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10話 そんなん勝手に決めればいいじゃん!

 昂ったテンションの振りどころに困り、二人を振り返る。


「誰もが不思議な力に目覚めたわけでは無い、ということかな……」

「……そう、なのかも」

「えー……ガン萎えだわ」


 と言うことは、外にいる化け物的には格好の餌じゃん。

 救井君と癒仕さんが選ばれし勇者なら、俺はそこいらの背景を血と臓物で染めるモブじゃん。


 え、どうしよう。

 パニック起こして真っ先に死ななきゃいけない役回りだったらうまくやれるかな。

 潔く諦めて地味な死に方しちゃいそう。


「……でも、おかげで確信は得られた」

「恵?」


 モブ人生を悲観しながらも、その役割を全うできるか苦悩していると。

 何やら癒仕さんが穏やかでない雰囲気だ。


「英雄。やっぱり、その炎で外の怪物たちを何とかしようとするのは、絶対に反対」

「恵! けど、誰かが―――」

「どこまで、責任を持つの? 持てるの?」


 あー……なるほどね。


「責任って……」

「今ここで率先して危ないことしても、それはいつまで、何度すればいいの? それが続いた時、英雄は助けたここにいる人たちに対して、どこまで面倒を見るつもりなの?」

「それは……」


 それなりにソフトな言い回しだが、癒仕さんの言いたいことを察するに。


「まー、俺みたいに特別な力がないやつは、救井君達に寄生しちゃうかもね」

「寄生……?」


 二人の会話に割って入ると、俺の表現が気に入らなかったのか、癒仕さんに冷たい目で睨まれた。

 そんな怖い目で見られると、心臓がヒュってなる。

 でもせっかくだから言い切っとこ。


「俺も助けてもらったけど、あんな化け物たちどうにかできるんでしょ? 一回助けられたら、じゃあ次も。また次も。助ける側は引き返せなくなって、リスクだけが増えてリターンは無し。手を差し伸べるのをやめれば『見捨てるのかー』って、ごねるだろうなぁ」

「……もう、いい」

「恵……」


 うぅ、俺がしゃべるたびに癒仕さんのボルテージが上がってるっぽい。

 救井君も俺の妄想話に困惑しつつも、癒仕さんの様子が気になってるっぽいし。

 もう一押しで爆発しちゃいそうだけど、大事な事っぽいし最後に一言だけにしとこ。



「俺が救井君なら、その他の足手まといは見ないふりして、その力は隠して。大事な人とさっさと逃げ出すかな」

「やめて!」

「ぷぇっ!?」



 揺れる大脳、押し出される眼球、口から出る自分のものとは思えない……いや、見栄張りました、まさしく俺っぽい情けない声。

 それはもう、見事なビンタを喰らいました。


「あんたに英雄の何が分かるの!?」

「恵! やめてって!」

「すみませんごめんなさい申し訳ありません」


 遅れてほっぺたがヒリヒリする。

 全然加減無しにぶっ叩いたんだろうなぁ。

 は? 泣いてねーし。ただの生理現象だし。


「自分よりも他の誰かを第一に考えて、優しい人なの! 英雄は! そんな人によくもそんな言い方……っ!」

「ちょっ」

「恵!」


 怖い怖い怖い!

 いきなり何なの!?

 追撃のビンタきそうなんだけど、起き攻め気味で!


 ……あ、いや。

 ベ、別に女の子のビンタで尻もち着いたわけじゃないんだからね!?

 す、少しよろけただけなんだから! 勘違いしないでよねっ!


「自分の幸せよりも、他人の幸せを優先できる人なんだから!」

「落ち着いて! 恵!」


 だめだ、救井君が抑えてくれてるけど、癒仕さんの迫力とビンタの痛みで、俺の中に秘められたツンデレとドМの境界線が曖昧になってしまった。

 平静と自分を取り戻さねば。


 とりあえず、もう余計な口出しは――


「いつだって!全部を助けられるように一生懸命考えて――」

「いや、引き換えに一番近くにいる癒仕さんをボロボロにしてるだけじゃん。全部は助けられてないじゃん」

「!」

 

 ばか! もうバカ! 俺のバカ! 地雷があると好奇心でつま先突き出しちゃうのなんでなん?

 それに、オーディエンスとして発言した俺の言葉が、救井君に刺さっ――


「え。ちょ、え、救井君? 癒仕さん(猛獣)解き放たれて―――」

「言うなぁーー!!」

「ぶへっ」


 それは腰の入った良いパンチで。

 共鳴するようにばるんばるんと暴れる、推定Hの視覚的ヒーリング効果を上回る物理ダメージに、今度こそマジで尻もち着いた。


「そんなの! お前なんかに! 関係! ない!」

「いや、あぶっ! ちょ、ばほっ! まっ、げふっ!」


 からの流れるようなマウント。

 この子、立ち技に精通しすぎじゃない? 格闘技経験者の方?

 そうじゃなければ日本の義務教育マジ怖いって。


「何を優先するかなんて! 他人のあんたが英雄君に指図するな!」

「いだだだだ! してない! してないから! そんなん勝手に決めればいいじゃん!」


 更には胸倉と髪の毛掴んできたよ。

 ていうか、絶対これ注目集めてるよね。

 二人みたいな特別な力を持たないモブの俺が、この体育館と言う閉鎖的な空間で、集団生活を無難に暮らしていく上で弊害になりかねないよ。


「二人には助けてもらった恩はあるけど、俺的には危ないことやるなら勝手にどうぞだし! お邪魔する気なんてございませんん!」

「この、恩知らずーーー!」


 いやどないせーっちゅうねん。

 あー、このヒス女まじ腹立ってきた。


「つうか、お前がムカついてんのはそっちのイケメンの方だろ! どうしてほしいかなんて直接言え! 遠回しにのろけられてるみたいでキモいんだよ!」

「っ! この……!」

「うるせー!」

「ひぁっ!?」


 いい加減勘弁ならない俺は、理不尽な暴力とその痛みの元を取るように、マウント体勢で頃合いよく目の前にぶら下がるHの実を鷲掴みにしてやった。

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