちょっと涙目で座ったままだ。どうしたんだろう。
「お姉様どうかしました?」
「な、なんでもないわ。き、気にせず…行ってきていいわよっ………」
「じゃあ、早めに来てくださいね」
「……え、えぇ……」
その後、遊戯室に現れたお姉様はなぜか服を着替えていた。
私より汗かいてないはずなんだけどな。




