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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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07 ヒロイン


           *      


 「そうよ。それだわ。何で忘れていたのかしら…」

 神妙な顔でぶつぶつ呟くソフィア。

 確かに乙女ゲームならヒロインがいるよね。悪役令嬢がここにいるんだもの。


 そこで、お姉様が軽く首をかしげてソフィアに質問をする。

 「ねぇ、そのヒロインってどういうの?」

 「はい、()()()()。ヒロインってのは物語の主人公ですね。用意されたイケメンと恋をしたり、逆ハーレムを築いたり、悪びれもせずに婚約者のいる男を奪ったり、罪のない可憐で素敵な悪役令嬢を叩き落としたり、国を乗っ取って転覆させたり様々ですね」


 もうすっかりお義姉様呼びが定着しているし、お姉様もすんなり受け入れてるんだな。

 しかし、後半の説明は悪意に満ちている気がする。全員が全員そうじゃないでしょうに。

 流石にお姉様も全部を信じなかったのか、苦笑いしている。

 「全員がそんな悪い人じゃないでしょうに。まぁ、物語の女主人公ってことよね。小説とか漫画で読んだから分かるわ。私が知りたいのはどういう人かってことよ」

 お姉様も成長したんだなぁ。こういう時に変なこと言わなくなってきてるもん。


 ちなみに、例の薄い本などでお姉様はハーレムも逆ハーレムもそれ以外の専門用語も熟知していたりするので、変に言い回したり、誤魔化したりしないほうがよかったりする。メイド達とそれ系の話をしているのを聞くと同じ言語を話してるはずなのに、理解できないことがあるもの。


 そんなお姉様に聞かれてソフィアは知っていることを話し始めた。

 「《マーガレット・シェルホワイト》彼女が今作のヒロインよ。よくある設定なんだけど、シェルホワイト男爵家の当主が他所で遊んだ女性との間にできた子供で、母親が亡くなった後は、王都の教会で暮らしていたんだけど、学園に入学する前に、その男爵に引き取られて、めでたく貴族になるってのが一応の設定なのよね。元気で誰にも分け隔てなく接して、例え相手が王族でも臆せずに話しかけることが出来るキャラね」


 わー。よくある設定じゃん。

 そもそもの疑問だけど、何で主人公なのに、他所で遊んで出来た子なんだろう…。もっと、普通の生き方してきた人でもいいと思うんだけど、それだとお話しにならないのかな?

 「でもね…」

 そこで、ソフィアが一旦区切り、言いにくそうにする。


 「シェルホワイト家の当主だった、ロン・シェルホワイトはもう亡くなっているのよ。実際、結婚もせず、遊び好きで、方々で子種を撒いていたなんて言われている男よ。金遣いも荒いって有名だったらしいわ。実際に子供が居てもおかしくはないんでしょけどね」

 お姉様がソフィアの言葉を引き継ぐ。

 マジか。ロクでもないやつじゃん。


 「そうなのよね。鉄道をうちから王都まで繋ぐ際に、あの辺の丘陵地帯を避けるとシェルホワイト家の領地北部を通らないといけないから、この前お父様と挨拶に行ったのね。そしたら、前当主の老夫婦が領地を収めてたのよ。めちゃくちゃいい人だったわよ。この人達からあの悪評の男が生まれたなんて信じられないくらい」

 「子供もその男一人だったから、跡継ぎがいないのよね…」

 ソフィアの話にお姉様が補足するように割って入ってくる。

 きっと、可愛がりすぎて自分勝手な人になっちゃたんじゃないかな? 一度も叱られたり説教されたりした事ないんだと思う。ある意味、不幸よね。


 「で、そのヒロインを誕生させるには、シェルホワイト家が迎えに行かないといけないんだけど、当然、今の当主は知らないのよね。だったら、私たちが迎えに行って、養子縁組の手伝いをしてあげればいいんじゃないかしら?」

 グットアイデアとばかりに両手をパンと叩いてドヤるソフィア。

 そんな回りくどいことしてどうすんの?


 「クリス、あんまりパッと来てないでしょうけど、そのヒロインにレオナルド殿下を奪って貰えばいいのよ」

 「あ…、あぁ〜、なるほど…」

 「たまにクリスってポンコツになるわよね。そういうところが可愛いんだけど。まぁ、私としては、正直クリスが自力でどうするのか楽しみにしていたけど、ここ最近そんな素振りを見せないから、もしかして婚約者を受け入れるのかと思っていたわ。まぁ、世の中には男同士で結婚する物語もあるけど、うちの国ではどうなのかしらねぇ?」

 「いや、ここ最近バタバタ忙しくって」

 「それは言い訳にならないわよ? 一緒に遊んだりしているし、いつでもチャンスあったじゃない? お姉ちゃんとしては、そのまま見守ろうと思ってたのよ?」


 いやぁ、中々婚約破棄に持って行くヴィジョンが見えなくて。

 しかし、この話を蒸し返すといろいろとめんどくさいので話題を切り替えよう。

 「そ、そういえば、何でエリーはヒロインの事聞いてきたの?」

 「逆ハーレムを達成するには障害になるじゃない? できる限り早めに芽は摘んでおこうかと思ってね」

 エリーは味方なのか邪魔をしたいのか分からなくなってきたわ。


 「ということで、今から行きましょ!」

 「え? 今から? 何の準備もしてないよ?」

 「そうよ。王都なんて今から行ったら一泊するじゃないの」

 私とお姉様が軽く抗議をするが、エリーは意に介さない。


 「んふふ…。それはぁ、馬車で行ったらの話でしょう? 私が馬の代わりに引いて行ったら一時間くらいで着くわよぉ」

 なんというパワー系。しかしアリかもしれない。まだ、十一時前なので、夕方頃には帰ってこれるかもしれない。しかし、一時間で到着ということは、相当スピードが出て危ないのでは?


 しかし、流石はエリーの従者。プロフィアさんがやんわりと否定する。

 「あ、あのエリー様? 流石にその方法は危ないのでお止めになったほうが宜しいかと…」

 「あら、気にしてくれるの? でも、大丈夫よぉ。鍛えてるもの」

 違う。エリーじゃなくて私たちの方を気遣っているのよ?


 「いえ、そうではなくてですね…」

 「あら、戦車を引っ張ったことあるからぁ、馬車くらい余裕よぉ」

 「いえ、強度とか、お嬢様方が危ないのではないかと?」

 その言葉に少し考える仕草をするが、すぐに口角を上げ自信満々に自分の胸を叩く。

 「んもぉっ! 壊れる前に着けばいいのよねっ! プロフィアはただアグリーしてくれればいいのよぉ」

 最終的にはエリーの有無を言わさない圧力に屈したプロフィアさんは、諦め天を仰ぐ。

 ちょっと、諦めないでもう少し粘ってよ? 何か話聞いてたら不安しかなくなったんだけど。


 そんなエリーの言葉に、お姉様もソフィアも顎に手をやり考えている。

 「じゃ、それでやってみましょうか」

 時間対効果(タイパ)を考慮した結果、お姉様が面白そうとの事でその方法が選ばれた。

 後悔しても知らないよ?


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