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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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02 嫌な予感


           *      


 そんな私は今、今日も朝ご飯時から一緒に居るソフィアと二階の自室でお茶を嗜んでいる。ほぼ毎日通っているが大変じゃないんだろうか?

 「毎日よく朝早くからご飯食べに来るわよね? 大変じゃないの?」

 「別に大変じゃないわよ。それに今のうちにポイント稼いでおかないといけないからね」

 ポイント? 汽車に乗るとマイレージでも貯まるんだろうか? 貯めて何か欲しい景品でもあるのかな?

 そんな他愛ない会話を続けていると、窓から心地よい風が吹いてくる。油断するとうたた寝してしまいそうだが、そうなったら最後ソフィアにどんないたずらされるか分かったものではないので、油断は出来ない。


 本日のお茶菓子は柏餅だ。まだ五月にはなってないが、だんだんと初夏を感じられる季節になったので、洋風のお菓子より和菓子のがいいかなと思って用意してみた。

 多分、人によってはつぶあん派、こしあん派といるかもしれないが、私個人としてはみそあんと桜あんが好みだったりする。皮も白の他に緑にピンクと見た目にも華やかよね。ちなみに柏はアジア圏にしかないのに何故かうちの庭に生えてたのよね。その辺の設定が甘いのかしらね?


 そんなソフィアは濃いめのお茶と柏餅を両手に持って食べている。公爵家の令嬢ともあろうお人がそんな食べ方していると怒られますよ?

 ま、ここにはそんな人はいないんですけどね。

 「この世界で和菓子が食べられるなんてね…」

 「材料があれば何でも作れるわよ」

 「じゃあ今度塩豆大福作ってよ」

 「チョイスが渋いわね…」


 皿の上に乗っていた柏餅をペロリと平らげたソフィア。朝ご飯をあんなに食べたのによく入るわねと感心していると、おしぼりで手を綺麗に拭いた後、高級そうな手袋を嵌め出した。貴族令嬢なら当たり前のことなので特に気にしていなかったのだが、ソフィアが上目遣いでお願いをしてきた。


 「この前の汽車でのごたごたで私の手袋ダメにされたじゃない?」

 「あぁ、あのくだらなかったやつね。はいはい」

 泥棒が重要な書類を盗んだと思ったら、ソフィアが描き途中の同人誌の原稿と私のアレを握った時の手袋………。そこまで思い出して嫌な予感がする。

 「だからね、もう一回握らせて欲しいんだけど…」

 ソフィアが動く前に勝手に体が動いた。


 天井の隅に忍者の如く張り付く。いや、自分でも驚いてるのよね。いつの間にか出来るようになっていたからね。お陰で不測の事態に対応出来てよかったわ。 

 「ちょっとそんなとこ行ったら触れないじゃん!」

 「触られたくないからに決まってるじゃん!」

 「な・ん・で・だ・よぉ・おっ!」

 癇癪持ちの駄々っ子みたいに地団駄を踏んでいる。いや、だってそんな変態な要望喜んでやるわけないじゃん。バカなの?


 「ねぇ、お願い、お願いよぉっ!」

 「……………………」

 正直、鍛え方がまだ足りないのか、腕がプルプルしてきた。流石にドレスを着てこれはつらい。

 「ふふ。流石のクリスもドレスを着たままじゃ重いでしょ。諦めて降りてきなさいな」

 無駄に洞察力あるんだよなぁ。でも、捕まるわけにはいかないので、ここは逃げることにしよう。

 窓側にはソフィアが陣取っているので、遠回りだが屋敷内を通って逃げることにする。


 大きく扉の方にジャンプし、横に三回転程衝撃を逃がしながら着地し、そのまま扉を開け玄関ホールの方へ走っていく。

 まさかあんなに遠くへ着地すると思わなかったのか、初動の反応が遅れるソフィア。

 「ちょっとクリス、廊下は走ってはいけないわよ!」

 廊下を走りながらそんなこと言われても説得力に欠けるが、走っているところを見咎められても困るので、廊下の壁や柱をマリ○よろしく、ジャンプしながら移動していく。


 ははは…。忍者になったようで気分がいい。玄関ホールまで来たので、あとは階段を一思いに越えれば出口だ。

 そう思っていたんだけど、入り口にはお客さんがいるようだ。大柄なフリフリのドレスを着た男性エリーこと、《エリザベス・エンジェルシリカ》と、執事服の綺麗な女性 《プロフィア》さんの二人だ。

