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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第1章

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20 家族会議?

 馬車が門を出たあたりで、父が私たちを見る。

 「じゃあ、改めてどうするか話し合おうか?」


 皆んなで応接室へ入ると開口一番。

 「これはやりすぎだよメアリー。ちゃんと壁紙張り替えておいてね?」

 穴だらけの壁を指差し、メアリーを嗜める父。

 「かしこまりました。しかし、クリス様の事を思うとどうしても理性が……」

 理性があったから縫いつけたんでしょうに……。

 「それと、サマンサ……。殿下を締め上げるのはあれっきりにしてくれよ? あの時の二の舞はごめんだよ」

 「…はーい」

 すっごく不満そうに返事をするお姉様。

 よくそれで怒られないね。本当不思議。

 というか、あの時って何ですかね?

 そんな事を思っていると、急に抱きかかえられ、父の上に座らせらる。

 「えっ? お父様?」

 「あっ! ずるいわお父様」

 「いいじゃないか。パパだってたまには癒されたいんだよ。ねぇークリス?」

 そう言ってぎゅっと抱きしめる父。

 「あの、お父様?一応、私男ですのよ?」

 「男の子だってかわいければいいじゃないか」

 「ぐぬぬ……」

 その言葉にすんごく悔しそうな顔しているお姉様。

 「それに、今日一番頑張ったんだからご褒美あげないとね」

 「それはご褒美じゃないのではなくて?」

 「え? そうなのかいクリス?」

 「えぇ、まぁ…。そうですね…」

 「ひどい!」

 この親にしてこの娘ありだなと思ったのだが。

 「あなた? こんな事している場合ではないのではなくて?」

 魔王モードを解除して悪女モードになった母が父の後ろに立っていた。

 「レ、レイチェル居たのか……。居たなら言ってくれればいいのに」

 「あら。あなたなら気付いていたのではなくて? ……冗談よ。あなたがクリスに嫌がらせをしている時に来たのよ」

 「嫌がらせなんて心外な。ただのスキンシップじゃないか」

 「ふーん。スキンシップねぇ。なら私もいいわよね」

 そう言って私を父から剥がし、抱えながら座る母。

 「ふふん」

 得意げに父を見る母。

 これは逃げられないな。お母様の大きなものと腕でがっちりと抑えられてるからね。

 「クリス、次は私のところよ。わかってるわね?」

 わっかんないなぁ。何を言ってるのかサッパリだよお姉様?

 因みにお兄様はお姉様の横にいつの間にか座っていた。

 たまにはお兄様も構ってあげたらどうでしょうかねぇ、お姉様?

 「まずは、何から議論しましょうか?」

 あんまり状況を把握していないのか、とぼけているのかわからないお母様が問う。

 「お母様、クリスがあの王子と婚約してるらしいのよ。私知らなかったわ」

 最初にそれを言う?この状況で? それは別に後でもいいんじゃないかな? もっと話すことあるでしょう? この国の王子様が襲われたんだよ?

