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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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08 それは芸人がやるバラエティの企画のように


           *      


 門の前に馬の繋がれていない馬車に一際太いロープが繋がれていた。

 てっきり人力車みたいにバーを取り付けるんだと思ってた。


 このロープで引っ張るの? 危なくない?

 そう思っているんだけど、お姉様とソフィアは何の躊躇いもなく馬車に乗り込んでいく。足りないのは危機感か、それとも(オツム)の方だろうか。

 プロフィアさんは、両手を握りしめ何かを呟いた後、十字を切った。やっぱり怖いんだろうな。身近にいる人がそんな態度を取るんだ。これは辞退したほうがいいんじゃないかな?


 そんなエリーはというと、無邪気に笑いながらこっちに向かって手を振っている。

 「ほらぁ、クリスちゃん? 出発するから、早く乗っちゃってぇっ」

 うわぁ、どうしよう。もう絶対に行きたくない。私絶叫マシン大っ嫌いなんだよね。遠足とかで団体行動だから強制とか言って無理やり乗らしたアイツ絶対に許さんからな。お陰で今も足が竦んで動けないもん。絶叫マシンというより絶命マシンになるんじゃないだろうか?


 「何やってんのクリス? 早くしなさい」

 「わ、私は家で待ってるんで四人で行ってきてください」

 「そうやってすぐホームシックになるんだから。大丈夫よ。日帰りだから」

 違う。そうじゃない。ホームシックになんてなってないし。


 えぇ…。マジかー。拒否権ないのかぁ。

 この馬車に四点式のシートベルトとエアバッグ付いてないかしら? おっぱいじゃないヤツね。あと、ヘルメットとネックブレース。あと、最低でも肘と膝のサポーターが欲しいわ。確実に怪我する気がする。


 しかし、ここでウダウダ言っても結果は変わらないので、腹を決めて乗り込む。

 御者席を背にする方しか空いてなかったので、そこに座る。隣にはお姉様が座る。

 「それじゃあ、行くわよぉ~~~~!!!」

 間延びした声があの世への誘いに聞こえる。

 お姉様が扉を閉めたのを確認したのか、ゆっくりと動く気配がした。


 しかしその直後、グンッ! と背中が座席に沈み込むほど強力な重力が加わる。呼吸が出来なくなる程の圧だ。

 これはやばい。やばい! やばい! やばい! やばい! やばい! あかん。これはあかん。

 何がって? 未だ嘗てこれ以上死に近づいたことがあっただろうか? 目の前の全てがスローモーションに感じる。そろそろ走馬灯が見えるだろうか?


 「きゃああああああああっ」

 ソフィアが悲鳴を上げながら顔から私の前に飛んでくるが、すかさずお姉様がソフィアの顔面をアイアンクローで止める。そして何かからブロックするように抱える。正直、悲鳴を上げたいのは私の方なのだが。

 小さくどこからか「チッ」という音が聞こえた。


 そのままソフィアはお姉様に抱えられた状態でいる。私もお姉様も縦に何回も弾む。天井に頭をぶつけないかヒヤヒヤする。

 プロフィアさんはというと、青い顔をして、何とかしがみ付いている。今更もう遅いが、主の行動を何としてでも止めてもらいたかった。


 そんな馬車の中で、私の頭の後ろの方でダダダッ、ダダダッ、ダダダッ、ダダダッ、ダダダッと地面を穿つ音が聞こえる。

 キシキシ、ガタガタという音が次第に大きくなっていく。そして、バキャッという音が両サイドから、それぞれ二回鳴ったと同時に馬車が地面に叩きつけられる感覚がする。


 どうやら、エリーの引きに馬車の車輪が耐えられなかったようだ。最初は叩きつけられた衝撃でバンッ、バンッと馬車がバウンドする。そして、縦揺れが小さくなると、ズザザザザザザザザッという音と共に馬車は地面に擦り付けれた。


 馬車の壁面は歪み隙間が段々と大きくなっていく。そしたら最後。馬車が止まる頃には馬車はただの瓦礫になっていた。

 瓦礫の中から何とか這い出すと、門からそんなに離れていなかった。

 エリーはというと、遥か前方で小さな点になっていた。かなり早い段階でロープが千切れたようだ。

 体感では永遠に感じられるが、実際には一、二分くらいしか経っていなかったらしい。

 もう一生分の恐怖を味わったが、楽天的な考えをしていた彼女達に是非とも責任の所在を伺いたいものだ。


 「あ、あはは、あはははははははははははっ!」

 お姉様は笑っているが、笑い方がぎこちない。恐怖で笑い出したのだと思いたい。

 プロフィアさんは額の前に握った両手を付けて何かブツブツとお経みたいに呟いている。修羅場を結構くぐってそうだけど、よっぽど怖かったのだろう。

 ソフィアはというと、流石に泣いていた。気持ちは分かる。私も泣きたい。

 「うぇええええっ。こんなの普通死んじゃってるよぉおおおおっ!」


 当のエリーはというと、ダダダダダダッという轟音と共に走ってきた。

 私たちから1キロくらい前から両足を前にして止まる姿勢をする。

 ズザーーーーーーーーーーッという音を鳴らしながら、地面を削るようにして丁度私たちの前で止まる。石畳の舗装に轍ができている。

 「あらぁ、ごめんなさぁい。こんなに脆いなんて思わなかったのぉ」

 悪びれもせず、軽い失敗をしちゃったわ。という感じで話すエリー。もっとこの惨状を見て反省して欲しい。


 物凄いけたたましい音がしたのだろう。発破解体かと思う程の騒音だ。屋敷中の使用人とメイドが何人も様子を見に出てきた。最後にお父様が苦い顔をしながら出てきた。


 「あの、その…。遊ぶにしても、もうちょっと安全なものを選んで欲しいんだけども……」

 お父様? これが遊びに見えますか? エクストリームスポーツでもこんな事やりませんよ?

 「ま、まぁ大事無いようだが、危ないからもうこんな事はやめなさい…」

 うちの屋敷的には大事無いように見えるんでしょうね。言われなくてもやらないわよ。


 とりあえず、お姉様が事の顛末をお父様に説明している。話を聞くにつれ、顔は引きつり青くなっていく。まぁ無理もないだろう。

 後ろでは、何人かのメイドさんが、ソフィアとプロフィアさんを慰めている。

 一番反省しないといけない筈のエリーはうちのお父様を品定めしている。もう、エリーに関しては何も考えないようにしよう。 


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