 行儀が悪いと思うが、気づいたときにはもう飛んでしまっていた。でも、あの二人相手なら別にいいだろう。

 二人の前にしゃがみ込むように着地する。


 「8点!」

 「んー、7点」

 「じゅ、10点」

 どうやら満点ではないようだ。いや、問題はそこじゃない。随分とノリがいいなと思ったが、声は三人分聞こえた。右の方を見ると、お姉様 《サマンサ・オパールレイン》が腕組みしながら歩いてきた。お姉様的には8点なのか…。

 「元気なのはいいけど、その格好で二階からジャンプするのはどうかと思うのよね」

 「はい、ごめんなさい…」

 「気をつけてよね? もし、クリスが怪我したら階段を吹き飛ばさなきゃいけないんだから」

 「「えぇ……」」

 私とプロフィアさんがドン引きして声を出してしまう。エリーはと言うと、うんうんと頷いている。どうやらエリーはお姉様と同じ思考の持ち主らしい。


 すっくと立ち上がり、エリーに向き合う。

 ………。何か前より大きくなった? 縫い目がめちゃくちゃ解れて所々穴が空いている。

 「あれ、エリー…もしかして太った?」

 どうしてこんな事を口走ってしまったのか…。でも前よりも何倍も膨らんでいたから気になってしまったのだ。

 気がついたら左の方に吹き飛んでいた。


 「やだぁ、もう! 乙女にそんな事言っちゃメッ…よ? って、あら、クリスちゃん?」

 「きゃああっ! クリスっっっっ」

 「ちょっ!」

 上の方からソフィアの声が。入口の方からお姉様の声が聞こえた。


 どうやら、『やだぁ』の辺りで肩の辺りを叩かれたようだ。エリー的に軽く叩いたつもりだったんだろう。しかし、猛獣の戯れ合いには慣れていないので、残像が見えるレベルで吹き飛ばされた。

 私じゃなかったら、骨が粉々になっていたわよ? 吹き飛んだ壁から瓦礫を除けながら這い出てくる。あーあ、ドレスが粉塵で白んでいるわ。


 「エリー何てことするのよ!」

 「ごめんなさい! 吹き飛ばすつもりなんてなかったのよ。ホントよぉ。いつも部下たちにやるのと同じ感じでやっただけなのよぉ? 吹き飛んだのは初めてなのよぉ…」

 「あんたの部下って筋肉ダルマみたいのばっかじゃない。そんなのとクリスを一緒にしないでよね」

 「ごめんちゃい」


 首を締めながらお姉様が怒っているが、そんな事したらお姉様も私の二の舞になるんじゃないだろうか? しかし、それは訪れないようでただただ平謝りしていた。

 いつの間にか追いついたソフィアが駆け寄ってきた。

 「だ、大丈夫?」

 「うん、まぁ…」

 ソフィアを見ると、鼻の頭が赤くなっている。一回どこかで転んだんだろうな。

 しかし、そんなソフィアからじりじりと後ずさりする。

 「こんなとこでやろうとしないから」

 そりゃそうか。流石にその辺の分別は出来ているわよね。


 肩や胸に付いた破片を払い落としながら、エリーの方に歩いていく。

 「ごめんねぇ、クリスちゃん。痛いとこはない? 痛い痛いの飛んでけ〜してあげるからね?」

 「それで痛いのなくなった試し無いわよ」

 ソフィアがすかさず突込みを入れる。

 「いいえ、エリー様がやると、より痛みが増します」

 「プ、プロフィア?」

 まさかの後方からの攻撃に戸惑うエリー。

 やっぱりなという感じでジト目をするお姉様とソフィア。


 しかし、そんな事よりも、二人は何しに来たんだろう? その疑問をお姉様が代わりに聞いてくれたようだ。

 「エリー、何しに来たのよ?」

 「あらぁ、用もなく来たらいけないのぉ? サマンサは狭量ねぇ」

 「すぐ叩く奴に言われたくないわ」

 「はい、すいません…」

 語尾を伸ばさずに素直に謝るエリー。流石にやばいと思ったんでしょうね。

 「丁度いいわねぇ。実はぁ二人に言っておきたい事があってぇ」

 一体なんだろう? ここ最近の展開からするとロクでもない事なんだろうな。



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