 「あら、私も聞いてないわ。どういう事かしらあなた?」

 怖い笑顔で父に尋ねる母。

 「いや、あの、その……」

 しどろもどろになる父。勿論矛先が私に向くわけで…。

 「クリスは知っていたの? 嫌じゃないの?」

 「そうよクリス。あなた、こんなに可愛いけど男なのよ? よく忘れるけど…。って違うわ。あの王子はクリスが男って気づいてるの?」

 これは言っていいのかお父様を見る。

 だらだらと冷や汗が滝の様に流れている。

 視線も明後日の方を向いているし、お父様の為にも言っておいた方がいいだろう。

 「実は、この前の視察で何故か気に入られた様で、お父様からレオナルド殿下の婚約者になったと言われました!」

 「あなた……」

 「お父様……」

 二人して絶句する。

 「それで、お父様が私に男とバレずに婚約破棄になるようにしろと仰いました」

 バッと私を抱えながら距離を取る母。

 「あなた何てことを……。これはゆっくり話し合う必要がありますね」

 「本当にお父様は婚約破棄して欲しいの? 今日上手くいけばできたんじゃない? 私反対よ、反対!」

 二人して父を責める。もっと言ってくれ。

 「いや、あの…。時期を見て言おうと思ったんだよ。本当に。なかなかいう機会がなくって……」

 「あれから数ヶ月経ってますが、いくらでもあったでしょうに」

 呆れる母となんとか言い逃れしようとする父。

 「私だって何とかしようと思ったさ。でも上手くいかなくて…。ははは……。それに、君たちに最初から言ってたら絶対危ない方法しかとらなかっただろう?」

 「まぁ、そうね」

 「そうね」

 即答したよこの二人。隠し通した方が良かったんじゃないかと今更ながらに思う。

 「僕たち家族やこの家の使用人を見ても婚約破棄しないなんて、よっぽど好かれているんだねクリスは」

 おぉ…。お兄様がちゃんと中二病モードを解除してちゃんとした言葉を話している。たったこれだけの事なのにジーンと胸が熱くなってしまった。

 でも、目がぜんっぜん笑ってないんだよね。

 「あなた? こんな事言い出したのは誰? あの王かしら? だったら話は簡単ね」

 「ほらぁ。そうなるから言いたくなかったんだよ。ダメだからね。国潰すとかそういうの。守る側の立場なんだからやめてね? ホント…」

 まったくだよ。というか、一先ずはレオナルドが襲われた事を話し合う方が重要じゃないかな?

 「あ、あのー…。レオナルド殿下が襲われた事に対して話された方がよろしいのでは?」

 話題を変えるため、母に抱かれながらもおずおずと手を上げながら提案する。

 「そんな事どうでもいいわ」

 「そんな事どうだっていいじゃない」

 「別にどうでもよくない?」

 えぇ……。父以外の三人が興味なしの反応をする。

 「それにね、クリスの婚約話の方がよっぽど重要よ。勝手に話を進めて…」

 「いや、勝手に進めたのは王と宰相なんだけど。私は必死に反対したんだよ? 押し切られたけれど」

 私は悪くないと自己弁護する父。

 「その結果がこれでしょう? 呼ばれた時私も連れて行けばよかったじゃないの」

 「婚約の話だとは思わなかったんだ」

 「何言ってるの? クリスにバレない様に婚約破棄になる様仕向けたじゃないの。隠す気満々じゃない。どうなの?」

 「はい。すいません」

 父が塩をかけられた青菜の様な感じになっている。色も青々としてる。

 私の婚約の話で父と母がバチバチと夫婦喧嘩している。

 流石のお姉様も会話に入れずに苦笑いしている。

 

 「ふぅ…」

 お母様がメアリーの入れてくれた紅茶で一息する。

 私もお母様の隣に降ろしてもらって、一緒に紅茶を飲む。あちゅい。

 ヒートアップした議論も一旦落ち着いたことだろう。

 「父上、クリスとレオナルド殿下が婚約破棄になるようにすればよいのですね?」

 お兄様が冷静に尋ねる。

 「いや、まぁ、そうなんだけど…。向こうから破棄してもらわないといけない訳で…」

 「あの時、もっと締め上げれば良かったのね?」

 本当にお姉様は物騒な発想しかしませんね。

 「そういう暴力に訴えたやり方は絶対にダメだからね。特にうちみたいな家は」

 「そっちのが簡単なのに…」

 拗ねた様に、ほっぺたを膨らましながら不満そうに言うお姉様。

 お姉様……。もしかしてお姉様は脳筋でいらっしゃる?

 というか全然、冷静になってなかった。不安が熾火のように燻ってた。

 「…はぁ。わかったわ。ここは家族で団結して、何とか王家には婚約を諦めてもらうよう頑張りましょうか」

 お母様がまとめる様に告げる。本来こういうのはお父様の役割なんじゃないですかね?ちょっと優柔不断が過ぎるなぁ。

 「それと、うちの使用人達にも協力してもらいましょう。ねぇメアリーどうかしら?」

 「はい奥様。実は、既にクリスお嬢様に相談いただきまして、我々使用人一同把握しております。ただ、現実問題なかなか難しく……」

 「ちょっと待って。え? 何で…。何でクリスはまず私のところに来なかったのかしら?」

 急に魔王オーラを出さないでくださいお母様…。

 「そうよクリス。お母様に相談するのが難しかったら、私に言うべきでしょう?」

 話をややこしくしないでくれませんかねお姉様。

 「「どうなの」」

 ステレオで責められる私。

 「いや、あの…。なかなか相談できる機会というか、勇気というか……」

 お父様みたいな説明になってしまった。

 「ふむ。これは親娘の信頼が足りなかったのかしら。うん、そうね。今夜は私と過ごしましょうか。そうしましょう、ね。まずは汚れた体と服を変えないといけないわね」

 再びお母様に抱きかかえられる。私、ぬいぐるみじゃないんだよ?

 「いいえお母様。ここは姉妹の絆が足りなかった様ですので、今夜は私がクリスと過ごします」

 どっちとも過ごす気はないんだよなぁ。

 そろそろ自由になりたいのでお母様の腕の中から脱出を試みる。

 「ねぇ、実際クリスはレオナルド殿下の事どう思ってるの?」

 お兄様……。何もこんなところで爆弾を投下しなくてもいいではないですか。

 「そうね。私たちが婚約破棄と騒いでもクリスの気持ち次第では尊重しないといけないわね」

 尊重しないでいいですよ。こんなの政略結婚以前の問題ですよ。

 「確かにそうね。あの時真剣に言っていたものね。クリスの反応も実は気になってたのよ。で、実際どうなの? やっぱりそっちの趣味があるのかしら?」

 頬を赤らめながらニヤニヤしながら問いかけるお姉様。

 頭ハッピーセットメルヘンなのかな?

 「どうなんだいクリス? 好意を抱いてるなら破棄しない方向でも…」

 そもそもの原因の父がその認識はやばいのでは?

 三人とも好意を抱いてる前提で話してない?

 はぁ…。ここはちゃんと言っておくべきでしょうね。

 「小さい弟のような感じにしか感じられませんので、恋愛対象としてはちょっと…。というか、男と男で結婚なんて無理でしょう? 特に王家は…」

 バッサリと切ってしまったが仕方ない。

 本当に弟のような感じにしか見えないんだもの。たまに男の子らしいところもあるんだけれど、泣いたり懐いたり子犬みたいな感じ…。

 あぁ、飼いたてのペットみたいな手間のかかる存在が近いのかな?

 流石にそこまでは言えないんだけれど。

 「あっはっは…。そうよね。そうよね! クリスったらこんな可愛い格好してるんだもの。実際はそっちの方が趣味だったのかと内心疑ってたのよね。ははっ、ごめん、ごめんね…ふふふっ……」

 手で口元を隠す様に乙女みたいな笑い方をしている。

 いつも破天荒なのに、こんな仕草もできるんだな。

 というか、笑いすぎじゃないですかね、お姉様?

 「それと、もし王妃になんてなったら規則と伝統で雁字搦めにされて自由に好きな事出来そうに無いから嫌です。今みたいな生活がいいです」

 知ってるんだぞ。前世の中世でのプリンセスに自由なんて無いって事を。

 そもそも王妃になりたいなんて思うわけ無いじゃない。

 面倒くさそうだし、息が詰まりそう。

 「んー。他の国はどうか知らないけれど、割りかしこの国は自由な方よ?」

 元王妃様の護衛騎士が言うんだからそうなのかもしれないけれど、自由のベクトルが違うんじゃない?

 「そうね。そうじゃなかったら、あのレオナルド殿下がこうも頻繁にクリスに会いに来るわけ無いものね」

 「そうだね。他の国だったら今頃勉強、勉強アンド勉強で忙しくて普通来れないよ。まぁ、クリスに会いたくてサボってる可能性は捨てきれないけれど」

 姉と兄がニヤニヤしながら煽ってくる。

 本当に? という疑念の表情で父を見る。

 「いや、本当だよ。うちの国はユルい方だよ。そうじゃなかったら、うちはもっと厳しくしないといけないからね」

 その言葉にほっと胸をなで下ろす。

 「そうですか。それについては良かったです」

 「でも、クリスはずっとそういう格好してるから、そういう願望とかあるのかと内心疑ってたわよ」

 こういう格好させたのはあなた達じゃなんですかね?

 まぁ、好きでこの格好を続けているんだけれど、ここはちゃんと自分の気持ちを言っておくべきだろう。

 「何言ってるんですかお姉様? こんな格好してるけど、これは自分のライフスタイルであって、結婚するなら女の子の方がいいに決まってます」

 勿論、変な柵や制約の無い人がいいんだけれどね。

 「えっ…。そんな、クリス様が私のことを…。好き…?」

 「やっぱりお姉ちゃんっ娘だったのね。いいわ一生面倒見てあげる」

 急に顔を赤らめて惚気だすメアリーとサマンサ。

 「別に二人の名前なんて出してないんですが…」

 「そうよ。クリスが言ってるのはママの事よね?」

 おかしなことを言いながらより強く抱きしめる母。

 「いえ、お母様の事でもないのですが…」

 「そうよ、お母様は女の子って歳じゃないでしょう?」

 「奥様、自分の年齢を考えて発言されたほうがよろしいかと?」

 三者三様に否定する。

 「は?殺すぞお前ら?」

 怖…。体が震えるほどの覇気で告げる母。

 「いいわ、お母様受けて立つわ?」

 「奥様に勝てば認めてもらえるんですね?」

 何でそんなヤル気満々なの? 話が変な方向に行っちゃってるじゃない。

 「じゃあ、危ないからクリスは私が預かっているからね」

 そう言って母から私を奪い返そうとする父。

 「あらあなた、先に死にたいのなら言ってくれればいいのに」

 「そうよお父様、抜け駆けはダメよ」

 母と姉の父に対する当たりがすごく強い。

 そもそも何で私を奪おうとするんですかね。理解に苦しみます。

 ちなみに、三人が父に詰め寄る時に、兄が物凄い速さで私を抱きかかえていったので、今私は兄の膝の上で四人の茶番を眺めているという不思議な状況。

 「あ、ありがとうございますお兄様…」

 「ん。大丈夫。最後に僕が勝てばそれでいい」

 「は、はぁ…」

 「クリス…。僕も今女の子の格好してる」

 はい。知っておりますとも。

 光沢のある黒のレザー風生地のゴスロリ風半袖ドレスにコサージュのついたミニハット。黒と白のボーダー柄のニーソックスに黒のおでこ靴。左目に眼帯。喉仏を隠す様に黒のチョーカーと手首にレースのカフス。今日も完璧ですお兄様。

 うちのブランドで絶賛販売中の商品ですね、はい。

 「どうだろうか?」

 お兄様の頭もあんまりよろしくなかった様です。

 「えぇ、可愛いと思いますし、似合ってますよ」

 「ありがとう…。でも、そうじゃない」

 お兄様もか…。この家に何か変な頭がピンクになる毒ガスでも撒かれてんじゃないですかね?

 とりあえず、お兄様への回答は半永久的に棚上げしておこう。

 遠い目で窓の外を眺める。いつの間にか茜色になっていた。

 もう夕方か…。そんなに長い時間、くだらないこと言いあってたんだなぁ…。

 


 その様子を黄昏ながら見ていると、詰め寄られて黒寄りの群青みたいな顔色の父が苦し紛れに話題をそらした。

 「そ、そうだ、本当は、レオナルド殿下が襲われたことを話さないといけないんだったよねぇええ、クリスぅううう!」

 こっちに振り向き、私に助けを求める父。

 どうしてこっちに振るの? また火の粉が炎上しちゃうじゃない。

 三人がぐりんと首だけをこっちへ向ける。

 「いつの間に……」

 「ちょっとお兄様、何一人抜けがけしているのかしら?」

 「まさか、ルイス様まで……」

 本当に気づいていなかったんだ。

 母が近づき、私を抱き上げる。

 「あっ……」

 お兄様から名残惜しそうな声がする。

 何故また抱っこされたのか意味がわからない。

 でも、一応父がレオナルド殿下の事を振ったので無視するわけにもいかない。

 「あ、あのお母様?逃げた賊の事何ですけれど……」

 「あぁ、そんな事?」

 事も無げな感じで呟く。そして、お母様が覗くように私を見ながら話しかける。

 「大丈夫よクリス。今頃一人か二人くらいはもう捕まえているんじゃないかしら? そうすればあとは、あの人の仕事だからすぐに片付くわよ」

 そう言って父を見る。

 「いや、まぁそうなんだけど。そうなんだけどね。いや、でもほら一国の王子が襲われたのにその反応はやばくない?」

 「何言ってるのあなた。もしかしたら、クリスが怪我をしたかもしれないし、下手したらとんでもない事になっていたのかもしれないのよ?」

 「いや、でもうちの立ち位置を考えると、それも仕方ない訳で……」

 「何言ってるの? 尚の事だめじゃないの!」

 心配してくれるのは嬉しいんだけど、心配の仕方が微妙に違和感があるんだよね。


 その後、「最後まで抱えていた私の勝ちね」と、勝ち誇った母が私を抱えながら部屋を出た。


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